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6月25日のおはなし「くそくらえSNS」

 SNSというのが苦手だ。

 どいつもこいつも、やれFacebookだの、やれTwitterだの、騒々しいったらない。友達付き合いであれやこれや登録させられたが、どうにも肌が合わない。気持悪くて使う気になれない。だいたいパソコンやらスマートフォンやらの画面を眺めるより、外を歩き回って人と会ったり、街行く人のファッションでも眺めていたりした方がよっぽどいい。でなけりゃテレビを見ていた方がよっぽどいい。

 なんて内心ぼやいていたら声が飛んで来た。
「待て待て待てッ!」
 近ごろそこまで勢いよく引き止められたことがない。命令形で呼びかけられるのは感心しないが、ある意味いっそすがすがしい。そんなことを思いながら振り向くと和美だった。

「なんだ和美か」
「なんだとはご挨拶だな」
「ご挨拶って。時代劇ワールドの住人かお前は」
「いかさま左様、それで結構」

 時代劇ワールドの住人こと和美とは幼稚園にまで遡る幼なじみの腐れ縁だ。一時期なんとなく男と女として付き合ったこともあるがそれも別れて、それでも幼なじみのノリそのままに付き合い続けている。最早お互い恋愛感情はなく、ご近所付き合い&気が向けばセックスというくらいの関係で、そういうのをひと昔前は友達以上恋人未満と言ったのかもしれないがそんなせつなげな情緒は微塵もなく、今時の言い方ならセフレというのかもしれないが、セックスについてはどっちかというとおまけみたいなものなのでそれも当てはまらず、では何が一番近いかというとフリーセックスのヒッピーコミュニティーを二人だけで形成しているような感じ、と言うのが一番近い気がする。

 まあそんな細かい話は多くの人にとってどうでもいいことなのだろうけれども。

 おれは尋ねた。
「どうしたそんなに意気込んで」
「意気込んでなんざいない。ただ耳に入れておきたい話がある」
「耳に入れておきたい話?」
「左様」
「反作用」
「茶化すでない」
「そっちこそ」こういう言葉のじゃれ合いは大昔からのものだ。「お武家さんの真似はいいから早く話せ」
「まあ落ち着け」
「おれは落ち着いてるから早く話せ」
「時は平成24年、薫風香る緑陰の」
「講談調もいいから早く話せ」
「オゲレツマンカーズが復活ライブをやる」

 喰い付きの早いオンナだ。

 オゲレツマンカーズとは、今からちょうど20年前、おれたちの故郷のライブハウスを中心に活動していたバンドの名前で、そのふざけたネーミングと高校生男子丸出しの下ネタ全開の歌詞とMC、そして超絶技巧の無国籍サウンドでちょっと話題になったものだった。ボキャブラリーがないものだから、ステージ上でも「くそくらえ」しか言わない。二言目には「くそくらえ」。ファンとのコール&レスポンスも「くそくらえコール」の名で知られていた。一部のファンがそのバンドを「くそまん」と呼んでいたのもそのせいだ。いずれにしろ、その名の通りお下劣な響きであることに変わりはない。着々と人気が出て、インディーズながらCDの売り上げで業界誌を賑わすまでになっていた。ところがメジャーデビューのお膳立てが全部整ったところで、突然の解散劇。いわゆる伝説のアマチュアバンドというヤツだ。

 もちろん、そんなものは世界中にいくらでもある。

「……なんだって?」
 おれの反応が鈍かったので和美は苛立ったようだった。
「なぜ言わない。真っ先に報告すべきだとは思わぬか」
 こうして言葉に書き起こすと、とてもじゃないが女のセリフとは思えないが、間違いなくビアッジョブルーをセンス良く着こなした37歳女性の口から出たことばだ。

