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巡航ミサイル

湾岸戦争のとき、バクダットで生中継している特派員の上空を実際にトマホークミサイルが通過
して行く映像は衝撃的であり、本当にあったんだ、あんなミサイルが...という思いがした。

巡航ミサイルにはTVカメラが内臓され、前もってインプットされた攻撃目標物の映像データと照
らし合わせ、自分が攻撃するターゲットを識別できる。たとえばそのターゲットが人物であっ
ても、顔の特徴やからだつきから判断できるらしいが、ここで大きな2つの問題が生じる。

1つはターゲットが「そっくりさん」であった場合だ。もう1つは速度が速すぎるということだ。
詳しくは知らないが、たぶん音速に近い速度で巡航し、最低で もせいぜい400km/hぐらいなので
はないか。だからターゲットの2〜3m手前で「あっ、違った!」と気付いても手遅れになる。日
本人でもカダフィー大 佐なんかに似ている人はけっこういるので、そういう人は気を付けたほう
がよい。もっとも気が付いた時にはもう遅いのだが....

そこでこういった不幸なそっくりさんの犠牲をなくすためには、ハリアーのようにホバーリン
グ(空中に浮いたまま静止すること)のできる 巡航ミサイルがこれからの時代には要求される。
ホバーリングはやたらと燃料を消費するので、長距離ミサイルの場合特に燃費の改善が必要と
なる。さらに通信 機能を備え、あらかじめインプットされたデータを状況の変化に応じ随時修
正し、これに対応できるようになれば完璧である。

あるテロリストの指導者を攻撃目標として発射された巡航ミサイルは、アフリカなり、中東なり
のテロリストのアジトに向かうが、ターゲッ トがそこにはいないということがわかった。関連機
関の情報によれば、どうやら資金調達のため東京に潜伏しているらしい。「せっかく来たのに..」
と思いつ つ巡航ミサイルはホバーリングしながら180度方向転換し、東へと向かった。レーダー
に感知されないよう低空を保ち、インド洋、東シナ海を経て、東京上空 にたどり着いた。

徐々に速度を下げ、品川上空にさしかかったところで、速度を40km/hに落とし、第1京浜の自動
車の列の中に両翼端のランプを点滅さ せながら、典型的優良ドライバーの車線変更のように入っ
ていった。通常の車線変更とは角度が90度異なっていた。最新の情報によればターゲットはこの
付近 のホテルに潜んでいるらしい。唖然として見守る周囲のドライバーの目をよそに、巡航ミサ
イルは高度1mを保ち、自動車の列の中を、周りの自動車の流れに合 わせながら、ゆっくりと日本
橋方面に向かった。

ホテルが見えてきた。巡航ミサイルは左翼端のランプを点滅させながら、左後方から二輪車が来
ないのを確認してからゆっくりと左折してホ テルの入り口に向かった。


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最終更新日 : 2012-01-07 22:22:00

巡航ミサイル

巡航ミサイルは全長が6mあり、ホテルの回転式の入り口からは入ることはできない。隣に自動ドアがあった。自動ドアの前で巡航ミ サイルはホバーリング用の下向きのエンジンの出力を上げた。重量が2tを超えるミサイルを空中に浮かばせておくだけのパワーがあるので自動ドアぐらいは簡 単に開けられそうなものであるが、不幸にもこのホバーリング用のエンジンは翼の付けね付近にあるため、自動ドアのスイッチ、つまり人が乗る部分からは 1.5mほど 離れた位置にまでしか届かないのであった。この距離から少なくとも数十kgの 圧力を感知させるためには相当なパワーが必要である。

周りにあったプランターを倒し、ダスキンを空中に舞上げた末、やっと自動ドアが開いた。「さあ、入るぞ!」と勇んで前進しようとした巡 航ミサイルであったが、ホバーリング用のエンジンの出力を上げすぎたため、ミサイル自身も地上4mぐらいのところまで上昇していた。あわてて出力を下げ、 高度を落とし、地面ぎりぎりのところでまた出力を戻し、ホテルのロビーに頭を突っ込んだ時にはドアは閉まり初めていた。腰のあたりをドアに挟まれ、左右に ふにゃっと揺れてしまい、最新ハイテク兵器らしからぬ失態を披露してしまった巡航ミサイルであったが、なんとかレセプションの前までたどり着いた。

