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おやすみ いち から ご

詩小説「すきから あいへ おやすみ」全103P

 

著者紹介
るんぺんパリ / Run Pen Paris

 

三重県伊賀市出身、たれその森で遊んで大きくなる。現在は静岡県在住。
以前は「Kマーホ」の名で活動、詩集「トイレの閃き」、「テレビジョン」、
「おしりとサドルが あいますか」、「マガサス星人」、「コールサック」、
「眠立体」と6冊を出版して活動を終了。

令和元年に「るんぺんパリ」の名で活動を再開、
第一詩集「ところで あした あいてる」を出版。

「るんぺんパリ」の由来は、
パリの街をぺんを持って走り回る詩人の「Run Pen Paris」から。

 

     目次  Moku + ji

1  おやすみ いち   Oyasumi + 1
2  おやすみ に   Oyasumi + 2
3  おやすみ さん   Oyasumi + 3
4  おやすみ よん   Oyasumi + 4
5  おやすみ ご   Oyasumi + 5
6  おやすみ ろく   Oyasumi + 6
7  おやすみ しち   Oyasumi + 7
8  おやすみ はち   Oyasumi + 8
9  おやすみ く   Oyasumi + 9
10 おやすみ じゅう   Oyasumi + 10
11 おやすみ じゅういち   Oyasumi + 11
12 おやすみ じゅうに   Oyasumi + 12
13 おやすみ じゅうさん   Oyasumi + 13
14 おやすみ じゅうよん   Oyasumi + 14
15 おやすみ じゅうご   Oyasumi + 15

 

 

 

          おやすみ いち   Oyasumi + 1

 

 


