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●傍聴席で他人の審理を見て緊張…


1010日(水)。口頭弁論当日。出かける前に、結果がどうあれメールで報告するようにと妻からは釘を刺された。うちのポメラニアンはいつもより多めにワンワン鳴き叫んでおれを送り出してくれた。

 

10時前に現地に着いて、総合受付で開廷表をめくってみたら、おれが入る予定の308号法廷では本日15件ちょっとの裁判が予定されていた。多いとは聞いていたがやっぱり多い。11時からの欄には当然、「原告/高井次郎 被告/W出版」と書かれていた。おれは本当に裁判をやるんだなと実感。

 

しかし、よく見ると、1115分からはもう別の事件が予定されていた。おいおいたったの15分間かよ、と思ったけど、まあそんなもんなんだろう。

 

参考のため、他の裁判を傍聴してみようと思って308号法廷に入室すると、法廷のラウンドテーブルにはすでに裁判官や書記官が座っていた。司法委員は1人なのかと思っていたが、このときは席に3人もいた。皆年配の紳士だった。S書記官は電話の声から想像していた感じとは少々違った。裁判官は文学部の教授っぽいイメージの男性。おれに優しい教授であることを祈った。

 

傍聴席には病院の待合室みたいな背もたれなしの長椅子が4つほどあった。一つに4人腰掛けられる程度の大きさで合皮張り。すでに椅子には2人の先客がいた。2人ともファイルを抱えていて、それぞれ自分の事件の審理を控えた当事者とお見受けした。我々、穴兄弟みたいなものですかな、と内心で話しかけながら着席。

 

10時ちょうどになって、裁判官が「では始めましょうか」と切り出し、最初の事件の審理がスタート。しかし、被告席には誰もおらず。「被告が出席しておらず、答弁書も出ていないので、原告の主張通りと認めます」と裁判官が言い渡して、約2分で1件終了。こりゃもしかしたらおれの事件のスタートが早まるかも、と思ったが、そうでもなかった。

 

おれが待っている間に審理されたのは、マンション管理組合が賃貸料を払わない居住者を訴えた事件、自動車ディーラーが客を訴えた事件、不動産会社が荷物を置いたままいなくなった女性居住者を訴えた事件など、4件。

 

傍聴席にいた被告の関係者が見かねて発言をして司法委員に制されたり、その被告がちょっと大島優子似だったり、なんかもったいつけてしゃべり続けているんだけど結局何をいいたいのかわからなくて裁判官から「その話はまだ続きますか」とつっこまれたり、と、ちょこちょことおもしろどころがあり。完全なる無関係者として聴いていたらさぞおもしろかろうなと思ったが、もうすぐ自分がこの中に入るのかと思うと、そう冷静には聴いていられず。

 

審理が終わって次の事件に移る合間に、一人の司法委員が「この後の出版社のやつって、どうなんですかね?」みたいなことを雑談で話し始めて、俄然緊張感が高まった。それって、おれのことじゃないすか!? 「こういう(ゴーストライターという)仕事があるんですかねえ?」「いや、ありますよ」「書いたものの現物を提出してくれれば話が早いんだけどね」……などという話が、裁判官と司法委員と書記官の間で飛び交って、よっぼど「それ、私の事件なんです!よろしくお願いします!」と名乗り出ようかと思ったのだが、あいまいな微笑を浮かべるだけで、黙っていた。

 


●望外の応援団が登場!


