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その朝


「真夏の昼の姫展」初日の朝。まだギャラリーのかたもいない会場で、私はひとり夢の中のような気分でいました。

これから最後の準備をして、ドレスに着替え(おお)、chimmieさんを迎えて打ち合わせもしなくてはいけないので、ぼーっとしていたのはほんの数分だったと思うのですが、不思議な時間でした。

 

ギリギリに入手したフレームにおさまったイラストは、大小あわせてカラーが5点、モノクロが8点。小物やアクセサリーは、数がまとまれば販売したかったけれど、そこまで作れなくて結局陳列するだけになりました。

 

青山さんのコラボレーションバッグは2点、実物をみたときには一気に心拍数があがった、見事な出来栄え。イラストの主線に金糸で刺繍がほどこされていたり、ワイヤー製のバラが縫い付けられていたり、いくえにもレースがかさなって、ビーズがちりばめられていたり、どれだけの手間と時間がかかっているのでしょう。そしてなにより、そんな姫姫しい(なんて言葉はありませんが)モチーフが、少年がもつような肩掛けのメッセンジャーバッグのような仕立てのバッグになっていることが嬉しく、「こんなバッグみたことないでしょう!」と自慢して歩きたい気分です。もっともこれから6日間、自慢しつづけるわけですが。結局これには値段がつけられず、最終日に私とchimmieさんが頂いてしまうことになるのですが…(欲しがって下さったかた、本当にすみません)。

 

あれもこれも、並べてみれば結構な数のものをこしらえていて、もちろん心残りはあるけれど、当初思い描いていたものはなんとかほとんど実現させることができたことは驚きです。あらためて、一人ではできなかったなあとしみじみ思います。

 

そんなことを思いながら、ようやく思い切って(これでもやはり思い切りが必要なのです)ドレスに着替え、カツラをかぶってみると、ああ案の定動きにくいことこの上なしです。しかもガラスごしに朝の通勤中の人たちとうっかりすれば目があいそうになります。私はいいけれど、相手は一日をなぞにつつまれて過ごさなくてはいけなくなるので、できるだけ目立たないところにいなければ。

 

そのとき突然、ドアを叩く音。どうやら出なくてはいけない!あわてて動こうとしたとたん、いきなりドレスのすそを踏みつけて、とっさに「後ろに倒れないとまずい!」と尻餅をつきました・・・。しょっぱなからこれです。

訪問者は宅配業者のかたでした。お世話になっている編集部からの、見事な花!これから続々、会場は花でうめつくされていくのですが、それにしても当日一番に転ぶとは・・・。しかしおかげで懲りたのか、ドレスで転んだのは後にも先にもこれ1回ですみました。

 

 

 


 

荒療治で目も覚めたところで、chimmieさんも到着。完成したお菓子に大騒ぎしながらキッチンを整えるうちに、当日の助っ人として再びSさんや青山さんも来てくれました。いよいよ、本当にいよいよ、開場です。


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最終更新日 : 2010-09-09 14:37:36

初日、開幕

10時、いよいよ姫展の開幕です。

この猛暑で朝からお客様は汗だく、ご来場されたらまずは冷たい薔薇緑茶をサービス。これはことのほか皆さんに喜んでいただけました。chimmieさんが入手した薔薇のつぼみと緑茶のブレンドは、水だしとは思えない香りの高さなのです。

表の扉には「ご自由にお入りください」と書いた大判のポスター。SさんのアイデアでDMをいれるポケットをつけました。これは集客効果抜群で、追加するたびになくなって、このDMを手に「気になったから…」と戻ってきてくれるお客様たちも。イラストを全面につかってくれた阪本さんにも感謝感謝です。

嬉しかったのは、お昼やすみに近所の会社のOLさんたちが、お財布とIDカードを片手に「顔はめ」めあてでやってきてくださったこと。結局2日続けて塗りえをしに通ってくださるかたたちもあらわれました。

初日にはお休みだった島中さんに、それをお話したところ、「近所のOLさんが入ってくれたことなんてなかったんじゃないかなあ」と言われたときには、思わず胸の中でガッツポーズしました。

 