 時間って思った以上に長いし、思ってなかった以上に短いと感じる時があって、
今は長いのかな、短いのかな、まあどうでもいいことですけど。
 猫のことを、呼び捨てにすると「ねこ」でしょう。猫の事は嫌いなんですけど、猫の事を好きな人かどうかなんて見てわからないから、「ねこ」とは言わないようにしています。本当に嫌いなので傷つけないように「にゃんこさん」と呼んで、本当は好きなんじゃないのと思われるように嫌います。僕が言っている事、おかしいですか。
 そうです。結構、年が離れているんですよ、姉ちゃんとは。僕が小学一年生の頃に姉ちゃんは五年生でした。姉ちゃんは、まあまあ美人だと思います。特に寝顔はものすごく綺麗で、昼寝をしてしまった姉ちゃんを何とかしてこのまま残したいなと考えた事があって、僕は絵が得意だったので、昼寝してる姉ちゃんの似顔絵を一生懸命に描いたんです。出来上がったすぐは満足なんだけど、何だろう、絵が劣化して一時間もしない内に気付くんです、自分が好きな物を違う物に写しても、その物じゃない物に感情が入る訳もなく、なんて意味の無い時間を使っていたんだと、似顔絵にかかった時間がくやしくて自分に腹がたったんですよ。ちょっとおかしいですよね。
 最初で最後の一目ぼれだと思います。そうです小学一年生の入学式には一目ぼれをしていました。髪の長い子で僕がいた保育園には類似品ですらいなかったですよ。なんだろうな、もう毎日、カッコばかり付けていて、でもウチは貧乏な部類というかケチな家の育ちだったから、小学一年生でわかるんですよ。なんか生まれが違うというか、人から出てる、なんか、こう、ピュアなものが自分と違っていて、話すこともできないし、話しかけても来なかった記憶があります。なんか純粋でいいでしょう。この話、二回目でしたっけ、すみません、この頃が一番、言葉にできない何かが沢山出てきて、それを何かで表現しようと、好きな絵を描いて見たり、夜の暗闇を窓から覗いて見たりと何かに、それが物なのか、たぶん物として持っていたいと思うけど、それが出来ないところが、やっぱ小学一年生ですよ。
 ところで、小学一年生で「一目ぼれ」っていう感情についていけてたのかな、「あの子、なんか、かわいいな」って思ってるぐらいで、じゃあ何って、それでどうしようって、女の子と気軽に話したりできるような何かを持ってる訳でも無く、ただ一つ、思い出した事があるんです。
 僕は、おこりんぼうだったので、自分が怒った瞬間の記憶がないくらい一瞬だったと思います、理由は覚えてないんですよ、怒った理由は思い出せないんですよ、もう事は終わってたんですよ、その一目ぼれの髪の長い子のほっぺに爪の痕を付けちゃたんです。多分、叩いたりはしなかったと思いますが、その子の顔に爪を立てた事は確かに、確実な事実です。嘘はついていません。
 それから、一週間ぐらいは、その子の顔に爪の傷が残っていて、その事がきっかけで、そうです、先生に怒られて謝って、「じゃあ 仲直りしましょう」てな感じで、入学当初よりは近い存在に慣れて、自分はその子に罪滅ぼしのように体裁が悪く、優しくなっていたと思います。
 なんか恋って感じでしょう、授業が終わった後の休み時間とかはよく空を見ていましたよ、いや、本当ですよ、結構、大人な小学一年生で教室の窓から見える山の向こうが気になって仕方なかったですよ、ちょうど向かいの山の一部分がへこんでいるんです、噂では雷が落ちたからとか、未確認飛行物体が落下した後とか、噂がすごくて小学校の誰も理由がわからない山のへこみだったんです。それから夏休みが終わってもその山のへこみはへこんだままで、そうそう、いつかその山のへこみから光が見えたんです、そうそう昼間ですよ、夜じゃないですよ、小学一年生ですから、みんなで騒ぎましたよ、ついに何かが起ころうとしているって。