そのうち、傍聴人が増えてきて、この人はもしかしたらおれの事件の証人かもしれんぞと身構えて、違ってホッとしたりしていたら、そのうち見知った顔の痩身男性が入ってきた。おもしろいブログを前に本で紹介させてもらったのが縁で知り合いになったNさん(ガンバファン)だった。 

 

もしかして最近は裁判傍聴を趣味にしているのかな、と思ったが、小声で聞いたら、「フリーとして、とても他人事とは思えなかったので、応援に来たんですよ」とのこと! うれしかった! 法廷画描いてよ、といったら得たりとばかりに無印のスケッチブックを取り出したNさん。さすが~~(下の画像は2点ともNさん画)。

 

さらに、その後、今回の件を初期段階から相談していた尊敬する先輩ライターのMさん、同じく初期段階から相談していた頼れるライターのOさんが登場。もう一人、Facebookで攻撃的なアドバイスを書き込んでくれていたライターのKさんも登場。Kさんにいたっては、原告や被告が使うドアから入ってくるという禁断の入室方法を採用し、当然書記官から冷徹に指導されていた。

 

とにかく、平日の真っ昼間から、4人ものフリーランス同志がおれの応援にかけつけてくれたのだった! ……感無量! 非常に心強く、たのもしく、この時点でなんとなくもう大丈夫だなと思うおれがいた。

 

少額訴訟では、原告にも被告にも控え室などというものはない。なので、時間前には法廷の傍聴席で原告と被告がいっしょに待機することになる。おれの相手たる被告はどうしていたのかというと、おれが途中でちょっと傍聴席から退出したときに、和解交渉したときの現取締役N氏が廊下にいて、すれ違った。「どうも」「よろしく」という挨拶をしたのだが、そこにはもう一人男がいた。この人こそ、メールで交渉してきた前取締役のF氏だった。

 

この人とはこれが初対面だが、一見して編集者っぽくないなという印象をもった。色黒なのか日焼けなのかわからないが浅黒い肌に、故・浜田幸一(ハマコー)氏のような質感の容貌。FAXで送られてきた答弁書の文面から少しは予想していたが、W出版は実際にF氏を証人として連れてきたようだ。これはちょっとこじれるのかもしれないなとふと思った。

 

被告側の二人が傍聴席に入室したときには、椅子はほぼ満席。おれの隣が空いたので、とりあえず余裕を見せようと被告のN氏に「ここ空きましたよ」といってやった(確かF氏は前列の端にスペースを作って座った)。しばらくは原告と被告がなかよく傍聴席の椅子に並んで座って前の審理を見守るという状況が続いた。

 


●裁判官が被告に怒った!


そのうち予定開始時間の11時をすぎたが、前の事件の審理がけっこう長引いてしまって、「では次、高井さん」と呼ばれたのは、118分くらいだったか。傍聴席から木のドアを開けて法廷に入った。よろしくお願いします、と裁判官ほかの皆さんに言ってから、向かって左手の原告席に着席した。

 

被告のN氏はラウンドテーブルの向かい側、窓際の方に座り、証人となる前取締役のF氏は、もう一つ空いていた中央の席に着席……しようとしたところで裁判官から誰何の声が。N氏が「証人です」と言ったが、裁判官は「ああ、そうですか。しかしまだ証人として認めたわけではありませんので」とスパッと切り捨て、行き場を失った前取締役は再び傍聴席へ戻る羽目となった。「おお、裁判官かっこいい!」と、おれは内心色めき立った。

 

威厳をその場全体に見せつけた裁判官が、それでは始めます、と切り出し、今回の少額裁判についての説明を開始。一回の口頭弁論の後にすぐ判決を出しますとかなんとか制度的な話をひとしきり。ということでよろしいですね、と裁判官。はいとおれ。しかし、被告からここで予想外の発言が。なんと、少額裁判ではなく通常の裁判にしてくれと言い出したのだった。これはけっこうショックだった。

 

通常裁判になるということは、今日の1回では終わらないということ。もしかしたらこいつ、弁護士をたてて本格的に争うつもりなのか、と思わせた。しかし、その口も乾かぬうちにN氏は「私どもは少しでも早い解決を望んでいます」とぬかしやがる。

 

おいおい、早い解決にするなら少額裁判だろ……。完全に矛盾してるだろ……。と思ったけど、被告には少額裁判を通常裁判に変更する権利があることは知っていたので、おれからは何もいわず、そのまま進行する感じに。しかし、心の中には暗雲がたちこめていた。


