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神隠し -3-

 

 

 村中に知れ渡った原因。少年達が消えて三日後、第一の事件が起きた。それは突然の出来事だ。学校の友達が、ある日を境に来なくなった。少年達が脱獄した晩の翌日からだ。先生が家に連絡を入れても、家の人すらも分からない。しかも、その友達というのが零に文句をつけて来た、あの時の男子生徒だという。何かの偶然なのだろうか?彼は思う。しかも、最初に消えた少年達は今回、行方不明になった男子生徒と絡みがある学生だった。これも何かの偶然、それとも必然?どちらにせよ、まるで神隠しにでもなった様なこの事件は、あの一年前の興味本位で行った『肝試し』から始まったのは間違いが無いだろう。

 その話が広まってゆくに連れて、零は不安を感じる。何故なら、彼もまた当事者であるのだから。

そして、それを先に言い出したのも零自身だ。

 

「――ねぇ、最近。村の様子がおかしいよね?」

 菜々樺は不安気な表情を浮かべ零に問い掛ける。

「その話は、あまりしない方がいいよ」

「どうして?」

「――どうしてって……何かそんな感じがする」

 学校の休み時間、零と菜々樺はそんな話をしていた。この間の事件以来、何故か明るい話題が出て来ない。話すのは例の噂話ばかりだ。

 零は、この重い空気を変える様に話を切り出す。

「――そうだっ!久し振りに一勝負するか?」

「いいわね、今度は前回の様には行かないわよ?」

「――なんだ。今日は花を持たせてくれないのか?」

 またも零はからかう様に意地悪な言い方をする。

「そう何度もしてあげないわよ、今日は勝たせて貰うからねっ!」

「はぃはぃ、期待してるよ」

「むぅ~……いつも馬鹿にしてぇ」

 二人は将棋盤を机に置くと対局の準備をする。

そして、菜々樺は零を睨みつけるとやる気満々に言い放つ。

「何処からでも掛かって来なさいっ!」

「――さぁ、お手並み拝見と行こうか……」

 

 二人は、この時だけは事件の事を忘れ様と今を楽しもうとしていた……


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噂話

2.噂話

 日を増すごとに、村の中では『噂は本当なのではないのか?』という話が至る所で飛び交っていた。零も、あながち嘘とは思えなかった。勿論、事件の当事者としての感想である。別に“鬼”の存在を認めた訳では無い。そうだとしても、この頻発する奇怪な事件をどう証明すればいいものか。

 この間の男子生徒失踪事件から一週間、あれから何も起こる事は無かった。これ以上、噂が広まり混乱を招くのを恐れた役員は失踪事件に関しては一切触れる事はしないという決断をする。つまり“事件”を“事故”として処理してしまったのである。だが、この話は学校内では毎日の様に語られていた。物珍しい話に面白がって食いつくクラスの男女。学内では、あくまで『噂話』としてでしか取り上げられていないが、その真意を職員に聞いても『そんな話は止めなさい』と言って黙秘する者が殆どである。

