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―1―


 たくましい体つきの、まっすぐに見つめる輝く瞳を持った、正義のヒーローが、悪人をばったばったと倒していく。
 最後に悪のボスを追い詰めたあたりで、ヒーローにピンチが訪れるが、うまく切り抜けて悪のボスをやっつけた。
 ヒーロー万歳。正義に祝福を!
 
     

 テレビを見ていた者たちは、快哉をさけんだ。映画は、こうでなくちゃ。
 最近は作る側がひねくれてきたのか、お決まりから外れたヒーローが増えてきたけれど、完全無欠で最後には勝ってくれるヒーローでなくちゃ。正義が勝ってくれなきゃ、気持ちがすかっとしない。
 観衆たちは、お互い喜びの声を投げあい、今見たヒーローを褒め称えた。
 号令がなり、彼らは素早く整列をして、わずかな休憩時間を終えた。
 そこは重犯罪者が集まる刑務所。厳しい管理体制が敷かれている。


―2―


 たくましい体つきの、地獄を見つめるような瞳を持った、悪のヒーローが、正義の使者たちをばったばったと倒していく。
 最後には正義側のボスこそ、真の極悪人だとわかり、悪のヒーローがおとしいれられそうになるが、うまく切り抜けて正義の集団をこっぱみじんに吹き飛ばしてしまった。
 悪のヒーロー万歳。正義に壊滅を! 

     

 テレビを見ていた者たちは、快哉をさけんだ。映画は、こうでなくちゃ。
 ヒーローは昔から正義をつらぬくとお決まりだが、そんなの偽善であるとみな気付いている。ヒーローなんて、くそくらえ。悪の側にこそ、真の正義がある。世界はいんちきな正義で満ち満ちている。
 観衆たちは、お互い喜びの声を投げあい、今見た悪のヒーローを褒め称えた。
 号令がなり、彼らは素早く整列をして、おやつが配られるのを待った。
 そこは忙しい親たちに預けられた幼児が集まる保育園。ゆるやかな午後の優しい陽射しがふりそそいでいる。

この本の内容は以上です。


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