 

で、審理開始。裁判官が原告(おれ)の訴状内容をおれに確認し、被告にも確認すると、被告がしゃべり出した。自分は新しくW出版を買い取ったばかりで、原告に発注した業務の内容について詳しく知らない、ついては当時の社長をつれてきたので、証人として話させたい、との旨だった。このN氏の発言を機に、裁判官の活躍(おれにとっては)が始まった。

 

あなたはこの裁判の当事者なのにどういう契約をしたのかも知らないのか、知らないならなぜ前社長に確かめもしないのか、そんな人任せでふざけた態度で神聖なる法廷に臨んでいいと思っているのか……。このときの裁判官、かっこよかった! 矢継ぎ早に責められてたじたじとなり、いや、もちろんそういうわけではありません、とつぶやく被告は、先生に厳しく叱咤されてしゅんとなる情けない小学生のようだった。

 

結局、証人申請は認められず、前社長は傍聴席におとなしく座ったまま。それを見て、不覚にもちょっと笑いそうになった。いくつか裁判官から原告(おれ)に質問や確認があり、それに答えていったが、いま思うと、どの時点で支払をする契約だったのかという質問への答え方に不備があったように思う。

 

我々の仕事では、口頭契約のときに、支払のはっきりした期日を指定することは少ない。著者仕事で印税契約の場合は契約書を交わすことになり、そこに必ず支払い期日は入っているが、いわゆる発注仕事の場合は契約書など交わさないし、厳密にいつ支払と確認することは少ない。もちろん本当はすべきだが、よくいえば信頼関係、普通にいえばなあなあの関係でやっているものだ。そして、今回の場合もはっきりいつの支払ね、と確認したわけではなかった。

 

でも、それをはっきり認めると自分にとって不利になるような気がして、ごにょごにょとあいまいな答え方しかできなかった。当然、裁判官もそれは気づいたのだと思う。でも、裁判官はそこを追及はしなかった。

 

「契約時に支払期日を定めておかなかったということは、本が出なかったら支払わないという同意があったとみなすことができますね」とか言われちゃったら、まずいことになっていた気がする。これは推測にすぎないが、そこを追及したらこのやせぎすな被告がかわいそうだと裁判官が思ってくれたように、おれは感じた。

 

あと、思い出すのは、被告が「著者から自費出版費用の振込がないので払えないのだ」とかなんとか言いだし、ついカチンときて「それは版元と著者の話であって、ライターには関係ないでしょう!」と声を上げてしまったこと。自分の声が上ずりながら震えているのがわかったんだけど、そのときに裁判官が「まあ、とりあえず言わせてやれよ」という感じで制してきた。勘違いかもしれないが、この制止には「悪いようにはしないから落ち着けよベイビー」的なメッセージを感じた。

 

そんな感じで話し合いは進み、被告がまた何か言い始めたが、裁判官が時計を見て「もう次の事件の時間を過ぎているんですよ」と一言。そして、訴状の内容を両者が認めるのであれば、別室に移って司法委員の先生と話し合ってみてはどうでしょうかね、と切り出し、被告に対して、どうですか、認めますよね、と確認。被告は同意。

 

ということで、同席していた司法委員の先生に連れられて一同は別の階へ。原告と被告が居合わせるエレベーター内の空気はやはり重かった。このとき、なぜか傍聴席にいたOも随行してくれたのだが、これが結構たのもしかったことを覚えている。Oは180cm以上とタッパがあり、そしてこの日は珍しくスーツを着てきていたので、一見すると有能な法律家に見えなくもない感じだったのだ。

 

確か訴状を提出したときと同じフロアまでのぼって、まずは被告が司法委員とともに部屋に入室して話し合い。おれと「有能な法律家」は廊下の長椅子に座ってじっと待機。この「有能な法律家」はじつは優れた似顔絵画家でもあり、傍聴席で描いた作品を廊下の長椅子で見せてもらったら、やはり傑作だった(この本の表紙画像)。