カウンター越しに頭半分突っ込み、空中で静止した巡航ミサイルは、その先端上部の蓋を開け、6インチのLCDモニターをにゅ〜と突き出 した。そこにはターゲットの写真が映し出されている。これを目の前にしたレセプションの若い女は、驚きのあまり、ただただかぶりを振り続けた。隣にいた年 配の女は腰はほぼ抜けていたものの、若い女よりは冷静なようで、「ねえ、これってミサイルじゃない!ちゃんと教えてあげないと怒って爆発するわよ!」と 言った。

これを聞いた巡航ミサイルは、この年配のほうに向きを変え、ゆっくりと全身を先端を下にして3度ほど傾け、またゆっくりと水平に戻った。うなずい たのである。若いほうは、人間の爆発とは意味が違うことを悟り、ことの重大さに気付き急に喋り始めた「えっ、あっ、あの、このお客様なら、そのテレビとは 違って、ひっ、ひっ、髭をはやはやはやかして、いっ、いますが、いま、おっ、おっ、お泊ですが、ひるまは、いっ、いつもがい、外出して、...」ここまで 聞くと巡航ミサイルはゆっくりと後方に移動し、方向転換し先ほどの自動ドアに向かおうとした。

人間の殺し屋であれば、ホテルのロビーでターゲットが帰って来るのを待てばよいのだが、巡航ミサイルの場合燃費の関係上、ターゲットの 行く先々を追いかけて行かないとガス欠になってしまうのである。ガソリンスタンドでも巡航ミサイル用の燃料は売っていないし、かりに売っていたとしても現 金の持ち合わせがないし、滅多に来ないのでカードも持っていない。

巡航ミサイル

エンジンを切って待つという手もあるが、その場合、待っているのか、捨ててあるのかわか らないし、現実的に考えれば、警視庁の爆弾処理班に信管をはずされ、腑抜けにされてしまう可能性もある。

とにかくターゲットが今いる場所に行かなくてはい けない。ターゲットが行きそうな場所のデータを収集、分析しながら、ゆっくりと方向転換し、方向転換し、方向転換し、あれっ?後方翼がカウン ターにぶつかって方向転換ができない。

何度も切り替えしをして斜めになったり、必要以上にエンジンをふかしたりしているうちに、見かねたホテルの従業員や 宿泊客が1人2人と近寄り、巡航ミサイルの方向転換を手伝い始めた。「おい、そっ
ち持て!」「あっ、ちょっと待った、こっちがひっかかってる。」「そう、 その調子、ゆっくりゆっくり、あ〜とストップストップ!」などと叫びながら10人ぐらいで方向転換作業が進められた。「よし!機首を少し下げて、」といっ ているときに巡航ミサイルが間違えてホバーリング用のエンジンの出力を上げて「こら!違うだろっ!」と機体をひっぱだかれたりもした。箪笥や机とは違い、 これはミサイルであり強力な爆発物である。とにかく前方の先端にある長さ3cm、直径1.5cmの金属の棒、つまり信管の部分だけには絶対に何も触れない よう、細心の注意を払いつつ約1時間後に無事方向転換作業は完了した。

沼地にはまって出られなくなったアフリカ象や、浅瀬から出られなくなった鯨などを人間が救出したとき、助けられた動物は人間たちのほう を何度も振り返りながら去っていくのが一般的であり、人間に助けられた巡航ミサイルとしても振り返って礼をしたい気持ちはあったが、振り返るためには方向 転換を伴うため、やらないことにした。ロビーから外に出る時の自動ドアはベルボーイが開けてくれたが、チップを払ってやることはできなかった。

巡航ミサイルがホテルを出てから約10分後、近くの銀行で大爆発があり、100m四方が粉々に吹き飛び多くの死傷者がでた。犯人はもち ろんあの巡航ミサイルである。しかしターゲットは5分ほど前に銀行を出ていて無事であった。この爆発の原因は銀行の自動ドアが、手で触れるタイプのもので あったことではないだろうか、とホテルの関係者は口を揃えた。

ロボット

1999年吉日にロボットが完成した。特にどういう目的とか、いつまでにという期限を定めたわけでもなく、ただ暇つぶしに週末を利用してコツコツと作っていたのだが、思いのほか早く完成してしまった。