 「もどります」。一目ぼれの髪の長い女の子の話ですけど、これはもうドキドキでしたよ、どうしようって思いましたよ。
 そろそろ友達も増えてきて、髪の長い女の子とも少し簡単に話せるようになって、その日はその子の家の近くの男の子の家に初めて遊びに行ったんです、それも学校帰りに、それで外で遊んでたら、その髪の長い女の子の家がすぐそこにあったんです、そしたら、その髪の長い女の子が出てきて家に呼んでくれて、応接間に入った時に、その髪の長い女の子がこう言ったんです。「おとうさんが 娘の顔に傷を付けた子を見てみたい」って言ってるからって、小学一年生でこれほどの恐怖というか、何というか、もう逃げる事もできない状態でお父さんが来て、「もう、顔に傷を付けるような事はしないでね」とやさしく言われましたが、そのあとの記憶はございません。たぶん「はい」と言ったのか、「ごめんなさい」と言ったのか、その後にその子のお母さんと中学生のお姉ちゃんが現れて、僕の顔を確認していったと記憶しております。なんと、おそろしい記憶じゃ。
 それで、もう仲良くなったんです。一目ぼれで話すこともできなかった、あの髪の長い子と、普通に話すことが、簡単になったんです。でもね、そこに恋があったかどうかは覚えていません。もうその子と話せるだけで何か満足していたと思います。
 もうそろそろ、小学一年生も終わろうとしていて、友達とか新しい時間であふれて、これからもあふれる事しか考えてなかったときに、教室に何とも言えない何かが見えたんです。あの子が転校することになったって、だれが決めたのか、この小学校が嫌いになったのか、なんだろう、みんなは転校の意味すらよく分からないまま、理解したのは、このままこの小学校にいないし、もう会えなくなる事だけで悲しいとか、苦しいとか、そんな単純な気持ちじゃなくて、もう簡単に笑うことが、その子を見るたびにできなくて、もうやめますか、この話。
 その日、空気がとても冷たかったけど、息を吸う事で体から温められた空気がしっとりとした瞬間に、またまわりのとても冷たい空気に温められてをくりかえして、いつものたれその森をを見て、わくわくしてたと思います。新しい小学一年生ともうすぐ一緒に学校へ行くことが、とても大きなお祭りのようで、みんな大きなランドセルがピカピカでツルツルしてて、新しい一年生よりも新しい気持ちをたくさん持ってたと思います。
 クラスも変わって、あの子はもう居なくなったけど、あの子も今、新しい学校で僕のような一目ぼれを受けて、意地悪な子もいるかもしれないけど、あの子の笑顔があれば、誰だって好きになっちゃうだろうし、僕は本当に好きだったんだという事がこれからも続くとは思っても見なかったけどね。
 君は、海のある街に転校したって聞いたよ、ごめんね、僕はまだ海を見た事が無いんだ、いつか大きくなったら海を見に行くよ、簡単にいつか会えると思ってるんだ、だって簡単に僕は一目ぼれをして簡単に意地悪をして、簡単にごめんなさいをしたら、あっという間に簡単に友達になれたじゃないか、ほら簡単だったでしょう。
 君が転校して、次に一目ぼれする子は出なかったよ、小学校一年生だったから一目ぼれ出来たんだ、小学校二年生で一目ぼれはもう無いよ、一目会うことが無くなったんだ、もうこの小学校で髪の長い君に会えることは無くなったし、もう君も新しくなってしまって、この小学校の事は覚えてないだろうね、さよなら。
 僕には、姉ちゃんがいる。姉ちゃんも小学六年生になって、学校で新しい小学一年生の面倒を見る事が多くなったようで、あの男の子がかわいいとか、あの女の子がかわいい服を着てたとか、なんだか僕から離れて行くような気がして、少し新しい一年生に冷たくしたくなった事もあったかな、そんなもんですよ、単純で簡単ですから、僕の考え方なんて。姉ちゃんは僕よりもっと単純で簡単だと思います、だって僕は姉ちゃんからもらったものが多いから。