 

そのまま待機すること約10分くらいか。被告が部屋から出てきて、今度は原告であるおれと入れ替わり。「有能な法律家」もどさくさに紛れて入ろうとしたのだが、さすがに司法委員から「あ、一人で」といわれて断念し、廊下で待機。

 

室内で司法委員から話されたのは、和解案だった。お互いに和解の道を探るために中をとってはどうかという話。つまり、被告との事前和解交渉で示された額と、おれが請求している額の中間でどうか、ということ。その線で絶対この額以上でないと飲めないという額を決めてもらえないか、と。

 

まあそうくるだろうなと思ってはいたけど、実際にそういう道筋が裁判所側から提示されると、なんとなく安心した。「あくまで初志貫徹で!」と煽るもう一人のおれも最初はいたけど、温和そうな年配の司法委員さんの声を聞いているうちに徐々に中折れ状態になっていくのがわかった。「では……25万円で」とおれは言った。それ未満の場合は和解しません、とも言った。

 

そのかわり、法廷で主張しようと昨晩書いたけれどもやはり読み上げる機会はなかったリストの内容を、ここで司法委員にぶつけた。司法委員の先生は柔和な微笑で包み込むようにうんうんとうなずきながら聞いてくれて、おれの中でなにか黒いものが溶けて消失した。

 

で、あとはもう一度その部屋に被告が入って司法委員とトーク。原告はもう一度廊下で「法律家」とトーク。廊下で書類を書いている女性がいて、その女性がなんとなく美人っぽい感じで、緊張している女性は綺麗に見えるよね、などというボーイズトークをしているうちに、今度はわりと早めに再びおれも呼ばれて「法律家」以外の4人でトーク。

 

「被告が25万円を一括で払うことになりました、それで和解ということで」、と司法委員。委員との先ほどの話し合いでは、「分割の可能性もあります」といわれていたのでちょっと驚いたけど、さすがに被告ももういいやと思ったのだろう。司法委員が被告との密室トークで何を話したのかはわからないが、おまえさんたち、いっぱいいっぱいになっているやせぎす貧乏中年ライターをいじめなさんな、と諭してくれたに違いないと思っている。

 

その後、廊下の「法律家」を含めた一行でエレベーターに乗って法廷に戻り、原告と被告が席に座り、司法委員のフィードバックを受けた裁判官が、「それでは解決金25万円を払って和解ということでよろしいですね」。「ハイ」(原告)、「……ハイ」(被告)という返事で一件落着。

 

S書記官から「調書はいりますか」と聞かれたときに、被告側の前取締役F氏が「べつにいらないす」と投げやりな感じで答えたのが印象的だったが、すぐに現取締役のN氏が「いや、送ってください」と言い直していた。

 

おれは「ありがとうございました」と裁判官にお礼をいって法廷から退出。エレベーターにはまた原告と被告がいっしょに乗り込み、地下の食堂に向かう原告側(おれとO)が、1階で降りる被告側を見送る形に。

 

前取締役F氏は無言で振り返ることもなく出て行った。現取締役N氏のほうは、振り返って会釈して帰って行った。不良債務を知っていながら残して去った前者と、それを残されただけの後者。会社買収前の債権債務については前取締役にすべて所属するという契約をしていて、今回の解決金を払うのは前取締役らしいから、そういう経緯も込みで考えると、納得の別れ際だった。

 

裁判を終え、食堂で待機してくれていた支援者の皆さん(Nさんは先に帰宅)と合流して、新橋まで歩いて立ち飲み屋で乾杯。疲れた……。

 

いま振り返ると、被告が通常裁判を望むと言ったのは結局なんだったんだろうかという疑問が残る。法廷戦略? しかし、その後で和解を受け入れるつもりがあるんだったら、そんなこと言っても無駄だと思うのだが。あの証人をわざわざ呼んでも意味はないのは最初から想像ができたとも思うし。おれにはどうもよくわからない。

 

和解という決着の場合、支払われるのは「解決金」だけで、訴訟費用については原告が負担したままで終わる。従って、25万円をゲットした(する)ものの、訴訟手続きにかかった6910円と、登記簿謄本発行手数料700円、それから訴訟書類コピー代の400円、相談や手続きのために使った何件かの交通費も含めて、おれの損ということになる。悔しさはもちろんあるが、悔いはない!