脳味噌にはPentium 225MHz を使い、友人のプログラマーに協力してもらい一般的な家庭内での作業をシュミレーションして、考えられる動作をすべてインプットした。例えば「歩け」とい うコマンドに対して、どの部分のモーターを動かしてどのように関節の角度を変え、どうやって動くかというプログラムである。

4GBのハードディスクを搭載したのだが、思いつく限りの動作をインプットしたにもかかわらず、まだ1GBちょっとしか使っていない。最初から1.2GBにしておくべきだったと悔やまれる。このPentium のPCボードを一斗缶を半分に切って作った約30cm立方の頭に入れ、41万画素のCCDカメラを目の部分に2個取り付けた。最初は10倍ズームを1個の 予定であったが顔がキプロスになってコワイので、左目を一眼レフで35mm相当の広角、右目を85 〜 135mm のズームの2個にした。この右目は接写を兼用していて、さらにカメラ自体が上下左右に45°ずつ動くようにした。このため右目の周りだけにカメラが動くた めの隙間が必要となり、ちょっと驚いているような顔になってしまった。

コマンドを音声認識するための耳も必要で、これにはカラオケ用のマイクを頭の左右側面に埋め込み、ネギ坊主(マイクの丸い金網の部分)の半分を外に出すようにした。電話やインターホンにも応対できるようにするため、多少の言葉もサンプリングして喋れるようにした。当然口が必要になる。 スピーカーはBOSEといきたいところであったが、相当するクオリティーのアンプをつんでいるわけでもなく、所詮定形言語しか喋らないので、粗大ゴミで捨 ててあった楕円形のテレビのスピーカーを使うことにした。コーン紙のエッジが少し破れていたが特に支障はないようなのでそのまま取り付けた。

鼻は別段必要ないのだが、何にも無いのも寂しいのでガス漏れ感知器をそのままくっつけた。このガス漏れ感知器はPentium 225MHz とはどこも繋がっておらず、スタンドアローンで機能する。つまりロボットの意思や動作とは関係なく、ガス漏れを感知したときにビービー鳴りだすというもの だ。

胴体は1ドアの小型冷蔵庫をリサイクルして使った。密閉性も良く匡体が比較的丈夫で、ワンタッチでドアが開けられ、燃料の補給やメンテナンスが容易であるのがその理由だ。

ロボット

燃料はガソリンで、ラジコン用のエンジンを回し、解体屋でもらってきたダイナモで自動車用のバッテリーに充電し、このバッテリーから全身 の関節部分のモーターに電気を供給するという仕組みである。さらにのダイナモはセルモーターに連動し、このセルモーターにはタイマーと温度計がついてい て外気温に応じて一定時間自動的に充電するというものだ。

この部分もロボットの意思とは関係無く勝手に作動する。後でわかったことであるが、市販の発電機を買ってきてそのまま入れればずいぶんと手間が省けたはずでもあった。

手の部分は気合いを入れて作った。ちゃんと5本の指があり、それぞれの指にも間接があり人間の手とほとんど同じ動作が可能なものだ。さら に指の先端にはゴム製の円形のプレートがついていて細かい穴がいくつも開いている。この穴から空気を吸い取り吸盤として使えるのである。ちょっと凝りすぎ たせいか人間の手よりは二回りほど大きくなってしまったがロボットなので仕方の無いところである。

これは手に限らず全体に言えることだが、やはり人間と同等な滑らかな動きというのは不可能であった。例えば床に落ちた物を拾うとき等は、初動はかなり無造作で動きも速く、このままでは手で床を突き破ってしまうのではないかと思わせるほど大胆である。

しかし拾おうとしている物の5cmぐらい手前でぴたっと止まり、あとは分解写真、といっても若い人はわからないかもしれないが、ようする にコマ数をはしょった Quick Time Movie のような動きで物に近づき、接触したのを感知してから物を落とさない程度の強さと物を壊さない程度の弱さを加減しつつ慎重に拾い上げるのである。

すべてにおいてこんな動きであるので非常にロボットらしいのである。カブトムシとかカナブンが平らなところを歩いていて頭が壁にぶち当たるとぴたっと動き が止まり、数秒後に右か左、または壁を登るという動作に移行するが、あの数秒間はやはりCPUが処理をしているインターバルであり、もしかするとロボット なのかもしれない。


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