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18歳の誕生日までの話

18になったときに母から買ってもらったケーキを見て

涙がこぼれた。

 

毎年買ってもらうのに、今年だけは少し違う気がしていた。

妹には怪訝そうな顔で見られた。

母は少し涙ぐんでいた。

 

その年に特別何かあるわけでもない誕生日に涙をこぼした理由を

考えたが特になかった。

 

とにかく私は涙を流したのだ。

 

新しく引っ越したアパートの匂い。

今年の四月に親が離婚した。

そして私は心療内科に通いだした。

 

今思えば自分のわざとらしさに笑えてしまう。

 

何故、離婚したのか。

何故、心療内科に通いだしたのか。

 

わたしにとって逃げる為の道だったのだ。

 

思い立ったのは、中学2年の夏。

父親に毎日殴られていた。

拘束された日々に嫌気がさしていた。

妹も母も何も言わずに言いなりになる意味がまったく

解らなくて悩んだ。

 

王様気取りの父親をどうにか痛めつけるために

まず、近所に知らせる為、ひどく殴られることを思いつく。

 

毎日殴られて、蹴られていたので

まあ回数増えるだけなら、どうってことないだろう。

 

実行したが、エスカレートしても近所は気づかなかった。

暴力の内容を書いたってしかたがないので割愛としよう。

とりあえず、暴力のレベルとわたしの叫び声が大きくなるだけだった。

 

母はいつでも謝ればいいといった。

弱くて、優しくて、頑張り屋で、我慢強い、

大好きな母だがその場しのぎをするたび、いつも苛立ちを覚えていた。

 

この時、妹は父親に気に入られると殴られないことと

自分は悪くないと言い聞かせることで、楽になっていたのだと思う。

 

わたしはと言うと、復讐を考えて作戦を実行する日々を送る。

 

毎日のように、離婚したら?と母に言った。

しかし、母は私達がどれだけ理不尽に殴られても

父親を憎めないようだった。

 

この気持ちは痛いほどわかる。

よく、娘は父親に似た人と付き合うだとかいう噂は

あながち間違ってはいないものだ。

 

普段よりも沢山殴られることを、心掛けてから

2年弱、私はだんだん疲れてきた。

家出をしようにも何故かできなかった。

逃げられる気がしなかった。

 

ついには、父親の顔が真っ黒に見えるようになる。

怒鳴られたり、肩から上に手を振りかざされると

震えて動けなくなってしまった。

 

そうして限界の私が考えた最終手段は自己犠牲である。

 

わたしはもう父に愛など求めてはいなかった。

良い父親に酔うために躾と称した暴力と理不尽な説教で

私達を支配してきた。

 

私が私じゃなくなれば、

 

父は、母は、後悔するだろうか。

気付いてくれるだろうか。

 

極力話さないように心掛ける。

笑わない様にする。

何も考えない。

 

これを1年続けたある日、本当に

話せなくなった。

本当に心から笑えなくなった。

 

やった!

これで気づくだろう!

 

しかし、周りに目をやると

わたしを見て憐れんでいた。

 

しまった。

これはもう戻れない。

 

後悔と虚しさの中、

不登校になった。

 

そして念願の離婚。

嬉しかった。

 

私と妹は母に引き取られた。

 

母はクモ膜下にかかり入院したが

退院し今は働いている。

 

妹は卑屈になり、母子家庭のこの家で

どこか父親に似た王様気取りをしている。

 

父親は、最近バスに乗っているとき偶然

見かけたが、あの自信満々な顔や姿勢が

別人のように弱弱しくなっていた。

 

私は、少し元気になり

学校はやめたけれど、フリーターとして生きている。

 

18歳の誕生日までの話。


燃えないゴミ

 

「もういや」

わたしはごみ箱に捨てた。

そしてそれだけでは気が済まなかったので、

ごみ箱も捨てた。

 

「もういや」

わたしは向き合わなきゃいけないものを

分厚い布で隠し、部屋の隅に置いた。

そしてそれだけでは気が済まなかったので、

その布も他の布で隠した。

 

しかし、ごみはたまる一方で

布の面積は広がるばかり。

 

とんでもない量のものに囲まれて生活した。

それでもわたしは見ないふりをした。

 

あるとき、もういやになって部屋を出た。

けれど居場所がなくなって泣きそうになった。

 

でも泣いたって、慰めてくれるものは隠したし捨てた。

もうどうしていいかわからないまま、ぼーっと空を見ている。

 

嫌でも、隠したもの、捨てたものがある部屋が見える。

 

10、9、8、7、6、5、4、3、2、1

 

 

 

 

 

 