 

(追記)

他の裁判所と同じように、簡易裁判所でも法廷内は撮影も録音も禁止されている。当然おれの裁判でも撮影や録音はできなかった。しかし、そこはさすがのライター傍聴陣。なんと、傍聴席でノートに一字一句残らず速記メモを取っておいてくれたのだった。以下は、そのノートのメモを書き起こしたもの。少額訴訟の実態を感じ取っていただきたい。



平成24年(少コ)第2282号請負代金請求事件 口頭弁論録 

101011時 於:東京簡易裁判所第308法廷

 

裁判官◎それでは次、高井さんとW出版さん。高井さん、こちらに。

高井●失礼します。

裁判官◎高井さんと、Nさんね。(F氏に向かって)で、あなたはどちらさん?

被告○証人です。W出版側の。

裁判官◎ああ、そう。どうしましょうか。ちょっとまだ証人として採用していませんからね。傍聴席でお待ちください。後で入っていただくことになるかもしれません。それでは、少額訴訟の手続きについて簡単に説明いたします。少額訴訟は原則として今日1回の裁判だけで終わる手続きです。判決が出ますと、通常の裁判では地方裁判所に控訴の手続きができますが、少額訴訟ではできません。ただしこちらの裁判所に異議の申し立てをすることはできます。異議の申立がありますと、もう一度異議の審理を行い、異議の判決をします。その判決にはもう不服申立をすることはできません。被告側としてはこの冒頭の段階で、控訴ができるような通常訴訟手続きに切り替えてほしいという申し出をすることができます。申し出があれば切り替えますが、申し出がなければ少額訴訟のまま手続きを進めていきます。以上ですが、よろしいでしょうか。

被告○あのう、今回証人を呼んできたんですけれども。証人は当時、原告の高井さんとやりとりをしていたり、当時を知っている元代表でありますので、私を含め、現代表も、W出版を引き継いだ形になっており、いま会社の運営を行なっているんですけれども、当時の状況を知る人間がおりませんので、あの、できるだけすみやかにこの問題を解決したいんですけれども、なにしろ当時の事情を知る人間がいないものですから、一番よく知っているのは今日証人に呼んでいるこのFということもありまして、話の流れがどうなるのかわからないので、通常訴訟に切り替えた方が、いろいろと、あの……。

裁判官◎じゃ、切り替えるんですか。わかりました。では通常訴訟ということで。それでは、進めていきます。まず、原告さんは訴状のとおり。被告さんは答弁書のとおり、と。答弁書には具体的なことは書かれていないんですが、Fさんの方からお話をうかがってですね、現時点で原告さんの請求についてはね、どういうお考えなんでしょうか。

被告○えー、ま、あの、私どもとしては、当初会社を引き継ぐにあたって、こうした出版のところで、多少の問題があるというお話は聞いておりまして、ま、そういったことに関しては、Fさんのほうで引き続き対処のほうをお願いしますということでやっておりましたので、今回こういった形で訴状を受け取って、正直いって驚いた次第です。

裁判官◎いや、驚いたのはまあいいんですけど、私が聞きたいのはね、請求原因の内容についてね、Fさんからいろいろ話を聞かれて、現時点ではどうなんでしょうかと。

被告○そういったものも含めてですね、私どもとしてはとにかく早急に解決をしたいなと。

裁判官◎いや、そうじゃなくって。事実関係をいってるんです、まず。こういう、Yさんの自叙伝の取材とか原稿作成をね、依頼している事実はあるんでしょ。

被告○はい。

裁判官◎それは聞いているでしょ。依頼して、そのときに問題はね、報酬をどういう段階でお支払いするという約束をしたのか。

被告○そのあたりのこともすべてわからないんで。

裁判官◎あの、Fさんから聞いてるんじゃないの?