初日はやはりご来場者が多く、完全にスタッフとして働いてくれる友人たちの接客のうまさにも感嘆することしきり。ぬりえはお子様にも大人にも好評で、思った以上のかたが長いこと「はまって」くださいました。それから意外と盛り上がったのが仮面。ひとつつけてみると、思いのほか似合うというので、皆さんひとしきり全部つけてみては写真を撮ってくれます。これがガラスごしにみえるので、また通りすがりのお客様の興味をひくという、なかなかの好循環。

 

当の私はというと、なにしろトレーンの長いドレスをひきずって歩いているため、お茶をだそうとか何かをすすめようとすると「ああ、私がやりますから動かなくていいです」と気をつかわせる始末で、文字通り何もできない姫様状態です。でもこの姫様装束のおかげで「わあ、姫がいる!」と皆に喜ばれて、気分はテーマパークの人気キャラクター。別に何かのコスプレではないので、「姫」というアイコンの強さをまざまざと実感することになりました。どこのイラストレーターが、自分の個展にたまたま入ってくれた見知らぬ人に、「一緒に写真とってください」「撮らせてください」と言ってもらえるでしょうか・・・いや、有名作家ならもちろんあるでしょうけれど。

子供、特に小さい女の子にはやはりドレスが大うけで、ずっと後ろにくっついて、結婚式の子役よろしくドレスのすそをかかえて歩いてくれるボランティアちゃんまで登場しました。女の子は小さくても、目ざとくネイルアートやアクセサリーをみつけてしげしげと眺めるのです。普段甥っ子ばかりみている自分には新鮮です。

 

多忙な中を駆けつけてくれた、お世話になっている編集さん、イラストレーターのお友達、学生時代の友人、ネットで知り合った人、そしてたまたま通りかかって吸い込まれてくれたはじめましてのかたたち。たくさんの方にご来場いただき、初日はあっという間に過ぎていきました。


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最終更新日 : 2010-09-09 09:18:45

しあわせの日々

2日目からは基本的には一人でギャラリーをきりもりしなくてはなりません。前日の使えないぶりを実感しているので、どうなることかと不安でしたが、頼る人がないとなれば何とかなるもの。初日に比べればお客様のペースもゆったりで、しかもかなりの部分をセルフサービスで動いていただけたので、大問題もおこらず、楽しい時間を過ごさせていただくことができました。

2日目はふりかえってみると、男性と女性が半々くらい、しかも特にこの展示をご存知なくおいでくださった方もいらして、意外と男性も大丈夫なのかも?と思ったりしました。嬉しいのは、2階から上の展示に参加している人たちが「1階がすごいらしいよ」と口コミで広めてくれて、交互にみにきたり、自分のお客様を誘導してくださったりしたこと。なにぶんこちらは一人で、しかもこの衣装を担いで上に行くわけにはいかず、結局ほかの展示を見られずに終わったのは心残りです。

お菓子も順調に売れていますが、一番目を引くのはやはり「黒薔薇クッキー」。一人で立ち寄って下ったかたも、お茶をかたわらに、塗り絵に没頭したり、書庫で雑誌を読んだり…一瞬「ここ、どこだっけ?」と思うような空気が流れて、だんだん自分がドレスを着ていることの違和感も減ってきたのがおかしいです。

3日目も比較的ゆったりと過ぎました。とはいえ家族連れや旅行中の方、すでに常連ぽくなった方、お仕事がらみの方やお世話になっている先生など、お客様は常にいらっしゃるので、退屈することもありません。時間があればあるだけ、ないときはないなりに、普段は会えないたくさんの人とお話することができて、いろいろ迷惑はおかけしたものの、期間中は在廊することにして本当によかったなと思いました。

そうそう、家族連れといえば、期間中何度も「この子がこんなに集中している姿をみたのははじめて」という言葉をききました。塗り絵に没頭したり、パズルをしたり、女の子の好きなことというのもあるのでしょうが、「姫さまっぽい空間」にいるということが、彼女たちに影響したんだろうなあという気がします。女の子は「よそゆき」が結構好きですからね。

 