 

わたしは、ごみ箱に入った。


彼岸花とえくぼ

私はバイトが終わったら、始発でアパートへ向かう。

オレンジの世界を電車の窓から眺めながら

派手なメイクを涙で落としながら

何時ものように彼のアパートへ向かう。

 

生まれ変わったら何になろうとか

世界の終わりまでのカウントダウンしたりとか

そんな未来のことを考える。

 

駅からアパートへの道に彼岸花の咲くところがあるので

それを1本千切って持って帰る。

この花がなくなったら逃げるんだと心に誓って。

1本しか持って帰らないくせにね。

まだまだ遠い終わりを、彼が似合うといったこの花を殺しながら

夢見てる。

 

彼が潜むアパートに帰ると

わたしはすぐにシャワーで体をゴシゴシ。

もうね、痛いくらいに。

皮膚が擦れて赤くなってしまうくらいに。

 

落ち着く香りがするバスタオルを抱きかかえる。

ダサい色のワンピース着る。

外はもう白い朝。

 

彼は狸寝入りをしていて

それに飽きたようだ。

にっこり笑うとえくぼができる。

わたしは彼の細い体に抱き着くけど

あんまりにも細いから隙間ができて寂しさが丸見え。

 

それで、また裸にされるからさ、わたしは聞こえないように溜息をついて。

また体洗わなきゃね。

 

それでまた寝る。

言葉はいらない生活。

 

朝起きると彼は遊びに行くし

可愛い女の子を車に乗せてさ。

 

よく彼が歌ってる歌をゆっくり小さく口ずさむ。

瞼を閉じていないと、わたしが消えてしまいそうだから

閉じたまんま。閉じたまんま。

 

それで、また派手なメイクをして

似合わない柄の服着る。

札束を数えるけど、やっぱり彼のえくぼに吸い込まれて

手元には何も残らないよ。

 

私はバイトが終わったら、始発でアパートへ向かう。

 オレンジの世界を電車の窓から眺めながら

派手なメイクを涙で落としながら 何時ものように彼のアパートへ向かう。

 


天使の悪魔

大きな痣ができてどうやって隠そうか考えたとき、どうにも目立つ場所だったので、

もうどこもかしこも殴られればいいと思った。

もう、真っ黒になってしまえば、わたしは自分の影に溶けてなくなってしまえるような気がしたよ。

今になってみれば、あの辛い日々だって、狂ってしまえば楽だったのかもしれないのにね。

とにかく私は必死に自分の存在理由を探した。

だけど、私が居ない世界の方がお母さんだってお父さんだって傷つかないで済んだことに気づいた。

でも、わたしのことを愛してくれるお母さんがいて

わたしのことを毎日殴ってくれるお父さんがいて

わたしができたから、二人は結婚した。

わたしが天使で悪魔。

そして、わたしは二人を引きはがした。

ごめんね。

真っ黒になって溶けたいと今でも思ってる。

お母さんの胎内に戻してください。

ごめんね。


もしも話

 

 

 

ある日わたしは消える。

そしてわたしの存在を知る人もいなくなる。

 

 

 

 

 

わたしが消える前に、わたしのいない世界を

見せてもらえるそうだ。

少しの不安と期待を胸に、おそるおそる覗く。

 

 

 

 

すると先にわたしの存在が消えた母の世界が見えた。

 

 

わたしの母は、父とは違う男と結婚して裕福ではないが貧乏でもない

生活を一人息子と共にしている。

 

 

わたしの居たアパートとはまるで違う一軒家には、母とその家族の笑い声が小さく聞こえている。

寂しいけれど、幸せそうで本当に良かったなぁ。

 

 

 

髪の毛が痛んで薄くなり、沢山のアルバイトをして、

父の罵声を浴びて、ストレスを抱えて病気になってしまった母はどこにもいなかったんだ。

幸せになれたんだ。

 

 

少し息を詰まらせながらも今度は父の世界を見た。

 

 

 

 

父は、相変わらず美容院を経営しているがやはり儲かってはいないようだった。

それに恋人もいないようだが実家で暮らしていた。

祖父と祖母に大事にされながら毎日過ごしている。

 

 

 

すると、少し照れくさそうに「いつもありがとう」とプレゼントを両親に渡していた。

その顔は、男だけど、少し可愛らしかった。

 

 

毎日上手くいかない経営のストレスで子供に暴力をふるう父はいなかった。

毎日なにかに追われ、イライラする父もいない。こどもが嫌いな父もいない。

 

 

 

 

良かったなぁ。

 

 

 

本当に良かったなぁ。

 

 

 

 

よかったなぁ



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