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しずく

 子供の頃の僕には不思議な力が備わっていて近所の畑のすみに植えられていた里芋の葉にのるしずくに糸を通してはきらきらと光る首飾りを作っていた。それを母や姉にプレゼントするととても喜ばれた。なのに今ではしずくはほろほろと葉の上を逃げまわるばかり。すぐにするりと地に落ちてしまう。

16の君

 そわそわしちゃって。かわいいなあ。でも君はね、忘れてしまうんだよ。その気持ちを。耳をつねってやる。「いてっ」ふふ。さあ、そろそろいかなきゃ。ありがとう、あなた。わたし、あなたと結婚してずっと幸せだったよ。16の私が教室に入ってくるまえに、わたしは窓から空に飛び出した。

汚部屋

「汚い部屋だ。うんこを扇風機にぶつけたような酷さだな」「でもね。売れるのよ。この部屋。このままの状態で。大学の研究室が買ってくれるの」台所のシンクや風呂場からわらわらと謎の生き物が湧き出してくる。「繁殖してるの。新種の生物が」マユミの眼球から蟲が這い出してくる。

眠れぬアンドロイド

 眠れぬアンドロイドは今夜も電気羊の数をかぞえていた。一匹、二匹、三匹、四匹、待て。よく考えたら、羊は一匹ではなくて一頭なのではないだろうか? 考え出すと、ますます眠れなくなってきた。

大穴

 家を出ると道路に巨大な穴が開いている。あやうく落ちそうになる。おそるおそる縁から中を覗き込んでみても闇の底はまるで見えない。あの事故から六年目の夏。変わったことの一つがこれだ。俺は天を仰ぐ。向かいの高層マンションには化け物サイズのセミの抜け殻が引っかかっている。

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