「どこで仕入れた? その情報」
「こっちが聞いている。なぜマンカーズのフロントマンから拙者への挨拶がない」
「いい女が拙者とかマンカーズとか言ってんじゃねーよ」
「何が悪い。まんことは言っておらん、マンカーズと言っておる」
「いやだからさ。ってか、言ってんじゃん!」
「なぜ挨拶がない」

 つまりオゲレツマンカーズが復活ライブをやるならば、フロントマンであるところのおれから和美様に挨拶すべきだと言うのだ。だがそれはおかしい。まだおれたちは復活ライブの話など誰にも伝えていないし、だいたいおれたち三人が顔を合わせたのもつい昨夜のことで、それは解散以来初めてのことで、ライブの話をしたのはその席でのことだ。いったいどこから仕入れたんだその情報。あとの二人が和美に連絡を取るとも思えないが、あるいはそうなのか?

「挨拶も何も」おれは慎重に言葉を選んで言った。「まだ何も決まっていない。決まっていないし、そんな話はまだどこでもしていない。だからおまえに話しようもない。いったい誰が」
「写真を見た」
「写真?」
「Facebookに載せていただろうが」
「え? あ! 迫田か」

 そうか。ようやく気がついた。おれはあまり使っていないからよくわからないのだが、メンバーの一人が最近Facebookにはまっていて、飲んでいるおれたちの写真を撮ってアップしていた。おれともう一人の名前をタグ付けしたからとか言っていたが、つまりおれたち三人が会っていたことは世界に向けて公開されていたわけだ。もっとも、そこに何か意味を見出せる人間なんてごく僅かしかいないのだが。そして和美はその数少ないひとりなのだ。

「オゲレツマンカーズが復活するなら」和美は時代劇映画に出て来る剣術の達人が、これまた使い手の主人公に身を寄せスクリーンいっぱいのドアップになって決め台詞を言う場面のようにおれに顔を近づけてきて言った。「そのステージに立つのはマンカーズだけではない」
「おまえ、まさかハヤオナを」
「そのまさかだ。尋常に勝負いたせ」
「まさか、おい!」
 言いたいだけ言うと和美はくるりと背を向け立ち去ってしまった。

 オゲレツマンカーズはそんじょそこらにいくらでもある伝説のアマチュアバンドに過ぎなかったが、和美のバンドの人気は桁違いにすさまじいものだった。おれたちは常に対バンを張ってきたが、動員力ではとてもかなわなかった。おれたちとは全く嗜好の違う、女だけのパンクバンドで、信じられないくらいうまくて信じられないくらいハードで信じられないくらい官能的だった。エロいなんてもんじゃなかった。ハヤオナのライブは「集団絶頂式」の異名を取っていた。男女問わず観客の多くが下着を濡らして帰るという評判だった。

 iPhoneが通話を着信した。マンカーズのドラムス、Facebookにはまっている迫田だった。
「なんだ」
「おい。知ってたか」
「何が」
「ハヤオナが、おれたちと対バンを張っていた〈喰い付きの早いオンナ〉が復活するらしいぞ」
「Facebookにでも書いてあったか」
「どうしてわかった」

 くそくらえだぜ、まったく。

(「喰い付きの早いオンナ」ordered by Zackey!-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

新作スタート。お題募集中。

2011年10月1日。
Sudden Fiction Projectの新作発表が始まりました。

1日1篇ペースをめざしていますが、これはどうなるかわかりません。
毎日、その日のお題を見て、いきなり書き始めていきなり書き終わる。
即興的に書くSudden Fictionをこれからお楽しみください。

お題募集中です。
急募!お題」のコメント欄で受け付けています。
どなたでも気軽にご注文ください。初めての人、大歓迎です。

(お題の管理上、TwitterやFacebookでは見逃しがちなので、
 どうか上記コメント欄をご利用ください)

それではこれからしばらく新作のシーズンをお楽しみください。

※発表済みの作品をご覧になりたい方は
 をご活用ください。


奥付



くそくらえSNS[SFP0359]


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著者 : hirotakashina
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/hirotakashina/profile


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