 

 

 

          おやすみ に   Oyasumi + 2

 

 


 小学二年生になって、僕は何かが変わってしまった。一目ぼれだったあの子は居なくなり、小学校というこの箱にも慣れてきて、ふと気が付くと先生の意味がまったく分からなくなったんです。これが小学二年生です、小学一年生は何もわからずにこの箱に入れられ、箱が傾けばみんなが偏り、また箱が傾けば、またみんなが偏り、踏ん張ることもなくズルズル、スーっと、傾くのが始まりであとは、新しいことばかりが毎日、毎日をぱちくりさせて、気がつけば一人ぼっちで、近道したりとたれその森を覗いていた。
 担任の先生も変わった、髪の長いあの子もいない、教室は一つ隣にズレて、前の教室は新しい一年生が楽しそうにしている。友達は、増えたのか減ったか、本当に友達なのか、誰も教えてくれないし先生もわからないと思う、授業中によくよそ見をした、運動場が気になる、たまに迷った野良犬が現れて箱の中のぼくたちを茶化すように何かを追いかけまわしているのが人間らしく見えて、この箱に詰められたぼくらは、うすい紙に包まれたお饅頭で、ぱっと見は誰が誰なのかわからないうっすらした個性しか出せない時間にもう毎日、ぼんやりしてたよ。
 今日は、席替えをします。先生が言ったこの言葉はとてもうさんくさくて、それで何がしたいのと、いつも先生の表情、目、動き、口調がとてもいやな雲に見えてきて、ふうーと吹いてさ、さっと手で払ってさ、なんか仕組まれたような席に決まってさ、班の名前を決めましょうなんて言い出して、なんか隣の班は仲良さそうだな。
 隣に座る子は女の子になる事は決まっていて、先生のプラモデルのように、これとこれはと、決まった感がある。先生もプロだから僕の様子は気にかけてくれるのはよくわかったよ。せんせい、ありがとう。って思ってた。
 新しいクラスにも、馴染んで来て、みんなの個性がとてもうすい紙を溶かす子もいれば、少し穴を開けだす子、なんかすごい何かが透けて見えてきた子、それぞれがオリジナルを作り出す、その光景にまた僕ものっかてきて、いや、僕は僕一人、完全なオリジナルだから、もちろん対抗する。
 そのうちさ、なんか見えてくるんだよね。誰が誰を、ああだ、こうだ、なんて、わくわくする気持ちが、僕には家が近所でもう仲良しとかいう存在じゃなくて、何かあると一緒に行動させられた子がいた。その子は見た目がバツグンで、性格は、ごめん、上面しか知らない。だけど印象も抜群で、大人受けが非常に良かった子で、この子と遊ぶ事は誰もが悪く思わないという、すばらしい近所の子がいたんです。
 ところで、遊園地に行ったらまず何に乗ります? 僕は観覧車が好きなんです。存在感とか、時間の流れを感じる秒針のような、その風格とか、でもいわゆる男の子って感じじゃないので小学校で観覧車が好きと言った事は一度もなかったですよ。そしてその近所のバツグンな子は、やっぱ抜群なんですよ。スピードで包まれる、あの感覚に見合った顔立ちに、僕はその子と一緒に乗り物を男の子として戦った事があり、横で大きな笑顔にスピードが乗っていた、その横で青ざめた僕は完敗で、二度と一緒に乗ることはなかった。認めます。負けです。
 今まで、あまり気にしていなかったんですけど、その頃、同じ班で少し話がしやすい女の子が出来ました。毎日、テレビの話や別の女の子の話をするようになって、そのうち、好きな子の話になったんです。
 小学一年の時に転校した髪の長い子の話を僕がして、その仲良くなった女の
子は、僕の近所のバツグンの子が好きらしく、おそらく、おそらくですよ、僕が家の近所で仲がいいと思っていたのかもしれない、これは、当時はそんなこと一つも感じないし、考えもしなかったけど、僕が初めてできた恋の話せる女の子の友達は、その後、小学校の六年間好きだったらしく、僕と同じ小学一年生で一目ぼれだったそうです、なんか素敵な話じゃないと思いませんか、僕の一目ぼれの子は転校してしまい、初めて恋の話ができるこの女の子も一目ぼれだったんです。
 僕は、転校したあの子からまだ離れることはできず、海の近くの小学校にいるのかななんて、独り言をいいながら学校帰りのたれその森で遊んでいました。
 それから、その子の恋は僕の恋も生まれる事となるのです。僕は近所のバツグンの子を誘い、あの子は別の友達の女の子を誘い、偶然を装い、公園でばったりを計画し、この計画はお互いが混じって遊ぶなんて事はいっさいないのですが、大成功だったと思います。あの箱に詰められた小学校以外で、みんな自由な笑顔で、同じ公園で、交わることのない好きという気持ちが、ものすごく綺麗で、そう、雨上がりに映る空模様のように、純粋な、こう、わかります。まあ、わかって下さいよ、ここからなんです。
 僕の恋の話の話せる女の子の友達は、もう恋が進んだようにうれしくて、僕に恋の気持ちの話をしてくれました、そうなると、僕の好きな子について聞かれる事が増えてきたんです。一目ぼれのあの子の次に気になる子はいないのって、実は一人いたんですけど、同じクラスにもなった事が無く、どんな子かも、どこの子かもわからないけど、気になる子はいるよって話をしたら、その子の友達だったらしく、もうそれから六年生になるまで、その子の事が好きだった。
 僕は、小学校卒業で転校してしまうんだけど、僕が両想いだったと知らされたのは、卒業式の前日で、家で引っ越しの準備で小学校の頃の写真を見ていた時、僕の後ろの近くには、いつもその子が写っていて、何だろう、お互い気持ちは同じで、それで充分に満たされていた、その子に好きという事はなく、恋の話ができる女の子に、どこが好きとかいう事じゃなく、なんかすべてが好きだったということだけ話して、この後、二度と再会する事は無く卒業しました。

 

 

 

          おやすみ さん   Oyasumi + 3

 

 


