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生活協同組合窃盗犯捕物帖

生活協同組合窃盗犯捕物帖

今もめている事件の顛末はこうだ。

地元のスーパーで、最近盗難の被害が増えており、手を焼いていると言うのだ。そこで家の会社に私服警備の依頼が入った。なんでも、知り合いのスーパーで同様の事件を解決した話を聞いたらしい。

そこで、早速、問題のスーパーに出向いた。

スーパーは最寄りの駅から徒歩で十分ほど離れた住宅街に位置する。駅からは、なだらかな坂が続いており、スーパーに着く頃にはじんわりと汗をかいていた。ちょうど梅雨が明けきらぬ七月のことだ。店に入ると、ほどよくクーラーが効いており生き返る。


店内は一階が食料品、二階が日用雑貨や乾物などを陳列している、大型店と言うより、地域密着のこじんまりとした店だ。

まずバックヤードの店長のところに話を聞きに行く、社長はもうちょっと涼んでからでええやろと、呑気なことを言っているが、約束の時間が迫っており、無理矢理引っ張って連れて行く。


事務所に入り早速名刺交換をする。

名刺には生活協同組合 店長 木村省吾とある。少し頭の涼しくなった五十代半ばと言ったところか。

まず被害状況を聞く。普段から細かな盗難は度々起こっていたのだが、半年ほど前から急に被害金額が増えていると言う。

おおよその犯人の目星は付いているのだが、その犯人の特徴は、四十代から五十代前半の女性。ちょうど被害額が増え出した頃に姿を見せるようになった。

近隣に住んでいるようではない。

犯行が巧みで現場を押さえるのが難しい。と言うことだった。

窃盗事件は現行犯で取り押さえるのが原則で、声を掛けた後に物証が出ないと人権問題やなんかでややこしいことになる。


店内を歩きながら売り場をチェックすると、1階の主要通路には防犯カメラがこれ見よがしに取り付けられ、四隅には防犯ミラーが取り付けられている。

もっとも1階は人の出入りも激しく、混み合っているので人の目も防犯の一助となっている。

一方2階は防犯カメラの台数も少なく、防犯ミラーで帳尻を合わせているという感じだ。

人の姿もまばらで、店員の数も少ない。

犯行に及ぶなら、間違いなく2階と言うことになるだろう。


「店長、2階を見てきたんですが、1階に比べるとカメラの数が少ないですよね。」

すると薄くなった髪の毛を労るように撫で付けながら

「予算が出ないんです、先日も本部に掛け合ったのですが、けんもほろろ、取り付く島もない状態で。現状で対処するしかないんです。」今にも泣き出しそうな、か細い声で呟いた。


その時社長からインカムで通話が入った。

「おい大輔、怪しいのが早速現れた、2階に来い。」

客を装い2階に向かうと、隅で社長が手招きしている。

「2列向こうのお菓子売り場にガキが二人、あいつらやりよるで。」

早速その棚に向かうと、ちょうどお菓子を手に取ったところだ。

スーパーでは手に持った所で罪にはならない、ましてや袋に入れてもその時点では無効だ。

罪になるのは、レジを通さず、店外に出た瞬間からなのである。

今回は店長から聞いたターゲットとは違う小学生なので、出口付近で待機することにした。


当然社長はお菓子の行方を監視している。

「大輔、お菓子腹に隠して降りてったぞ。」


嫌な展開だ、今までも数回やらかしているのだろう。

そこに階段から二人組が現れ、そのままレジの横を通り抜けた、すかさず歩み寄る。

ドアを出たらアウトだ。


「僕たち、どこの小学校?」怪訝な顔をしながらにらみ返してくる。

「ひょっとして何か忘れてないかな?」無言でさらに睨んでくる、後ろで隠れていたもう一人の小学生が、「あ!2階に荷物忘れてきた」慌ててきびすを返す、するともう一人も慌てて追いかけていった。


まず、一件落着、二度とやらないことを願いながら社長の下へ向かう。

「しゃあないガキやな、全然違う棚に戻して降りていったわ、ほんま躾がでけてないなぁ。」といいながら、元の場所にお菓子を戻していた。


一日目は、小学生の窃盗未遂事件で幕を下ろした。

店長曰く、近くの小学生が頻繁に現れると言うことだ、被害額も少ないため、ある程度は見逃しているらしい。

そこは、きっちりと対処すべきだとは思うが、近隣との付き合いなど難しい問題が絡んでくるので苦慮しているとの事だった。


問題の犯人とおぼしき女性が現れたのは、警備を初めて三日目のことだ。

店長からインカムで社長の下へ一報があった。

「現れました、慎重にお願いします。」

社長と僕は打ち合わせ通りの配置につく、僕がそれとなく女性の監視をするのだ、社長は現場となるであろう2階に待機する。


まず女性は、備え付けの買い物かごを持ち、1階の食料品売り場に入っていった。

普通の買い物客である。

プチトマトやキュウリをかごに入れ、納豆などを物色しながら一回り、そしてそのまま2階へ。


「社長、2階へ向かいました。」

「来たか、まかしとけ。」威勢のいい返事が返ってきた。


社長は、四十前半、中肉中背に髪をオールバックに撫で付け、口ひげを蓄えている。

どこから見ても胡散臭い。

それに今回は大工さんが履くような作業ズボンに黒のポロシャツ、スニーカー姿だ、ポロシャツをズボンに突っ込み、良く奥さんに注意されてる。

まあ、缶詰を物色するには違和感はない。


例の女性は、缶詰とは反対の日用品売り場に向かった、社長はすかさず同じ列に向かう。

その時、違和感のある動きが有った、かごを持つ左手の肘に掛けていたマイバックを開いたのだ。

間違いなく怪しい動きである。

しかし社長が目に入ったのか、そのまま隣の列に移動する。

棚はちょうど肩ほどの高さで、違う列の人を棚越しに見ることが出来る。

僕が社長と合流したのはちょうどその時だった。


「社長、隣の列に移動します。」インカム越しに伝えると、意外な返事が返った来た。

「動くな、そのまま居れ、警戒心が強いから近づいたら実行せえへん。現場が押さえられんのは、異常な警戒心を持ってるからや。」

「でも、犯行を見ないと押さえられないじゃないですか。」食い下がる。

「ええから黙ってじっとしとけ。」社長はまさに犯行を行おうとしている女性の後頭部を見つめている。


その時、小声で「よしゃ、入れた、お前は外で待機、彼女が出たら身柄を確保せえ。」

「何で分るんですか、入ってなかったらややこしいことに成りますよ。」

「ええから、確保や、間違いなく入ってる。後はレジでカゴの商品だけ清算するはずやから、それだけ確認出来たら確保や。」


と言うわけで、その後一悶着の後、なんとか女性を確保し、店長の下へ連れて行った。

最初は否認していた彼女も、バッグから商品が出てきたことで観念し、余罪も話しだした。

一連の犯行は悪質だと言うことで、店長判断により、警察へ引き渡されることと成ったのである。