被告○一応聞いておりますけれども、いつの段階でというのは特段聞いておりませんので。

裁判官◎Fさんに聞いてもわからないということ?

被告○聞いてはおりません、そこのところは。

裁判官◎なんで聞かないの? 

被告○どういう報酬の約束がされたのかということは聞いて……。

裁判官◎なぜ聞かないの? これ、裁判が起きて、いまあなたが当事者なんですよ。どういう契約をしたんですかって普通聞くもんでしょ。

被告○そうですね。

裁判官◎なんで聞かないの?

被告○申し訳ないです。

裁判官◎今日、Fさんから話してもらうから自分はもう聞かなくてもいいっていう、そんなおつもりでいらっしゃるの?

被告○いや、そういう責任逃れみたいなことは考えておりませんけれども。

裁判官◎なんで聞かないのかちょっと理解ができないんだ。結局あなたわからないってこと?

被告○そうですね。

裁判官◎あなたがわかるのは、いまトラブルが起こっていると、Yさんの関係でこちらの高井さんにお願いして、結局出版まで至ってないので、支払の余裕がないと。そういうことぐらいですか、わかるのは。

被告○そうですね。

裁判官◎(原告に向かって)あなたとしては、当初契約したときに、こういう原稿を書いたりする場合に、本の出版に至らないとか、原稿を作っても著者になる人が気に入らないってことで最終的に出版まで至らないとか、いろんなことが考えられるんですけど、そういったものを含めて、どういった約束をされたんですか?

高井●取材をして、原稿を書いて、それを納品して、でギャラをもらうというお話で仕事をしたんですけれども。

裁判官◎原稿を書いて、Yさんに見てもらうわけですよね。

高井●それは編集者の仕事ですね。

裁判官◎ま、あなたがしなくても、Yさんに見てもらって、この辺は直してほしいとかいうことがあれば、それに従ってあなたが訂正するわけでしょ。

高井●もちろん。そういう話があれば訂正しますが、編集者のOさんという人ですけれども、彼からそういった指示はありませんでした。私が原稿を納品した後、私はライターですから原稿書き直しの指示を受けて書き直す事は当然やります。だけども、Oさんはそういったことをせずに、会社を辞められてしまったんです。OKを出してもらって、その後、Oさんがいなくなって、引き継ぐ人も誰もいなかった。

裁判官◎Oさんが辞める前の段階で、あなたの書かれた原稿はこれでOKですよっていうことは言ったんですか?

高井●はい。もちろん。あ、編集者からのOKですよ。

裁判官◎OさんがYさんとどういうやりとりをしているかというのは、あなたはわからない?

高井●そうですね。

裁判官◎ただし一度も訂正とかそういう指示はなかったと。

高井●厳密にいえば、取材をしたのが1月から3月で、最初の原稿を4月1日にメール添付し、納品しました。その後、電話でやりとりをして、じゃあこういった追加原稿を入れましょうという相談をした後で、5月8日と5月30日に、編集者の指示に従って、追加原稿を渡しています。で、この5月30日の時点で、OさんからはOKが出ているわけです。

裁判官◎そのときに、ここをこう修正お願いしますというような話は出てないんですか?