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最終更新日 : 2010-09-09 09:51:53

しあわせの日々2

4日目の印象は「女子」です。いえもちろん男性もいらっしゃったのですが、なんというか、女の子のもつ「楽しむ才能」のようなものをひしひしと感じた1日でした。たとえば、ポスターをみかけたお嬢さんが、お母様に「こういう展示があるから行ってくれば」と知らせてくれて、母娘それぞれにご来場いただいたり。買い物帰りにと、閉場まぎわに寄ってくれた仲良し3人組は、それぞれ小物や塗り絵や書庫に陣取って、思い思いの楽しみに集中したり。

見ようと思えば、結構こまごまとしたものがたくさんあるので、ちょっと腰掛けたり荷物を置ける場所がふんだんにあるのはやはりいいです。そして今日も懐かしい顔、サプライズな訪問、たくさんのしあわせがありました。それにしても「姫」とよばれることも、写真をとられることも、声をかけることもだんだん板についてきて、自分で鏡をみるまでこのいでたちを忘れていたりと、どちらが日常だかわからなくなってきました・・・。


5日目は土曜日です。週末ということもあって、今日は心強い助っ人がまたまた登場です。Sさんと、3人でなにかとつるんでいるMさん、本当は二人で個展に寄ってくれて、そのあとは遊ぶ予定だったと思うのですが、結局そのままスタッフのように働き続けてくれました。そして土日スペシャル、chimmieさんが登場。白桃と薔薇のブラマンジェを提供してくれます。ちなみにchimmieさん、「あたまを盛る」テーマにあわせて、パティシエのあの帽子を花で飾り付けてきてくれたのですが、これが実にお似合いです。

白状すると、金曜、土曜あたりは、ドレスというよりも底上げしているポックリ状のサンダルをはいているのが大変辛く、「今日くらいはちょっとヒールのあるサンダルでいいか・・・」と思ったりしたのですが、いざ会場につくと「だめよ、私は姫なんだから!」とやや意味不明な闘志がわいて、結局全期間、衣装は当初のまま貫くことができました。・・・まあ、自分で勝手にやったこととはいえ、この頑張りが何かの足しになっていてほしいと願わずにはいられません。

 

そういえば期間中一番きかれた質問は、「このシャーペンの絵を描くのにどれくらいかかるんですか?」とともに、「そのドレスは自前ですか?」でした。…イラストとドレスが同列あつかいです、ドレスが圧勝でなくて本当によかった。「ドレスも作品よ」と言っていればそれでいいかもしれませんが。

土曜はサプライズゲストが多かったです。OLのころにお世話になったかたや、お仕事をご一緒しながらまだお会いしたことのなかったかた。週末ということで赤ちゃん連れも多く、またお母様と共にという方も結構いらっしゃいました。度肝をぬかれたサプライズといえば、カツラやぬりえの相談をさせてもらったOさんが、元タカラジェンヌ、星組の星風エレナさんをお連れ下さったことでしょうか。本職の姫を前にカチコチに、その後舞い上がっている私に、星風さんは「ドレスのすそは移動するときはこうやって…カツラの手入れをするときは…」とニコニコ微笑みながら教えてくださいました。ああ、折角の教えを無駄にする姫ですみません!!

折角といえば、折角きていただいたのだからと、お仕事関係の方や友人同士でなにかご縁がありそうなかたをせっせと紹介したのですが、そこからも意外なつながりがみつかったり、その後お仕事が依頼されたりと、広がりがあったのは嬉しいかぎりです。

 

そして閉場後。明日のパーティーについて、chimmieさんと話していたところ、手伝ってくれた友人たちが「明日のレイアウト変更、やったほうがいいんじゃない?」と言い出してくれまして…あ!そうか!レイアウト変更か!もしかしてそのために青山さんが仕事帰りにかけつけてくれたのですね!?どこまでおんぶにだっこなのか…!「バッグは汚れるといけないから壁にかけたら」「こっちも座れるスペースをつくろうよ」じゃあ塗り絵のスペースとバッグを移動して・・・」相談しながら手際よく、細腕が(本当に)家具をちゃきちゃき移動していく様は、ため息ものでした。

