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 わたしは良樹くんが好きだ。

 良樹くんは頭が良くて足が速くてクラスの人気者だ。

 良樹くんはわたしと机を向かい合わせて給食を食べる時、よく難しい

話を聞かせてくれる。わたしには意味のわからない話ばっかりだ。良樹

くんは鋭いから、わたしが理解していないのを見抜いている様子だ。で

も、良樹くんは、そんなことは関係ないと言わんばかりに話を続ける。

良樹くんは冷たくて思いやりがない。それでも、わたしは良樹くんが好

きだ。

 良樹くんは人の数を数える時、一人、二人ではなく、一匹、二匹と数

える。それがふざけて言っているのではなく、自然体で言っているから

不思議だ。

 良樹くんは授業を受けている時、先生の話を聞かずにノートに落書き

をしていることが多い。そのノートを見せてもらうと、首や手足をおか

しな方向に曲げた裸の人たちが上手に描かれていた。良樹くんは絵も得

意だ。

 良樹くんは学校の帰り道、わたしには聞きおぼえのない歌を口ずさん

でいることがたまにある。ある日、それはなんという歌なのかを尋ねて

みると、「暗やみ殺人パーティーという歌」と、無表情に教えてくれ

た。自分で作ったと言っていた。良樹くんは音楽の才能もある。

 

 わたしの通っている小学校には、行方不明になっている生徒や先生が

何人かいる。みんなわたしの知っている人だ。同じクラスの子も何人か

含まれているし、何ヶ月か前までわたしのクラスの担任をしていた先生

も含まれている。

 実は、わたしはその人たちが、殺されてしまっていることを知ってい

る。かといって、それを人に言うつもりなんてない。

 良樹くんが好きだからだ。

 でも、警察の人たちがいろいろ調べているのも知っている。

 もしかしたらもうすぐ、良樹くんとわたしは今のように同じ教室で勉

強をすることができなくなるかもしれない。離ればなれになる前に、自

分の気持ちを伝えなければいけないと思った。

 わたしはある日、勇気をだして良樹くんを体育館の裏に呼びだした。

太陽の光がほとんど当たらない場所だ。そして、好き、と告白した。

 良樹くんは驚いた芝居をする様子もなく、面倒くさそうにこう言っ

た。


「ぼくは君の名前を知らない。君の気持ちもどうでもいい」

 わたしはあまり傷つかなかった。良樹くんならそう言うと思っていた

からだ。

 突然、良樹くんがわたしに体当たりをしてきた。わたしは尻もちをつ

いた手提げ袋の中身が飛び散る。

 良樹くんはナイフを手にしていた。そして、わたしの上に馬乗りにな

る。

「全部で五匹かな、殺された人間の数は。その人間たちは、裸にされ、

手足を折り曲げられて、埋められた。人間たちが埋められた場所は、こ

こ、この暗い体育館裏の土の中だ」

 わたしは殺されるのかもしれない。それは残念だけど、良樹くんにな

ら殺されてもかまわないとも思った。

 良樹くんは手に持ったナイフを振り下ろした。わたしは六匹目の死体

となるのだろう。


 しかし、良樹くんはわたしを殺さなかった。ナイフはわたしの顔のそ

ばの地面に突き立てられていた。

 そのナイフは、わたしが良樹くんを殺すために用意しておいた、お気

に入りナイフだ。

 良樹くんを六人目の死体にするために用意したナイフだ。

 良樹くんは鋭いから、わたしのやったことを全部知っていた。わたし

が人を五人も殺し、ここに埋めたということを知っていた。そして、そ

れを絵に書いてくれたし、歌まで作ってくれた。

 わたしは良樹くんが好きだ。

 大好きな良樹くんを殺すまで、警察に捕まりたくはなかった。

 残念だ。



この本の内容は以上です。


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