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1

セピア色の店。もうすぐ夏が来る。彼女はセクシーなブルーの水着を持って、試着室に入った。

店内に人が多いと緊張する。カーテンを閉めて服を脱ぎ、ハンガーに掛ける。水色の清楚な下着姿がよく似合っている。

唇を軽く結び、緊張の面持ちでいると、いきなり試着室の底が抜けた。

「きゃあああ!」

落ちたのはキングサイズのベッドの上だった。脚を投げ出した状態で両手をつき、周囲を見る。彼女は蒼白になった。不良少年が大勢いて、落ちて来た彼女を淫らな目で見ている。

もしかして罠か!

20人はいる。彼女は急いで逃げようとしたが、一斉に襲いかかって来た。

「待って! 待ってください!」

必死の哀願も飢えたハイエナには通じない。あっという間に下着を剥ぎ取られ、素っ裸にされてしまった。

「やめて! やめて! お願いだから!」

24歳の彼女から見れば、彼らは年下。年下のガキに大切な体を奪われてたまるかと抵抗したが、多勢に無勢。力で組み伏せられて仰向けに寝かされた。

「待って! お願いですから!」

彼女の魅惑的な裸を見て興奮したハイエナたちは、無理やり大の字にして両手両脚を押さえつけると、容赦なく全身を触りまくり、舌を這わせた。

「やめて・・・やめて・・・」

抵抗が弱々しくなった。20人に全身を同時に愛撫され、彼女は恐怖に震えた。

男たちが服を脱ぎ、全裸になる。彼女は慌てふためいて叫んだ。

「いや、それだけはやめて! それだけは許して!」

しかし男はエキサイトした巨根を彼女のいちばん大切なところに突っ込もうとする。もはや万事休すか。

「きゃああああああ!」

バッ!

跳ね起きた。

「・・・・・・え?」

汗びっしょりの彼女は、夢だとわかり、再びベッドに倒れ込んだ。

「ちょっと・・・どんな悪夢よ」

悪夢にもほどがある。絶対に正夢ではないと心の中で断言しながらも、彼女は胸のドキドキが止まらなかった。

肩にかからない短めの髪はやや染めていて、緩くパーマがかかっていた。

南井澪沙 MINAI REISA. 24歳。

社内でも美人と評判の彼女は、よくモテた。週末は毎週のように男性社員に誘われるが、用事があると断っている。

仕事一筋の澪沙は、プライドも理想も高く、一緒に食事したいと思う男性は、社内にはいなかった。


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2

朝はいつも始業30分前に出勤し、テキパキと仕事の準備をする。9時のチャイムを待たずにスタートダッシュ。

9時ギリギリまでタバコを吸ったり、モーニングコーヒーを飲んで喋っている男性社員は、すました顔の澪沙をチラチラと見ていた。

鋭い彼女は男たちの目線には気づいていたが、いちいち気にすることなく仕事に集中する。

上品なのは性格だけではない。顔のつくりも整っていて、唇が愛らしい。本当に魅力的な澪沙に、男性社員は夢を見る。

(ああいうお高く止まった女を捕まえてみたいな)

(彼女みたいなタイプがメロメロに乱れたら興奮すんだろうな)

澪沙は平社員だが、セールスレターを任されており、重要なポジションにいた。会社のホームページのコピーライティングも一手に引き受けているから、特別な存在でもあった。

部長にも気に入られていて、快適な職場ではあった。しかし澪沙にも天敵はいる。

力宮剛介 RIKIMIYA GOSUKE. 40歳。

名前の通り頑丈な肉体で、体も声も大きい。すぐ怒鳴るパワハラ上司で、皆から嫌われている課長だ。

澪沙も威張る力宮が大嫌いだった。

午前のミーティング。

澪沙も出席した。しかし会議というよりは力宮の独演会だった。一方的に伝達をして、最後に皆を睨みながら聞いた。

「みんなから何かあるか?」

「はい」澪沙が手を挙げた。

「何だ?」

「商品の中に入れるお礼のメモなんですけど、ただ印刷された文字で『ありがとうございました』って書くなら、どこの会社もやっていると思うんです」

綺麗なよく通る声で話す澪沙に、皆は聞き惚れていたが、力宮は怖い顔で聞いていた。

「そこで提案なんですけど、もっと真心こもる新鮮な言葉で、しかも手書きで書いたほうがお客様にも伝わると思います」

「必要ない」力宮は即答した。「ほかは?」

「ちょっと待ってください」

ムッとする澪沙に、力宮は大きい声を出した。

「俺が必要ないって言ってんだ。手書きじゃ時間かかるだろうが」

澪沙は呆れた顔をした。マーケティングのことを何もわかっていない。

「おい、南井。何か文句あんのか?」

「え?」

 


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3

「何か文句あんのか!」

怒鳴る力宮に、澪沙は驚いた。

「ありません」

ミーティングは白けた空気のまま終わった。

 

