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媚薬

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媚薬
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彼女はいつも寝ている。
長い灰がかった色の髪の毛を 風に靡かせながら横たわっている。
そよそよ
そよそよ
こうして添い寝するだけで 彼女は満足してまた汚い街に 繰り出していく。
電車に揺られて。
たかが知れた、紙切れを 千切れそうなくらい握りしめて。
僕は彼女をよく知らない。
ただ、植物みたいで可愛らしい。
たまに笑う、彼女が苦しくて愛しい。
彼女は僕のアパートに来る前に 大量の香水をかけてくる。
甘い媚薬だろうか。 くらくらする。
彼女は消えそうな体を 今日も僕にくれるんだ。

fin
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ヒーロー

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ヒーロー
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正義が嫌いである。 実にくだらない。
しかし、だからと言って 悪役も気味が悪い。ガキくさい。
正義のヒーローは 今日も街を守ります。
あの自信たっぷりな笑みを 見ていると何故か吐き気がする。
悪役も悪役というレッテルを 自ら貼っている愚かな子供である。
宗教じみている。
生きやすさを追求するには なにかを信じ込むことが大切なのだろうか。
ただ、生きづらくても 生きていけるのであろう。
噛みしめて。
噛みしめて。
黙っている植物達と わたしは今日も空を見上げている。
周りを見下してしまわぬように空を見上げている。
fin
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結論を決めつけるのは 愚かでしょうか。
先生は、放課後わたしを 呼び出すの。
一般と普通を語る先生は
「結局こんなもんだ。」
とよく口にするの。
わたしは悲しい。
何故って、くだらないもの。
私達は、宇宙の小さな星の また小さな島の小さな町の 小さな家族の小さな生き物
その小さな視野で、 全てを悟ったような顔で 大人ぶる先生は奇妙だわ。
未知なる世界はわたしが 死んでも続いている。
先生、次の授業は お休みします。
fin
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ずっと

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ずっと
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人混みの中は 嫌いだったのだけど
その中であなたを見つけた あの日から、よく歩くように なったんだ。
あなたが歓楽街でスーツを きていた。
闇って暗いものだとばかり 思っていたの。
あなたはわたしに 手を差し伸べて
それから手を引き わたしをあなたのアパートに 連れていった。
ワンルームで質素な部屋
でもそこはなんだか 星空みたいな静かでキラキラ していたの。
あなたは闇を抱えているの だけど、それが何かは言わない。
光る涙が落ちるのは、なんだか 惜しい気もするの。
不確かなことばかりよ。 世の中は。
でもあなたがワンルームで 2人の世界を作るならば
わたしは黙って笑っているわ。
多分、ずっと。
fin
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イルカ

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わたしはイルカ
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彼女と水族館に行った。
久しぶりのデートだったんだけど 彼女は何時も通り無表情。
ここ一月は笑顔を見ていない。
水族館といえばイルカ。 僕はイルカの所へ行こうと 彼女の手を引っ張る。
楽しいのかな。 少し不安な気持ちを 抑えつつ、彼女を ちらっと見た。
その瞬間
見なければ良かったと 思った。
彼女の視線は、 魚やイルカではない。
ただの水を見ている。
彼女が見ている世界は 何時も青かった。
その横顔は 生気がなくて とても綺麗だ。
今日知ってしまった。 彼女の空虚に、胸が痛む。
僕は、彼女の首を絞めた。
最後に、彼女はふわっと 笑うんだ。
「わたしはイルカ」
そうかすれた声で。
fin
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