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第二十回 『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』と『さくら』 前編~G から Uへ~

 今回はUにゲーム化してほしい企画について、無駄に道草食みながら書こうと思う。

 

 最近読んだ、山田詠美の『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』って小説がすごくよかった。春樹の『色彩を~』、龍の『55歳からの~』って、三人の大御所が同じようなテーマで作品を書いてるから、比較して読んでも興味深い。そこで俺の歪んだ視点から妄想の文学論を書いてみる。

 

 と言いつつ書き出しは今更の『1Q84』なんだけど。
 前から言おうと思ってたけど、NHKの集金人である父親は、リトル・ピープルが支配する権力構造を最下層から支える役割を担ってんじゃないのかな、と。
 NHKは言わずと知れた国営放送であり、この国のマスメディアの代表とも言えるだろう。国民は強制的に受信料を徴収され、法的な拘束力があり、そこに利権も存在する。実際は未払い世帯も多く不公平感があるが、逆に未払い世帯があるから集金人という職も存在する。だから税金から徴収みたいな義務制度に変わってしまったら彼らは職を失い人件費もかからなくなるため、その分実は受信料も安くなるという自己矛盾を抱えている。自己保身で矛盾しながらも権力構造を支える集金人は、ドア一枚向こうで住民を威圧するが、姿は見えず直接手を下さない。そして死後も、彼らの呪いは解けない。マンションを徘徊する幽霊、拘束力の虜となってドアノックし続ける。
 この父親は我々一般人の暗喩であり、人々を物理的・内面的に支配する権力構造や思想から(死後まで)逃れられない様を表現していると俺は思う。これを言葉で解説するのではなく、主人公を不安に陥れる不吉で曖昧な存在として、混沌を混沌として提示できるのが物語の良さだろう。わかりやすく解説されてもつまらないし、単純化して白黒付けるのは逆に危険だ。

 

 繰り返すが、物語はわかりにくくていい。なぜなら現実は白と黒に単純化できないから。現実のわかりにくさに苛立って早計な白黒を付けないよう、読解力と想像力を鍛えるのが物語の役割の一つだと俺は思う。龍やAmyに比べると最近の春樹は説明描写が(当社比で)ひと匙多めな気もする。
 わかりやすい(勧善懲悪的)物語は、読解力も想像力も特に育まない。例えば中東情勢、複雑すぎて当事者たちも全体像を把握できないし、全てを解説するのは無理だってのはよく聞く話だ。民族と宗教の歴史が複雑に絡み合い殺し合う事情を、考える力を削ぐ教育で善と悪にあっさり白黒付けちゃいたいと権力者たちは思っている。例えばいつの間にかひっそりと有志連合に加盟しちゃってるこの国は正義だゾって言い張りたいワケだ。
 加盟の理由は長い物には巻かれろって対米従属が主だけど、自己保身したい権力者にとってそんなのは当然なんだろう。政治家が裏金もらってるのももう当たり前すぎて、むしろこの国の新しい道徳は「権力者が自己保身に走るのは生物として当然なので、権力者から利権をもらえるよう努力する人も多いですが、それが嫌な人もいます。あなたはどの立場を選びますか?」って、結論は各自が考える教育から始まるんじゃないのかな。
 更に俺の歪んだ目には、中東情勢はアメーバたちがシャーレの中で食い合いしている風景に見えるから、もはや反射的な殺し合いに善悪って物差しを持ち込むほうがナンセンスだ。卑劣な行為って断罪できそうなのはせいぜい、アメーバたちをシャーレに閉じ込めてそこに養分を供給し、顕微鏡で観察しては何がしかの利益を得る研究者の側に対してくらいだろう。
 あなたは研究者側、アメーバ側、人質側、その他たくさん側、どういう立場を選びますか? それが簡単に善悪を決めない、混沌でリアルな道徳教育だろう。

 

