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ピア・グループ効果

 小塩隆士は『教育を経済学で考える』の中で、経済学が「教育成果」へアプローチする場合、アウトプットとインプットの関係を示す「生産関数」を想定するという。アウトプットとしての教育成果とは、テストの点数などで示される点数であるが、インプットは次の3つのグループに分けることができるという。

 1つ目のグループは、その個人が生まれながらにして持っている属性や家庭・社会環境などである。知能指数がどれだけあるか、親の学歴や所得がどうなっているか、自宅でどれだけ勉強しているか、といった要因がこのグループに含まれる。

 2つ目のグループは、学校で供給される教育の「質」である。生徒1人当たりの教員数(またはその逆数)、教員の学歴や経験、図書館の蔵書数などがそこに含まれる。

 3番目の要因は、一緒に教育を受ける生徒の特性である。その生徒が属しているクラスを構成する生徒が平均的に持っている、生まれながらの能力や、(日本ではほとんど意味がないものの)人種の構成などがここに含まれる。この3番目の効果を「ピア・グループ効果」(peer-group-effect)と呼ぶことが多い。

 ここで注目すべき点は3番目の「ピア・グループ効果」である。最近では公立の学校でも、「習熟度別」という名を借りた「能力別」クラス編成が行われていると指摘した上で、次のように述べている。

 「朱に交われば赤くなる」という言葉がある。人間は、それほど強い存在ではない。周囲の影響に大きく左右される。まして、高校生ぐらいまでではしっかりとした自己が確立していない。友だち関係は、自己の形成に大きく左右する。能力別クラス編成の経済効果を考える場合、このような友だちの影響がピア・グループ効果として捉えられる。

 (中略)進学校を大学受験のテクニックをつめ込む学校であると決めつけるのは、一面的な解釈である。むしろ進学校は、生徒どうしが互いに刺激しあい、ピア・グループ効果がうまく発揮される「場」を提供できている学校というべきだろう。

 ただし、このピア・グループ効果は、ある程度、その学校に通ってくる子どもの頭の出来がよくなければ発揮されない。そのために進学校は、難しい入試問題を受験生に課して、入学する生徒の粒を揃える。(中略)頭のよい子どもたちが入学してくるのだから、進学校でピア・グループ効果が発揮されなければ、学校のほうに落ち度がある。

 一方、ピア・グループ効果は逆方向に作用することもある。同級生のほとんどが茶髪であれば、「オレも茶髪にしようか」と思うのが普通の人間である。友だちがだらしない格好で通学し、コンビニエンス・ストアで買い食いをしてゴミを街に撒き散らすのなら、自分もそうしなければならない。そうしないと、「優等生ぶりやがって」といじめられるのが目に見えている。こうして、ピア・グループ効果が悪い方向に作用すると、学校は教育困難校、底辺校への道をひたすら歩むことになる。そこから抜け出すのは、並大抵のことではない。

 このことは、高校であればまだ納得のいく話である。なぜなら、自らが入試を受け、選抜されて入学するのであり、行く行かないの選択の余地もまた残されている。しかしこれが、基本的に学校選択の余地がない(最近では選択制を取り入れている自治体もあるが)公立の小・中学校で起きているとすれば、そしてそれが目に見える形でわかるとすれば、かなり問題があるのではないだろうか。というのは、そこに行く生徒たちには選択権がなく、親の居住地域によって、よい方向のピア・グループ効果か悪い方向のピア・グループ効果が発揮されるかが、決まってしまうからである。

奥付



私論 「学力の低下と二極化のメカニズム」


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著者 : yasu1941
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