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「 」

 もうちょっと右、うんそのあたり。「 」彼の指ファインダーにうまく私と景色が収まったようだ。カメラなんて持ってないくせに。そう言うと、記憶に焼き付けるからいいんだ。なんて。ひとって時がたてばびっくりするくらい忘れるんだよ。私は年下の彼氏の指をぎゅっと握りしめる。

写真

 彼女が携帯で料理の写真を撮ろうとする。「やめとけ」「なんで? ブログで紹介したらお店の宣伝にもなるじゃん」「周り見てみ」座敷には女将と談笑する家族連れ。カウンターには雪駄履きのオヤジ達。「分かるだろ。宣伝なんて必要ない店なんだよ」彼女は黙って携帯を折り畳む。「さ。頂こうぜ」

ドライブスルー

「いらっしゃいませ。お持ち帰りでよろしいですか」「ああ」「サイズはいかがいたしましょう?」「Sサイズでいいよ。もう歳だしね」「かしこまりました。焼き上げますのに少々お時間がかかりますが」「一時間後に取りに来るよ」「ねぇあなた」「うん?」「ドライブスルー火葬場って本当便利ね」

迎え

 雨だ。なのに。傘がない。駅には次々と迎えの車がやってくる。おれはひとり取り残される。来た。妻が。自転車で。おせえよ。なんでチャリンコなんだよ。車の鍵がね見つかんなかったの。ばかか。久しぶりだね。二人乗り。思い出すね。何を。学生の頃。ふん。ちゃんとつかまってろよ。

身分証

 身分証を。と言われ、彼がしぶしぶと財布から取り出したのは宇宙人登録証だった。ネットカフェの店員がバックヤードにコピーを取りにゆく。「水原くん、宇宙人だったの?」「うん」「でも、見た目は」「僕らはほらどこにでも溶け込める種族だから」彼の右手がすっと透き通ってゆく。

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