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ずっと

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ずっと
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人混みの中は 嫌いだったのだけど
その中であなたを見つけた あの日から、よく歩くように なったんだ。
あなたが歓楽街でスーツを きていた。
闇って暗いものだとばかり 思っていたの。
あなたはわたしに 手を差し伸べて
それから手を引き わたしをあなたのアパートに 連れていった。
ワンルームで質素な部屋
でもそこはなんだか 星空みたいな静かでキラキラ していたの。
あなたは闇を抱えているの だけど、それが何かは言わない。
光る涙が落ちるのは、なんだか 惜しい気もするの。
不確かなことばかりよ。 世の中は。
でもあなたがワンルームで 2人の世界を作るならば
わたしは黙って笑っているわ。
多分、ずっと。
fin
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イルカ

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わたしはイルカ
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彼女と水族館に行った。
久しぶりのデートだったんだけど 彼女は何時も通り無表情。
ここ一月は笑顔を見ていない。
水族館といえばイルカ。 僕はイルカの所へ行こうと 彼女の手を引っ張る。
楽しいのかな。 少し不安な気持ちを 抑えつつ、彼女を ちらっと見た。
その瞬間
見なければ良かったと 思った。
彼女の視線は、 魚やイルカではない。
ただの水を見ている。
彼女が見ている世界は 何時も青かった。
その横顔は 生気がなくて とても綺麗だ。
今日知ってしまった。 彼女の空虚に、胸が痛む。
僕は、彼女の首を絞めた。
最後に、彼女はふわっと 笑うんだ。
「わたしはイルカ」
そうかすれた声で。
fin
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記憶障害

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記憶障害
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わたしは毎日同じ夢を見るんだけど それがまた奇妙なんだよね。
男がわたしの腕を しっかり握っている。
質素な部屋で 男は泣いている。
カーテンは薄くて 淡い光が沢山。
とにかく音がないんだ。 ひょっとして耳がなくなった かと思っちゃうくらい。
で、その男は外にあまり 出ていないみたい。 だって肌があまりに白いから。
多分差し込む光は朝日で、 その明るさが彼の髪を照らして 綺麗なんだ。
彼は何やら喋っているよう なんだけど、私には聞こえない。
こんな具合で、目が冷める。
もう何年くらい見ているんだろ。
今日もまた、あの夢見るのかな。

───────

僕の隣の病室には、 植物人間がいるんだけど これがまた不思議なんだよね。
驚く程綺麗なの。 おまけに年を取らない。
ここの病室には全くって 位お見舞いにこない。
だから僕は、何故かここに 来たくなる。
懐かしいんだ。 それになんだか悲しい。
いつもその子の手を握ると ぶわって目が潤う。
なんでだろう。
わかんないな。 そんな不思議な子なんだ。

fin
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家族

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家族
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「ねえねえお兄ちゃん」
「んー?」
「お兄ちゃんといると安心する」
「俺も」
「だって寂しい時には添い寝できるし」
「そうだね」
「キスもできるし」
「じゃあ俺とセックスできるの?」
「うん」
「お前はさ、何か足らないよ」
「そうなの?」
「たとえばお兄ちゃんがいなくなったら…」
「やだ」
「お前は代わりを探すでしょ」
「見つからないのに?」
「お兄ちゃんはな、お前が好きなんだ。」
「知ってる」
「俺、道具なの?」
「家族」

───────

俺と妹は施設で育った。 双子だ。
妹はいつも友達ではなく 俺にくっついて回った。
一度だけ、中学の時 変わらずベタベタな妹 に理由を聞いた。
「裏切らないから」
とだけ呟いた。
そして、思春期を迎え、 キスをした。
俺は、妹を女として 愛している。
いつしか、 おもちゃで遊んであげてた俺が おもちゃになっていたとは思いも しなかったよ。
妹は、あの頃と変わらず無邪気に笑う

fin **


タトゥー

** 羽 **
「ねえ」
「なにさ」
「背中のタトゥーを見て」
「あ、羽だね。」
「どう思う?」
「いいじゃん。飛ぶの?」
「飛ばないわよ。」
「じゃあなぜ?」
「鳥は人でいう腕を動かして飛んでいるわ」
「そうだね」
「わたしの羽は心を浮かせる為」
「浮いたらどうなるのさ。」
「よく言うじゃない、心が軽くなる。」
「そうだね。僕も軽くしたい。」
「なら、ぎゅーっとして。」
「ん?ぎゅー。」
「これで君はわたしに心を盗まれたわ。」
fin **



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