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小さな神様と、思いの虹

 

 

 高いビルに囲まれた公園の植え込みに、小さな祠がありました。

 祠には小さな神様が住んでいて、みんながたずねて来るのを待っていました。

 小さすぎて願いごとをかなえることはできませんが、祈ってくれた思いを、相手に届けることはできました。

 

 今日も小さな神様は祠をきれいに掃除して、誰かが来るのを待っていました。
 さっそく、すずめがやってきました。
「神様。巣立っていった子たちに、私が元気にしていることを伝えてください。」
「ああいいですとも。」
 小さな神様はその思いを両手で受け取ると、小さな虹の玉にして空に投げました。

 それは青い空に吸い込まれてすずめの子のところに行きました。

 すずめの子はもうりっぱな大人になって子育てをしていました。

 届いた思いは、お母さんの温かな羽根を思い出させました。
「ああ、お母さんは元気かしら。私も親になりました。お母さんも大変だったのですね。」
 すずめの子は、自分の子ども達のごはんを取るために、力強く飛び立ちました。

 

 

 次の日は、子猫がやってきて言いました。
「けんかに巻き込まれた時助けてくれた猫さんに、お礼がしたいの。」
 小さな神様は、子猫の願いを優しく断りました。
「お礼なら、自分の口で伝えなさい。」
「でも、その猫さんはどこに行ったかわからないの。おねがい。ぼくの気持ちを届けて。」
 子猫は必死に訴えました。
「それじゃあ、届けようかね。」
 小さな神様は子猫の思いを受け取ると、小さな虹の玉にして空に投げました。

 それは雲の中に溶けて雨になりました。
 雨上がり。

 水たまりの水を飲んだ猫さんは、この前助けた子猫のことを思い出しました。

「ありがとう。ありがとう」
 何度もお礼を言う子猫の姿が喉の奥からじんわり広がって、温かな気持ちになりました。
「あの子は元気かな。会いに行こうかな。」
 猫さんは機嫌良くヒゲをひくひくさせて、子猫を探しに塀の上を歩き始めました。

 

 

 ある日のこと、珍しく人間の女の子がきました。

 女の子は小さな手で五円玉を祠の前に置くと、手を合わせました。
「神様お願いです。お父さんに会いたいの。」
 小さな神様は大きくうなづきました。
「わかりました。思いを送ればきっと、お父さんはきっと会いに来ますよ。」
 小さな神様は女の子の思いを虹の玉にして、空に飛ばしました。

 でも虹の玉はすぐに戻ってきてしまいました。

 戻ってくるということは、お父さんはこの世にいないということです。
 小さな神様の力はとても弱くて、天国まで思いを届けることはできません。

 背中を丸めて帰って行く女の子の背中を見送りながら自分の無力さに涙がこぼれました。

「ああ、あの子の思いを届けられたらどんなにいいか。」

 

 小さな神様は、思い切って近くの大きなお社の神様に相談しました。

 でも大きなお社の神様は微笑まれるだけでした。
「それはあなたが叶えて差し上げなさい。」

 小さな神様はそう言われて悔しくなりました。

 大きなお社の神様は、そんな簡単なことできるだろうと言いたげです。

「できるのならもうやってるのですよ……」

 ぽつりとつぶやきながら、大きなお社の神様に一礼して、小さな神様は背中を丸くして帰りました。

 

 祠に帰ると、いつかの子猫がいました。

 子猫はうれしそうに小さな神様を迎えました。
「神様ありがとうございました。おかげであの猫さんに会えました。」
 つんできた小さなお花を祠に供えた時、子猫は小さな神様の悲しそうな顔に気がつきました。
「神様どうなさったのですか? とてもお困りのご様子ですが。」
 小さな神様は子猫に、人間の女の子のことを話しました。

 子猫は悲しくて泣きました。
「可哀想。お父さんに会えないなんて! 僕は毎日お父さんに遊んでもらうんですよ。」
 そして子猫は「女の子がお父さんに会えますように」と祈りました。


 祠からの帰り道、子猫は友達に会うたびに、気の毒な女の子のことを話しました。
 小さな神様に思いを届けてもらったことがある動物たちは、小さな神様と女の子のために祈りました。
「女の子の思いが天国まで届きますように。」

 一つ一つの祈りは小さい物でしたが、たくさんの小さな祈りは、小さな神様の力となりました。

 

 

 次の日、あの女の子が来ました。
「お父さんに会いたいです。」
 小さな神様は女の子の思いと一緒に、子猫やすずめや烏やネズミたちの祈りを一つにまとめて大きな虹にすると、空に渡しました。


 虹の橋は青空の彼方に伸びていきます。

 

 虹を見た女の子は思わず立ち上がりました。

 七色のアーチの終点で、笑顔のお父さんが手を振っているように見えたからです。

 女の子はうれしくてうれしくて、何度も大きく手を振りました。

 

 何度も、何度も。 

 

 

  おしまい                      


奥付



思いの虹


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著者 : みずきあかね
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/akane2003/profile


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