 だが、零や菜々樺だけが『噂話』とは、到底思えそうには無かった……

「――零?」

「なに?」

 教室で自分の席に座る零に菜々樺は声を掛ける。

「こんな事を思っているの、私だけなのかもしれないけど……」

「――どうした?」

「何かね……最近、思うんだけど……前より人が減ってる気がしない?」

「……えっ?」

 菜々樺は不安気な面持ちで教室を軽く見渡すと零に問い掛けた。

「……人が?」

「うん、前なんて五月蠅すぎる程に賑やかだったのに。何か、ここの所は教室が凄く静かに感じる……」

「そう……かな?」

「何か、前より人が少ない気がして……」

「――気のせいだよ……」

 菜々樺の疑問には零も気付いていた。まるで、以前程の賑やかさは感じられない。あれ程まで、馬鹿みたいにゲームの話で盛り上がっていた連中も今は例の『噂話』で持ち切りだ。そして、菜々樺の言う通り、日に日に学校の生徒数が減っている様な気がする。学校自体は大きくは無い。教室は三つ、一クラスが十人程度。零達のクラスからは前回の事件……いや、事故で一人が居なくなっていた。菜々樺が言っていた疑問は、このクラスに対してでは無く、学校全体での生徒数に対してだった。自分のクラスなら一人二人減っただけでも直ぐに気付くだろう。しかし、他のクラス等の事等知る訳が無い。菜々樺の話に由れば、隣のクラスでも女子が一人突如失踪してしまっているという。理由は解らない、失踪した事に気付いたのは事故から翌日の事。前の日まで、菜々樺は学校でその子と話をしていたと言う。つまり、失踪したのは学校が終ってから、夜が明ける迄の間。

 彼女にしかり、同クラスで失踪した男子生徒、共にある共通点がある。

それは両者とも事故の前日、または、それ以前に『噂話』をしていた。

だから、どうという事では無いのだが、この繋がりは明らかに偶然過ぎる。

 これは零の推測に過ぎない。しかし、大人達はこの事に対し頑なに口を

閉ざす。それが余計に零の疑問を肥大させていった。

 


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噂話 -2-

 

 帰り道、菜々樺は元気が無かった。無理も無い、最近まで親しく話しをしていた友達が忽然と姿を消してしまったのだから。零は敢えて、何も言わなかった。自分が何か慰めて、菜々樺の気持ちが晴れたとしても失踪した彼女が帰ってくる事は無いだろうと……

すると、俯いたまま菜々樺は呟く様に問い掛けてくる。

「――ねぇ、零?」

「なに?」

「……本当に消えちゃったのかな?」

「……分からない」

「もし、もしね、あの話が……原因だったとしてだよ」

「菜々樺っ!その話は」

 菜々樺は零の前に回り足を止めると、真っ直ぐ零の目を見て言う。

「もしもの話だよっ!それに……」

「――それに?」

「一年前の事件だって……」

「いい加減、忘れろっ!僕だって……思い出したくは無い」

「――そうだよね……ごめん」

 ちょっと言い過ぎたかもしれないと反省する零だが、菜々樺の言いたい事は痛い程に分かる。何故なら、この村がおかしくなってしまった原因は、あの日……『肝試し』の夜に、あの祠を開けてしまったのが全ての始まりだったからだ。祠の扉には再度封印し、御払いだって施した……なのに、悲劇は治まるところが止まる事すらしなかった。零は後悔をしていた。

しかし、事態を収拾するにしても事の原因が未だに判らない。ならば、自分で撒いた種なのなら自分で何とかしなければ……零は思った。

「――悪い、菜々樺。ちょっと、寄り道していくから……先に帰ってて」

「寄り道って、何処行くの?」

「……それは、言えない」

「そう……」

「――じゃぁ、また明日」

 そう言うと、零は菜々樺に背を向け彼女と逆の方角へ歩き出す。すると、後ろから呼び止める様に菜々樺が零に言葉を返した。

「……零」

 菜々樺の声に零は一度足を止め、振り返ると菜々樺は小さく笑い言った。

「――ちゃんと帰って来なさいよ」

「えっ?」

「勝ち逃げなんて許さないんだからねっ!」

「ありがとう……菜々樺」

「――零、約束だからね?」

 零は『わかった』と菜々樺に返事をすると再び背を向け歩みだす。彼の去って行く後姿を菜々樺は寂しそうな面持ちで見つめていた。菜々樺は、薄々気付いていた。零の言う『寄り道』を……だが、聞く事は出来ない。聞いたところで、きっと零は何も語ってはくれないだろう。今、菜々樺に出来る事は、零の帰りを待つ事だけである。

菜々樺は信じている。零は、必ず“約束”を守ってくれるはず……だと

そして、菜々樺の視界からは零の姿は見えなくなった……

 


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噂話 -3-

 

 

