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「人生観を変えようと思うんだ」
 村瀬がポツリと言う。
「ほほう…」
 相田は不思議な動物でも見るように村瀬を見る。
 見るからに村瀬は変える必要のありそうな風貌である。
「珍しいなあ。今時そんな言葉を使う人間がいるんだ」
「人生観を変えるのが珍しいのか?」
 村瀬はフケ混じりの前髪を手でかきわけ、鋭い眼差しで相田を睨んだ」
「小学生のころ聞いたかな。それから長い間そんな言葉を使う人間に逢わなかった」
「そんなに珍しいことなのか?」
「人生観を変える…とはなかなか人には言えない。で、どうなの?」
「生き方を変えようと思うんだ」
「生き方…」
 相田はそこでまた立ち止まる。
「生き方ねえ」
 相田は繰り返す。
「何かもたつくなあ。どうしたんだよ相田君。俺、何か変なこと喋ってるか。あ、まだ何も具体的に話始めていないけどさ」
「そういう話題をする人だったんだ」
「人生観なんて、滅多に変えないよ。だから聞き馴れないだけさ。で、恥ずかしくない?」
 相田が尋ねる。
「恥ずかしい話じゃないでしょ。真摯で、真っ当な…」
「悪い本でも読んだの。それとも昔の青春ドラマでも観たの」
「違うよ。いつも考えていることだよ」
「村ちゃんはいつも人生観を考えながら暮らしているんだ」
「君もそうだろ?」
「それはない。だから新鮮なんだ…村ちゃんの言葉が」
「聞く気はあるの?」
「あるさ、言ってみなよ」
「今度の受験、また落ちそうだから、人生観変えてみようと…」
「なんだ、回避方法か」
「俺の人生観を変えれば、大学なんて行く必要はないし、もうこんな予備校来ることないんだ」
「なるほど、便利なスイッチだ」
「俺より相沢、お前のほうが成績悪いんだぜ。一緒に人生観変えようじゃないか」
「どう変えるんだ?」
「それを一緒に考えようよ相沢君」
「君はやはり人生観変える必要があるね」
「…だろ」
 
   了

この本の内容は以上です。


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