高井●はい。そうですね。その後は自分でやるからとおっしゃって、自分で手を入れて整理して、それを著者のOさんに確認をとったんじゃないでしょうか。

裁判官◎あなたとしては、もうそれで自分のする仕事は終わっていると。

高井●そうです。はい。

裁判官◎で、Oさんの後任の方から修正依頼があれば応じるつもりでいるけれども、それもなかったと。

高井●そういうつもりでいましたけれども、何の連絡もありませんでした。

裁判官◎支払を請求しても払ってくれないのは、本が出版されてないからというのが理由なんですね。

高井●まあ、そうこちらはおっしゃってますね。ただ、通常、本が出なかったらギャラは払わないよというような契約はありえませんので(そんな契約だったらそもそも仕事を受けません!)。

裁判官◎そもそも契約するときに、その辺の細かい話っていうのはしてるんですか。どういう方法でとか。

高井●口頭ですね。

裁判官◎どういう内容になっているんですか。

高井●原稿を書いて、取材をして原稿を書いておしまいだよ、と。証拠のメールの一番最初のものにあるような内容です。

裁判官◎本の出版が前提とか条件とかそういう話は出てないということですね。

高井●はい。通常、それはないです。

裁判官◎この会社と前にも同じような契約をしたことはあるんですか。

高井●一度仕事をさせてもらったことはあります。

裁判官◎そのときはどうだったんですか。

高井●普通にギャラを払ってもらえました。

裁判官◎そのときは本は出たんですか。出版されたかどうかはわからない?

高井●いや、出版されました。

裁判官◎そのときは、ギャラが入ったのはどの段階でしたか?

高井●そのときは、会社で請求書を出して、翌月に払ってもらったんじゃないかと思います。

裁判官◎本が出版された後で? それとも原稿を最終的に納品した後?

高井●原稿を上げた時点で請求はお出ししていると思います。

裁判官◎なるほど。あなたとしては、今回も同じような流れで原稿を上げた。特に修正の依頼もないから、もらえるんじゃないかと。

高井●はい。……その辺は認めていらっしゃいますよね? 私に仕事を発注して……

被告○あの、このメールと、パソコンに原稿が残っていますので、おそらく今回の訴状と、パソコンに残っているワードの原稿なんですけれども、それが一致するものなんだろうなとは思っています。ただ、どの段階の原稿なのかは、正直わからないといえばわからない。完全に完成した原稿としてデータとして残っているのか、途中のやりとりとして残っているのかは、私にはその判断はつかない。

裁判官◎それは、原稿料を払わない理由もあなたはわからないわけですか。自分の会社が払っていないというのは。

被告○私のほうで、Fさんのほうから聞いたことによると、著者、出版をしたいというYさんが、高井さんの書いた原稿を、それに対して納得ができないということで、本来であれば、初校というものをYさんに提出した段階で、契約金の半金を払うという契約だったんですけれども、Yさんのほうでそれを認めないと。これは原稿としては認めないんだ、という話になって、入金がない。で、入金がないということは、原稿として完成しているものではないのではないかということで、支払う訳にはいかない。けれども、

高井●それは著者と出版社の話ですよね!

裁判官◎まぁまぁ。

被告○というようなお話で、であったとしても、こういう依頼をしているのは事実であろうから、事実だということで、いくらかお支払いするというやりとりをしているということまでは……。

裁判官◎その、Yさんが気に入らないということであればね、どこが気に入らないのか、具体的に聞いて、じゃあ修正しましょうという話は通じないんですか?

被告○あの、その辺りの経緯について詳しいのはFですので、

裁判官◎それはあなたわからないのね。

被告○はい、なので証人として入れていただいて、そのあたりの詳しい経緯を話していただきたいと思うんですけれども。

裁判官◎……ちょっとね、もう15分から違う事件が決まっているんですよ。で、今日、Fさんから話を聞けるような時間があるかどうか、ちょっと難しいところがあるので、一応ちょっと、別室で事情を聞いて……。通常訴訟手続きなので……。じゃ、ちょっと、別室で、Fさんもまじえて、経緯をちょっと、司法委員の先生に話をしてください。で、ちょっと、和解の点も含めてお話させてもらって、で、和解の話はむずかしいってことであれば、Fさんに承認してお聞きすることはしますが、ただ、今日するか違う日にするか、それはまだちょっとはっきりしませんけどね。じゃ、お願いします。

(その後、別室で司法委員が和解案として解決金25万円を示し、両者がそれを受け入れて、和解が成立)




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著者 : 高井ジロル
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