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シューベルトの「魔王」制作秘話と演奏指導。


シューベルトの歌曲「魔王」をクラシックギターに編曲し、
Youtubeに演奏動画を投稿した火頭と申します。

本書では本作の演奏上の課題や動画制作にまつわるお話などを記します。

少しでも多くの人に自身の作品を知って頂けるよう願います。
     

まずこの「魔王」という曲についてですが、Wikipediaの情報を抜粋しました。
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「魔王」は、シューベルトが1815年頃に作曲したリート(歌曲)。

ゲーテの同名の詩に、少年期の作者が触発され、短時間のうちに歌曲と伴奏を完成させた傑作。
ドイッチュ番号は328となっている。作品番号は1が与えられているが、これはシューベルトの作品のうち、
最初に出版されたもの、を意味するに過ぎず、
シューベルトはこの作品以前にすでに多くの歌曲やピアノ曲を完成させている。

<曲想など>

Schnell(速く)
ト短調。変形したロンド形式。4分の4拍子。(ただし火頭の編曲は8分の12拍子)
序奏は右手「G」音のオクターブ奏法で、嵐の中の馬の疾走、
更に左手の音階音型でしのびよる不気味さを演出している。

単独の歌手で、
狡猾な魔王が言い寄る場面、家路に急ぐ父親、恐れおののく息子の3役を演じ分ける必要がある。
意表をついた転調とたくまざる(伴奏音型の)単純さを旨とする作者の作曲技術が
これほど効果的に発揮された例はない。

魔王の声の部分は最初平行調変ロ長調、2度目はハ長調、
3度目はハ短調のナポリ調(ナポリの六度の和音調)である変ニ長調で歌われ、
徐々に調が上昇させることで、緊張感を高めていく。

また、子供の声の部分で、ピアノと歌声部が短二度で接触するところなどきわめて斬新であり、
シューベルトがコンヴィクトでこれを試演したとき、周りの者は(老教師ルージチェカを除いて)誰も理解しなかった。

終結部にいたってAs音が急に登場する(ナポリの六度)。
一瞬の隙をついて主和音で終わる。詩の中で突如息子の死を宣告しているのと緊密に符合させている。
この終結部はレチタティーヴォ風の処理がなされており、極めて印象的である。

<記事の一部を加筆/削除しました@火頭>

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筆者がこの曲に初めて接したのは、中学校の音楽の時間でした、
授業の中で「クラシック音楽鑑賞の時間」というものがあったのですが、
様々なクラシックの名曲を聴いた中でも、この曲だけは抜群に印象に残っていました
(他には「モルダウ」くらいしか覚えていませんし)

その時に聴いたバージョンは、日本語の訳詞で歌われていて
「おとーさん! おとーさん!!」というあまりにストレートな詞が、
微妙な年齢の少年少女が集う教室内を、居心地の悪い空気へと変えたのを覚えています。

その後、17歳くらいから私はクラシック音楽にハマるようになります。
当時、エレキギターの速弾きが好きで「速さ・凄さ」を追い求める内に、
好きなジャンルが、ハードロック→ネオクラシカル→クラシックと、
見事、三段式に変化していったのです。

あるとき、ネットでヴァイオリンの超絶技巧モノを調べている時に、ヴァイオリン版「魔王」を発見します。
この編曲は、エルンストというロマン派のヴァイオリニストが手がけたもので、とてもカッコ良い編曲です。
更にギドン・クレーメルという私の尊敬する演奏家がこの曲を取り上げたということもあり  
なんとかこの曲をギターで弾けないかなぁ と試行錯誤したのを覚えています。

ところが、エレキギターは基本的には伴奏かメロディのどちらかを担当する楽器です、
伴奏しながらメロディを弾く、というのは苦手なんですね、
軟弱な少年だった著者は、じゃあ「魔王」無理じゃん、と早々に諦めましたが、
この事がキッカケで、後の私のメイン楽器となるクラシックギターの存在を知るのですね、
「魔王断念」のホロ苦い経験が、私をクラシックギターへ転向させた一因であると感じています。