 夕暮れ時、日が落ちかけた空は不気味な程に紅く染まっていた。

零は菜々樺と別れると、言葉通り寄り道をしていた。これといって、漠然とした目的地がある訳でも無い。零が自然と足を運んだ場所、そこは二度と来ては行けない場所。目の前にあるのは、古びた立ち入り禁止の看板、そしてあれ以来、誰も入る事の出来ない様に鍵の付いた柵が付けられていた。零は、導かれる様にしてこの場所へ来た。自ら望んで等、来たい筈が無い。

そこで零は感じる。前の様な寒気や禍々しい空気は一切感じない。

柵の隙間から中を覗く零だが、不思議と恐いと感じなかった。

「何もない……」

 ポツリと呟く、何も起きなかった事に零は安心する。彼の寄り道は取り越し苦労だったのだろうか、零は暫くそこに留まってはみたが結局、何も起こる事はしなかった。すっかり日は落ち辺りを暗闇と静寂が包む。

 零の寄り道は何の意味も無かった。そして、彼は家へ帰る事にする。

「――ただいま」

 家に帰った零は一人呟く。『ただいま』と言ったとしても返事は返ってこない。解ってはいるが少し寂しい。家に上がり、真っ先に母の元へ向かう。あれからいままで、零が介護しているからだ。いつもの様に出来上がった食事を持って行き、部屋の障子を開けた時だった。

 そこで零は異変に気付く。

「……あれ?……母さん?」

 そこには母の姿は無かった。目の前には布団だけが残されている。母が消えた?薄ら感情はあるもの、立つ事も歩く事も出来ない母が、此処から動く事等出来るはず筈が無い。零の頭には不吉が過ぎる。

(――まさか、母さんも神隠しに?)だが、そこで零は思い出す。元々、母が植物状態になってしまったのは何故だったか、それは祠の奥を覗いてしまったからだ。


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噂話 -4-

 零は泣いた、悔しくて、哀しくて、寂しくて、彼は泣く。

「……くそぉ……なんで、なんでだよ……」

 泣き崩れる零だったが、またも異変を感じる。次の瞬間、まるで背筋が凍る様な寒気がする。直後、辺りを包む禍々しい空気、これは……あの時と全く同じだ。(――逃げなければ!)零の脳内に危険信号が走る。すると、ガサっと音がした。音は障子の向こうから聴こえる。零は振り向くと、障子には月の明かりに照らされて薄らと影が浮かぶ、良く見ると人影の様だ。零は恐怖した。何故なら、今この家には自分しか居ない。それに影があるのは玄関と全く逆の方角だ。障子の向こうは庭、だが裏からは周る事が出来ない。誰かがそこに行くにしても零の居る部屋の脇を通って行かなければならない。故に、気付かれずに行くのは不可能だ。では、目の前に映る影は誰だ?零は恐る恐る障子に手を掛けると、ほんの少しだけ隙間を開けそぉっと外を覗く。そこには見慣れた女性が立っている。目を凝らし良く見てみると……

立っていたのは、零の母だった。彼は思わず叫び

「――か、母さんっ!?」

「……れ……ぃ」

「母さん?僕が判るの!?」

 零は植物状態になってから、初めて自分の名前を呼んだ母に歓喜した。

 その“喜び”は、ほんの一時……そして、それは”絶望“へと変わる。

「良かった……思い出したんだ……ね……っ!?」

 

 嬉しさの余り障子を開ける零、だが途中まで言いかけた時彼は足が竦む。

視線の先に居た、零の母は母で無かった。もはや“人”なのかすら疑わしい。彼女の瞳は白く不気味に光っていた。人間の目では無い。あの白い光は、あの祠で見た光と同じだ……もはや人かどうかも分からなくなっていた零の母は何かを探す様に何度も呟く。『……れ……ぃ』名前を呼んでいる。

だが、彼女は零に気付いていない。そこで思わず零は自分の口を塞ぐ。

 母は自分の事を探している。違う、あれはもう母では無い……母の姿をした“何か”だ。白く不気味に光を放つ瞳には何が見えているのか。だが、これだけは解る。決して、あの光と目を合わせてはいけない。母の姿をする何かは何度も零の名前を呼びながら段々と彼に近寄ってくる。

 そして、零は恐怖の余り声を上げてしまう



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