昼食はいつも社員食堂へ行く。

澪沙の職場は全部で100人くらいの会社だ。いちばん仲良しの島咲カナと同じテーブルに着く。カナも同期で24歳。長い黒髪で、ルックスも澪沙に負けていない。

カナは澪沙と違い、誘われると飲み会にも参加するし、男たちに混じって紅一点も平気。実際、紅一点は凄くモテるから好きだった。

「課長って、ちょっとおかしいよね」カナが小声で言った。

「ちょっとじゃないよ。だいぶおかしいよ」澪沙がムッとしながら食事する。

「みんなに嫌われようと努力してるのかな?」

「まさか」澪沙は笑った。

カナは満面に笑みを浮かべると、ヒソヒソ話をした。

「でもさあ、女の子がひとりエッチするときって、嫌いな男に犯される妄想をする子が多いらしいよ」

びっくり眼で辺りを見回す澪沙は、カナを睨んだ。

「職場でそういう話はやめなさい」

「澪沙、もしも課長に襲われたらどうする?」

「くだらない」

カナは面白がって続ける。

「スッポンポンにされて手足を縛られて無抵抗にされたら、観念するしかないじゃん。どうする? 大嫌いな課長に責められちゃうんだよ。絶体絶命の大ピンチじゃない?」

「いい加減にしなさい」澪沙は怖い顔で睨んだ。

 

午後。

境部長はおもむろに澪沙のデスクに来ると、小声で言った。

「南井さん。たまには、食事でもどう?」

60歳で妻子もいる境部長の誘い。澪沙は変な風には取らなかった。

「いつですか?」

前向きな返事を聞き、境部長は燃えた。

「そうだね。君に合わせるよ。僕は、いつでもいいよ」

「部長!」カナが乱入した。「食事会ですか? あたしも行っちゃダメですか?」

「え?」

「あれ、まさか二人きりで食事行こうと思って誘ってたんですか?」

「まさか、まさか。島咲さんも一緒にどう。ご馳走するよ」

澪沙も笑顔で答えた。

「カナが一緒なら、行こうかな」

笑顔の境部長は背を向けると、渋い顔でオフィスを出ていった。

 


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4

澪沙は自分の仕事とは別に、境部長に頼まれて、パワハラ対策の原案をまとめていた。知的な彼女は企画・立案も得意だった。

噂を聞きつけたのか、課長の力宮剛介が、凄い剣幕で澪沙のデスクに来た。

「おい、何やってるんだ!」

「え?」

「え、じゃない。何書いてるんだと聞いてるんだ!」

澪沙は日頃の怒りが爆発し、言い返してしまった。

「怒鳴らないでください」

「何!」

オフォスは静まり返り、二人の口論を見守っている。

「パワハラ対策をまとめているんですよ」

「必要ない」

「必要あります。これは部長から頼まれた仕事です」

「何で部長がおまえに頼むんだ。俺は聞いてないぞ」

澪沙は思いきり呆れた表情をすると、蔑みの目で言った。

「課長。パワハラ対策は各社義務づけられていることです。でもわが社では対策が練られていません。だからあたしが部長に言ったら、女性目線で原案を考えてくれって・・・」

「部長部長部長! おまえの直接の上司は俺だろうが! 俺の頭上を飛び越えるな!」

部屋中に響き渡る声で怒鳴ると、力宮はデスクを蹴った。

「俺が必要ないって言ったらないんだ!」

「課長の今やっていることがパワハラなんですよ!」澪沙も怒鳴り返した。

「何?」

「何じゃなくて」

「黙れ! 俺の言うことが聞けないなら今すぐ会社を辞めろ!」

一方的にまくし立てると、力宮は部屋を出ていった。口を半開きにしたままの澪沙を心配して、カナがデスクまで来た。

「大丈夫?」

澪沙は額に手をやると、言った。

「部長に全部言うわ」

 


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5

「失礼します」

力宮剛介が部長室に入る。ソファに澪沙がすわっていて、怖い顔で睨んでいるのを見て、力宮は部長に呼ばれた理由がわかった。

境部長は立って後ろに手を組むと、穏やかに言った。

「社長にはまだ言ってません。でも力宮君。怒鳴るのは良くないよ」

「はあ・・・」

「彼女に謝罪するか、それとも言い分はあるかね?」

「・・・いえ。ありません」

力宮が俯き加減で呟くと、澪沙はりんとした声で言い放った。

「あれは言葉の暴力であり、デスクを蹴ったことは立派な脅しです。ちゃんと謝らないなら裁判沙汰にします」

「裁判沙汰にすると言ってるよ。彼女は本気だ。どうする?」境部長が力宮を見すえる。

「どうも、すいません」

「土下座してください」

澪沙の思いがけない言葉に、力宮は顔を上げた。これには境部長も少し焦る。

「いや、南井さん。土下座は・・・」

「ダメです。土下座できないなら、裁判沙汰にします」

全く妥協しない姿勢の澪沙。力宮は悔しさを露わにしながら、ゆっくり屈み、両手をつき、両膝をつき、頭を下げた。

「どうも、すいませんでした」

澪沙は許すとも何とも言わず、パッと立ち上がると、土下座する力宮の前を素通りして部長室を出ていった。

境部長もこのアクションには慌てた。

「南井さん、今の、今のどうかな? 今のどうかな?」

力宮剛介は両拳を握り、歯を食いしばった。

(おのれ・・・覚えてろよ)

力宮の腹の中に、ドス黒い復讐心が芽生えた。

 

 



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