それからずいぶんと時は経ちました。
結局私は、目立った功績もない普通のクラシックギタリストに落ち着いていたのですが、
ある時、自身のブログで山下和仁氏の「展覧会の絵」にチャレンジするという企画を行うことにしました。

この山下和仁氏は日本が世界に誇るギタリストで、10代当時から演奏テクニックでは世界一と言われている方です。
その山下氏が17歳の時に公開した「展覧会の絵」は今でこそ、
Youtubeで世界の演奏家達が取り上げているのですが(それでも2、3人ですけど)
楽譜が公開されてからも、20年間本人以外の誰も弾くことの出来ない超難曲として半ば伝説化していました。 
(「絵」にチャレンジしたYoutubeの若手達も世界中から賛辞の声を受けています)


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で、その難曲に私もチャレンジしてみようと思いついたわけです、
まぁ全楽章弾くつもりはなく、部分的に弾き、録音をネットで公開することで、
他に挑戦者がでてくれば面白いと考えたわけです。

チャレンジの結論としては、演奏者それぞれの技術レベルに合わせた楽譜のカスタマイズにより
「なんとかできんこともない」という感じに落ち着きました。
そのあたりのお話は、著者ブログのエントリーを見て頂ければと思います。

前置きが長くなりましたが、この「展覧会の絵」チャレンジを経て、
今までの自分にはなかった技術が身につき、その技術をもってすれば、
もっとクラシックギターのレパートリーを拡大できるのではないか?と考えたわけです。
↑発想が少年山下和仁氏そのもの、著者はアラサーですが...

早い話が、好きな曲をギターで弾きたい、これだけです。
ヴァイオリン編「魔王」に恋焦がれて十数年、ようやくそのクラシックギター版を発表することが出来、
その制作の軌跡と、演奏上の注意点などをここに記そうと考えたわけです。
(販売促進を狙っているわけではないんよ...ゲフッゲフン)

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さて、一応楽譜を頭から追って行く形で解説をして行きたいと思います。
まず何と言っても、「魔王」といえばコレ!という冒頭部の伴奏、
3連符で奏でられる「G」の音と低音の忍び寄る怖い音型。
「ここをどう弾くか」を考える所から「魔王」のアレンジは始まりました。 
クラシックギターでは2つのライン(=フレーズ/メロディ)を奏でる事は多々あるのですが、
こういう音の数が1対1の関係になっているものはあまりありません。

どうしてもそれをするなら、低音を親指一本で担当するか、今回私が選んだようにスラーで対応することになります。「魔王」はある程度速いテンポで弾くことを考えていましたから、親指一本で対応しようとすると、速度的に限界があります。冒頭から肉体的限界を試すような危険な橋を渡りたくありません。

↓こうすると速度の限界がある。

ちなみに山下和仁氏が似た局面を、爆速で弾くために編み出したのが、こういう奏法。


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な、なるほどよぉ~。
低音を親指&人差し指、そして高音を中指&薬指で担当すれば50:50、こりゃアッパレ!
...ってこれ、めちゃくちゃ難しいんです、未だにこのテクニックは山下氏以外はまともに弾けません。

しかも今回は「魔王」の顔とも呼べる伴奏型、曲中何度も使うわけですから限界ギリギリの奏法は嫌です。
大体この奏法で3連符を弾くのは無理ではないかと、それで結局スラーでの対応に落ち着いたわけです。

冒頭からこれじゃ先が思いやられますね。
ま、今回採用したスラーもクラシックギターではあまり見ない形です、
ライン1は実音で弾き続け、ライン2は1と同じタイミングでスラーで発音する、
これがこの部分のキモです、なんかこの奏法は頭がこんがらがるんですよ、見た目以上に大変です。


次に行きましょう、次は和音連打です。 
これもクラシックギターでは難しいテクニックです。
こういう連打に、ある程度の速度が乗ると右手が跳ねだすんですよね。
右手がポンポンと跳ね出すと制御が効かずにミスタッチを引き起こします。
出来るだけ、弦を引っ掻くような動きではなく、弦を握り込むような動きをしましょう。
私の演奏動画を見ても、かなり跳ね気味で制御が苦しそうなのがわかります。

次、この部分、これ低音を「p i」で弾く山下テクニック。こんなにちょこっとだけの使用でも、難しい。


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