 こんな話したのには続きがあるからなんだが、俺の妄想ではAmyの『明日死ぬかも~』は、実は西加奈子の『さくら』って10年前の小説を元ネタにして、最近のわかりやすい物語にカウンター食らわしてるんだと思う(ちなみに前回の『殉愛』にもさくらって出てくるね)。つまり、新旧・直木賞対決だ。
 西加奈子って直近で直木賞取った作家で、最新作について(Uが好きな)椎名林檎ともテレビで対談したり、俺が好きなchappieのpal@popもインスパイアされて「さくら」って曲を書いちゃったり、俺の好きなせきしろって作家(「バカサイ」等)と共作してるし、期待して買ったんだけど残念ながら俺のための小説では全然なかった。面白くない人の日記みたいだった。
 もちろん度々書いてるけどクソ食うハエも好きずきだから、俺みたいな小理屈バエの好むクソじゃなかったってだけで、西加奈子自身は素晴らしい作家だと思うが、実は椎名林檎との対談もすっごい違和感あった。まず最新小説で最も伝えたかったテーマを作者本人がテレビで声高に力説するのも俺はどうかと思うんだけど、結局テーマは「信じるものを自分で決めよう」だそうで、気付いたらナレーションの深イイ朗読がカットインし、主人公のセリフ「信じるものを自分で決めよう」ってそのまま言っちゃった。あ、本文中にもちゃんと書く人なんだね、小説なのに。なるヘソ~、うん、親切。今それが一周回って逆に新しい発明、なのかな? 決して読者をバカにしてるとかじゃなくてさ、ホラ、ちゃんと口で言わなきゃキモチ伝わんないゾ、タッちゃん、え、南? って俺、だれ?
 こういう作家が今の読者には受けるから賞も取れたんだろうけど、俺としては最近の映画の予告編と一緒で、その番組だけでお腹いっぱい一冊読み終えた気にはなったよ。あとしきりに「小説は長くて辛い。歌は短くてすごい」ってこぼしてたけど、そりゃ言いたいことが結局「信じるものを自分で決めよう」13文字だったら上下巻は長いだろうよって、申し訳ないけどテレビに突っ込んだよ。大体、書く側が長くて苦痛だったら、読む側にとっちゃ長すぎて拷問だよ。作者がいくら短いって思っても、大概の読者には長く感じられるモンだろうからさ。
 本来ならこんなの内面で愚痴って終わりなネタだったんだけど、Amyとの比較ですっごい気になったから、ネットであらすじ調べて飛ばし読みで無理やり目を通した。以下、『明日死ぬかも~』と『さくら』に共通するキーワードをネタバレ全開で列挙する。

 

・両親、兄、妹、弟等が出てくる家族の喪失と再生の物語
・過去に起こった出来事を振り返りながら進む
・何事にも秀でていた伝説的な兄が突発的な事故に遭う
・兄の死が家族に重大な影響を与え、それを乗り越えるために家族が支え合う
・母がアルコール依存症になる
・書き出しが似ている(『さくら』は父親の手紙。『明日死ぬかも~』は祖母の格言)
・人じゃない何か(犬や幽霊)が自然体で唐突にしゃべり出す
・ゲロの話が出てくる

 

 ざっくりこれだけの共通点がある。んでこっからは俺の完全な妄想だ。もし俺がAmyだったら「なんだこりゃ? あたしだったらこう書くわ」つって、上記のポイントを深く深く想像して掘り下げたら超面白い小説できたから、「やばいわ、これ出版したい」ってなるね。例えばアルコール依存症でも、二つの作品では描写の精度が段違いだ。『さくら』ではただの文字でしかないそれが、『明日死ぬかも~』では身を切るほどのリアルとして描かれている。震災を経た今、俺にとって読んでよかったと思える作品だったよ。

 

 残念。無駄に道草食みすぎてまたもお腹いっぱい。ゲームのゲの字も書けなかった。後編へ回すことにしよう。

 

 さて、今回はこんな感じ。どうかな?

 


「はみだしウマシカさん その7」

 次回、俺が定期的に更新してるこのリストに関連する無数の痛みについて書きたいと思う。被曝との因果関係を問うのはわかりやすい物語だが、汚染水漏れでも「発覚後、はっきり因果関係がわからないうちは公表しなくとも、隠ぺいにはあたらない」らしいから、因果関係なんて問うだけ無駄だろう。それよりも「顕在化されない痛みに名前を付ける」ことが文化の持つ大切な役割の一つだと俺は思う。それこそが俺の好きなわかりにくい物語だよ。

 

■福島県民健康調査 子供の甲状腺検査

 甲状腺がんの「悪性・悪性疑い」 計117名

 そのうち「手術し甲状腺がんと確定」 計86名(術後良性と診断された1名除く)

 

■作業中に亡くなった原発作業員

 2015年1月20日 48歳 容器と架台の間に頭を挟まれ(実名報道あり)

 2015年1月19日 55歳 高さ約10メートルから転落(福島第二 実名報道あり)

 2014年8月8日 60代 死因非公開(大動脈解離?)

 2014年3月28日 55歳 土砂の下敷き(実名報道あり)

 2013年2月27日 50代 心肺停止(死因非公開)
 2012年8月22日 50代 急性心筋梗塞
 2012年1月9日 60代 急性心筋梗塞
 2011年10月6日 50代 後腹膜腫瘍による敗血症性ショック
 2011年8月30日 40代 急性白血病
 2011年5月14日 60歳 心筋梗塞(実名報道あり)

 

■作業中に亡くなった除染作業員
 2014年1月25日 58歳 運転していたローラー車ごと転落
 2013年11月19日 46歳 ユニック車の下敷き
 2013年10月12日 61歳 バックホーが土手から転落 
 2013年5月21日 30歳 クレーン付きトラックにはねられる
 2013年3月22日 51歳 油圧ショベルカーの走行用ベルトに右足を挟まれる
 2013年2月28日 54歳 突然倒れ、意識不明の心筋梗塞
 2012年1月17日 59歳 
 2011年12月12日 60歳


この本の内容は以上です。


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