閉じる


<<最初から読む

107 / 140ページ

もにゅもにゅ

 猫がじいと壁を見ている。目をやると、もにゅもにゅが張り付いている。換気のため窓を開けたのが悪かったか。とくに悪さをするわけではないのだが、彼奴が移動したあとにはべとべととした粘液がすじになって残るのだ。まったく掃除する者の身にもなってほしいものだ。なあ。ニャア。

ドーナツ

 ドーナツの穴が食べたい。わがままな彼女からメールが入ったので駅前のドーナツ屋で買って帰った。どうぞ。皿に載せてミルクと一緒に渡す。ちがうの。穴の部分だけがほしいの。途方にくれたぼくは、ドーナツをひとつ食べてみせて、からっぽになった手のひらを彼女の前に差し出した。

しずく

 子供の頃の僕には不思議な力が備わっていて近所の畑のすみに植えられていた里芋の葉にのるしずくに糸を通してはきらきらと光る首飾りを作っていた。それを母や姉にプレゼントするととても喜ばれた。なのに今ではしずくはほろほろと葉の上を逃げまわるばかり。すぐにするりと地に落ちてしまう。

16の君

 そわそわしちゃって。かわいいなあ。でも君はね、忘れてしまうんだよ。その気持ちを。耳をつねってやる。「いてっ」ふふ。さあ、そろそろいかなきゃ。ありがとう、あなた。わたし、あなたと結婚してずっと幸せだったよ。16の私が教室に入ってくるまえに、わたしは窓から空に飛び出した。

汚部屋

「汚い部屋だ。うんこを扇風機にぶつけたような酷さだな」「でもね。売れるのよ。この部屋。このままの状態で。大学の研究室が買ってくれるの」台所のシンクや風呂場からわらわらと謎の生き物が湧き出してくる。「繁殖してるの。新種の生物が」マユミの眼球から蟲が這い出してくる。

読者登録

laybackさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について