いえため息をついてないで働きましょうね、私。


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最終更新日 : 2010-09-12 21:53:26

最後の宴

最終日、クロージングパーティーです。この日のみ、入場料1000円(予約不要)。chimmieさん特製お菓子に軽いおつまみ、ドリンクがつきます。実は直前になって、「1000円だと少し物足りないかも・・・半額にしますか?」といわれていたのですが、うーんそれじゃあchimmieさんの人件費もでないでしょう…。というわけで急遽、「300円で販売している図録をお土産にもっていっていただく」というおまけつきに。前日つくったパスがわりのシールも用意して、パーティー準備開始です。

本日は総力をあげてとりくむということで、DMをデザインしてくれた阪本さんがメイドとして参加!だれのといって私のテンションが一気にあがっています。chimmieさんの相棒Tさんも厨房ヘルプとして到着。二人で手際よく仕込みをしていきます。そしてすでに専属スタッフのようになってしまった友人Sさん、撮影をお願いしているカメラマンの野呂さんもスタンバイ。この方、あまりに態度がカジュアルすぎて、一部のお客さんに「写真が趣味のアキバ系の人」と思われていたといううわさも…ち、違います!メジャーな仕事をいっぱいしてらっしゃるプロカメラマンさんです!スナップをとりまくっているのは大サービスなのです!

 

今日は有料だしね、と比較的のんびり構えていたのですが、午前中からお客様はぞくぞくご来場。朝一番に来てくださった宝塚仲間のKさんたちには、「あの、私たち華道部だから、お花を少し生けかえましょうか?」といっていただき…はい、お察しの通りお言葉に甘えて、6日目で大分くたびれてきていたお花をかなりきれいに整えなおしていただきました。こんなに毎日親切にされていると、もう庶民の暮らしに戻れなくなるのではと心配です。

 

最終日は日曜ということもあって、結局それなりの人数がお越しくださり、一番知り合いも多かった日のため、かなり多くのかたと十分お話できないまま終わってしまったのが心残りです。特に夜になってのご来場も多く、最後はほとんどかけあしのようなご挨拶になってしまいました。それでも、皆様それぞれが本当にお互いうちとけて楽しく交流してくださっていたのがとても幸せな光景で、このままパーティーが終わらなければいいのに!と思ったほどです。

 

chimmieさんの仕事さばき、接客も見事で、ホテル仕込みの立ち居振る舞いはほれぼれする美しさ。焼き菓子やおつまみの他、冷菓も出してくださり、さらには「しろぐるめ(私のレシピブログです。←宣伝)」のレシピ、某コンテストでグランプリをとった(←自慢)アボカドポタージュまでメニューに加えるという大盤振る舞い。

会場には、姫展のパーティーだからと、コスプレというかドレスアップしてくださった友達もちらほらいて、非常に華やかかつあやしい雰囲気です。少量ですがお酒もあって、カウンターで話し込む人、テーブルでくつろぐ人、展示を見て回る人、やはり塗りえや顔はめも人気で、どなたかが言ってくださいましたが、賑やかなのに本当に「ピースフルな空間」のまま、閉場時間をむかえることができました。

 

 

・・・さて、ここで大団円としたいところですが、この後の展開が個人的に大変感動的でした。閉場時間になってもなかなか帰らない友人たちに、(ああ、打ち上げとか、ゆっくり話せる時間を待ってくれているのかな…でも私は荷物と一緒に赤帽トラックに乗らないといけないから…)と、その旨伝えようとすると、皆がそれぞれ「いや、搬出を手伝おうと思って残っているよ」と。

さすがにこのときは泣けそうになりました。搬出にも、青山さんや阪本さんのご友人が手伝いにきてくれることになっていて、少し手は足りないかもしれないけれど十分なんとかなるだろうと思っていたのです。

いざ扉をしめると、皆がすごい勢いで働きはじめてくれ、梱包された品々は次々とダンボールにつめこまれ、私がドレスを着替え終わった頃にはあらかた片付いているという手際のよさでした。

実はこのパーティーのあともギャラリーには次の予定がはいっていて、あまり時間がなかったのですが、最後は皆でいただいたお菓子や、飲み物でひといきついてトラックを待つほどの時間がありました。

 

ここまでしてもらったのに、この時点で頭の飽和していた私は、ちゃんと会計もできずにとにかくやってきたトラックに乗り込み、皆に見送られながら渋谷の、幻のお城をあとにしたのでした。

 


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最終更新日 : 2010-09-10 20:33:07


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