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世界

 錆びた鉄の匂い。俺は滑り台に寝転んでいる。大人の体には少々窮屈で、棺桶に入れられているような気がしないでもない。だが星空の天井はどこまでも広がっている。今日から俺の部屋は世界。壁もドアもない。腹は空いていても、満たされた、いや、赦された気分で俺は、眠りに落ちる。

目刺し

 人を保存するには干すのが一番。あーだめだめ、そこは硬いから。目を刺すんだよ。そう。後頭部に向けてね。少年は鉄の棒を男の右目に突き刺す。まだ生きていたのか男の体は急にぶるぶると震え出す。ゼリー状の眼球が地面に零れ落ちる。丘の上では完成した目刺しが春風に揺れている。

 小説家の村というのがある。平和そうに思えるだろ? ところがどっこい。彼らはとにかく嫉妬深い。あいつの小説はくだらない。あいつの小説なんて小説ですらない。云々。嫉妬と憎悪と自惚れがマーブル模様の雲になって空を覆っているからすぐにわかるよ。グーグルアースで見てご覧。

 一本。二本。三本。大根に跨った若者たちが深夜の峠を駆け抜ける。まるでロケットだ。彼らはコーナーを曲がる度に大根を激しく路面に擦りつけてゆく。これをドリフト走法と呼ぶのだそうだ。ガードレールの側ではお婆さんたちが器を抱え、大根おろしをキャッチしようと身構えている。

トラブル

 夫が帰ってきた。まだ16時過ぎだというのに。いつもなら早くても19時頃なのだから明らかに早過ぎる。「どうしたの? 体の調子でも悪いの?」顔面蒼白。返事もない。夫はスーツの上着だけ脱ぐとやにわに味噌汁を作り始めた。傍らには洗面器と氷。会社で一体何があったのだろう。

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