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 小説家の村というのがある。平和そうに思えるだろ? ところがどっこい。彼らはとにかく嫉妬深い。あいつの小説はくだらない。あいつの小説なんて小説ですらない。云々。嫉妬と憎悪と自惚れがマーブル模様の雲になって空を覆っているからすぐにわかるよ。グーグルアースで見てご覧。

 一本。二本。三本。大根に跨った若者たちが深夜の峠を駆け抜ける。まるでロケットだ。彼らはコーナーを曲がる度に大根を激しく路面に擦りつけてゆく。これをドリフト走法と呼ぶのだそうだ。ガードレールの側ではお婆さんたちが器を抱え、大根おろしをキャッチしようと身構えている。

トラブル

 夫が帰ってきた。まだ16時過ぎだというのに。いつもなら早くても19時頃なのだから明らかに早過ぎる。「どうしたの? 体の調子でも悪いの?」顔面蒼白。返事もない。夫はスーツの上着だけ脱ぐとやにわに味噌汁を作り始めた。傍らには洗面器と氷。会社で一体何があったのだろう。

万引き

 店長、万引きです。レジに入っている葵からインカムで報告が届く。またか。何度目だ。防犯カメラのモニタを確認する。足早に出口に向かうイケメン風の男。俺は事務所を飛び出した。「こらっ」逃げる男を俺は片足タックルで仕留める。転んだ拍子に男の上着のポケットから葵の心がこぼれ落ちた。

裂傷

 前から見ても判らない。ただ横から見ると身体の側面の皮下脂肪が丸見えになっていて血と体液が滲んでいた。「で、なにがあった?」「タンスの角に足の小指をぶつけた途端に裂けたんだ。スライスチーズを裂くときのように一気にね」弟は右手に裂けた足の小指と皮膚をぶら下げている。

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