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洗い物

 カチャカチャと食器が優しく当たる音。「ねえ、どうだったのママ?」「あなたの綺麗な手を肌荒れから守ります。それがプロポーズの言葉だったわ。ね? あなた」「うん」広い背中越しに穏やかな声が返ってくる。「ふうん。それでパパがいつも洗い物をしてるんだ」

ひとり

 朝起きたら何かがちがかった。TVを点けても砂嵐。なぜかネットも繋がらない。仕方がない。シリアルを流し込んで家を出た。街にひとけはまるでない。車が一台も走ってない。とぼとぼ歩いて駅に着いた。電車が動いている気配もない。静かだ。世界に俺一人だけが取り残されたようだ。

救い

 俺が寝ている間に何が起こったのかはわからない。ただ世界から人が消えた。いや人だけじゃない。犬も猫も烏も鳩も。木々はいる。花も咲いている。虫は、どうだ? まだ見ていない。だが不思議と恐怖は感じなかった。むしろ救われた気分だった。もう会社に行かなくてもよいのだから。

連絡

 たまには連絡しろ。実家に帰るたび親父は言う。連絡。何を? お父さんはお兄ちゃんと飲みに行きたいんだよ。妹はそう言うが酒癖の悪い父親の姿を子供の頃から目にしてきた俺は乗り気になれない。また連絡しろ。帰ろうとする俺に今日も親父は言う。振り返ると小さな背。考えとくよ。

動物園

「どこ行きたい?」と訊かれて動物園と答えた。「雨なのに?」私は頷く。「いいよ。行こう」「いいの?」「だって行きたいんでしょ?」「うん。私の好きな爬虫類両生類館は雨とか関係ないから」「なるほど」彼は笑いながら言う。「夜行性動物舎も面白いしね」この人分かってるなぁ。

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