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弥三郎婆

弥三郎婆

暗い夜道を旅姿の侍が歩いていた
侍の名は弥三郎 
長い長い武者修行の旅から なつかしの我が家がある
一本柳まであと少し 自然と足も軽やかになっていた

山崎にある橋のたもとへとさしかかった
すると、ぐるる、ぐるると野犬のうなり声が・・・
どうやら囲まれているようだ
弥三郎辺りをぐるりと見回すと
のそりのそりと狼どもがススキの間から這い出してきた
その狼のひときわ大きな一頭にまたがって
ボサボサに乱れた白髪頭をふりみだし灰色のボロをまとった鬼婆が
「若いの、ここを通りたくば  身ぐるみ全部おいていけ
 さすれば命はとるまいぞ」
「嫌だと申せば・・・」
「ならばこやつらの 飢えた狼の餌食となるだけよ」
「おもしろい 武者修行の総仕上げ
 目に物見せてくれようぞ」
鬼ばばがひょいと狼から飛び降りて ひょうと指笛を吹き鳴らすと
狼は次々背の上に乗り重なって 見上げるばかりの高さになった
コレを見た弥三郎 腰の刀を抜き放ちゆっくりとに構える
鬼婆はゆっくりと腕を上げ さっと振り下ろしたかと思うと

わうわうわうわう
狼どもが一斉に弥三郎へと飛び掛る
天から地から四方八方
襲い掛かる狼どもを 紙一重でいなしながら
弥三郎は刀を振るう
ずばっ
ずばばっ
あぉん
あぉおん
弥三郎が刀を振るうたびに 狼は悲鳴を上げてどうと地面へと落ちる


仲間をやられた狼は 遠巻きに弥三郎を取り囲み
ふるるふるるとのどを鳴らして威嚇する
「婆ぁ、無益な殺生は心が痛む
 おとなしく素直にわしを通さぬか」
 婆は弥三郎の言葉にわなわなとふるえる
 すわ眼前に指を立て
 なにやらまじないをとなえると 弥三郎へ向けて振り下ろした
よくない知らせを感じたか 弥三郎はとっさに身を伏せた
すると びょうとばかりにうなりをあげて
見えない刃が弥三郎の胴のあった辺りを通り過ぎ
背後のススキをなぎ払う
「おのれ奇怪な技を もう容赦はせぬ!」
 弥三郎は立ち上がると婆めがけて走った
 婆は見えない刃で
「コレでもか!コレでもか!」
 と、斬りつける
 弥三郎のはかまのすそが たもとが
 見えない刃に切り裂かれる
 しかし弥三郎はすんでの所で見切りをつけ
 鬼婆に迫る迫る そしてついには
「ぎぃやぁああああぁぁぁああぁぁぁぁあぁ・・・」
ぎらり 白刃がきらめき、
ぼたり と、婆のしわだらけの腕が
はなれたところに落ちた
鬼婆ァの腕から血しぶきが噴出す
「おおう、おおう、あなくちおしや
弥三郎 弥三郎・・・」
「む、婆ぁ、
どうしてわしの名を知っているのだ」
しかし婆ぁはうつろなひとみでうわごとのようにこういった
「思い起こせば幾星霜、
 天へと帰る羽衣を
 なくしたばかりにこの人生
 渡会の殿に見初められ
 わずかばかりの安らぎを
 得たかと思わば戦乱の
 戦にて殿は露と消え
 忘れ形見の弥三郎
 追っ手を避けて逃げ隠れ
 ようよう妻を娶らせて
 できた世継ぎに安堵して
 見送るわが子の武者修行
 しかれど病に見舞われて
 嫁と世継ぎを失いて
 せめても財を残さねば
 渡会の家 滅すると
 夜な夜な橋へとおもむきて
 追いはぎ家業を繰り返す」
 
「やや、
 その生い立ち、まさか・・・
そなた 母上か!?」
その一言に鬼婆はしっかと眼を見開いて
「おぉ・・・おぉ・・・ おぬしは弥三郎・・・
 見ちがえるほど立派になって・・・
すまぬことをした・・・すまぬことを・・・」
「母上! 気を確かに! 母上ーーーー!」
 弥三郎は母の体をしっかと抱きしめるが
 母はゆっくりとその目を閉じた

修行帰りの弥三郎は 
 母親のむくろを丁寧に弔い 妙多羅天として祀った
一説には生き延びた鬼婆が 新潟の弥彦山へと
移り住んだとも言われております
また弥三郎婆が追いはぎをしていた橋は
おっかな橋と呼ばれたそうな

この本の内容は以上です。


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