 もう過去は振り返らないし、思い出さないし、連絡もしないぞ、中学校は一学年で七クラスある、なんて人の数だ、本当に同じ年なのかと思うぐらいでかい奴もいれば、小さい奴もいる、感じ悪いのもいるし、なんか良さそうな奴もいる、何が始まるのかは未知の世界で、なにも変わらないであろうとする自分と、変わった方が、あたらしい何かがあるんじゃないのかの自分、まあどちらも本当の自分なのかは、自分ですからわからないのが、この年代でしょう。
 まず、誰もしらないわ。何から始めようかってそんな時間なんて、まったくないんですよ、だって始める事がいっぱいで、何かを決めるにしても友達がいないから、はっきり言って何も決まらない、そこで姉ちゃんだな。
 姉ちゃんは、高校生で油絵を描く部活に入っていた。姉ちゃんが中学の頃はバスケ部で、なんか汚い感じがあったけど、いまの姉ちゃんはかなり素敵に高校生活を過ごしているようで彼氏の話とか、友達の好きな子の話とかを大きな声で夕食中に話す、僕には勝手に入ってくる情報で、なんかいいな、なんか楽しそうだな、なんか姉ちゃん生きてるな、なんかなあ、見たいな気持ちが自分の中でちらちらと姉ちゃんを見ながら、ご飯はそれほど進まず。
 姉ちゃん、忙しそうだから、なかなか声をかけられないし、姉ちゃんも昔ほどやさしく話しかけてこなくなったから、姉ちゃん、変わったな、なんて、自分も変わってるはずだから言えないですよ。
 ところで、ウチの姉ちゃんって結構細かいところがあって、歯ブラシをしまう時の毛先の向きにこだわりがあるみたいで、お父さんの歯ブラシの毛先と向き合うのはかなり嫌みたいで、どれだけ眠たくて、ぼーっとしながら歯を磨いていても、歯ブラシをしまう時は、クルッと向きを変えているのを見たんだ。
 なんか姉ちゃんなりにあるんだろうね、実は自分も、お母さんとお父さんの歯ブラシの毛先は嫌なんだ、だから姉ちゃん向きにしてる、姉ちゃんは僕の歯ブラシの毛先を気にしてないみたい、まあ姉弟だからね、自分で言うのもなんだけど、姉ちゃんは僕の事、どう思ってるかは知らないけど、僕は姉ちゃんのこと、結構好きだから、姉ちゃんの真似はするし、姉ちゃんの言うことは、ほぼ同意できる、何かあったら姉ちゃんの一番の見方は僕だよ。いまだに姉ちゃんと類似した人とは出会えてないから、姉ちゃんが最高のオリジナルで、最高の姉ちゃんだと小さい頃から思ってる、ただ姉ちゃんの彼氏が少し気になる。
 姉ちゃんの彼氏は、有名な窯元で兄弟がいるようで、家を継ぐような継がないような話をもうすでにしているらしく、姉ちゃんと同級生で美大を目指しているとのこと、姉ちゃんはそれほど好みではないらしく、その窯元の子の方が姉ちゃんに告白したという流れで、すぐに付き合ったわけではなく、姉ちゃん曰く、別にあと二人から好きと伝えられていたらしい。
 もうその窯元の子は正式に親公認で付き合っているらしいのですが、夕食の大声話によるとお家柄がいいとか、職人感がいいとか、自分が窯元の主権を握れるとか、姉ちゃんから聞きたくない物が出ていて、僕が一番嫌なのが、それを話す姉ちゃんの表情が僕には何かに支配された表情にしか見えず、幼いころから寝顔がとても綺麗だった姉ちゃんとは違う、まったく違う、違うんだよ、姉ちゃんじゃないんだよ、言いたいこと、わかりますか、わかりますか、わかりますか。
 コーヒーはブラックでしかっていう意味を知った時に、コーヒーはブラックしか飲まなくなったんです。それまではあんな苦いブラックのコーヒーなんて自販機で買う奴の気がしれなったんですよ。なんとなく伝わりますよね僕の気持ち。 
ある日、姉ちゃんが、ブラックのコーヒーしか飲まない事を知ったんです。子供のころ、あんなに甘いものが好きだった姉ちゃんが、上野の天神祭りに家族でいった時に、姉ちゃんが大きなりんご飴を買ってもらってすごいうれしそうに大事に、おうちに持って帰って勉強机の上に置いて眺めてたのを僕は、そんな姉ちゃんが素敵で僕もそれから、芭蕉祭や上野天神祭りでりんご飴を買って姉ちゃんの気持ちに近づきたくて、まず、お祭りだとりんご飴を探したんだ。
 そんな姉ちゃんがブラックのコーヒーしか飲まないなんて、その理由を知りたかった僕は、姉ちゃんに聞いたんです。そしたら高校生になったらわかるよなんてつまんない返事してきたから、もう聞くのはやめて自分で考えることにしたんです。
たぶん、おそらくですよ、姉ちゃんは高校生の時に油絵を描く部活に入っていたんです、その時にコーヒーの本当の色を追求していたんです。砂糖もミルクも入れないコーヒー、ブラックのコーヒーの色です。その為にはまずブラックのコーヒーの味を油絵にするときに思い出せるぐらい飲まなきゃいけないと感じてコーヒーならブラックにしたんです。
 自分が描いたコーヒーの絵からブラックのコーヒーの香りや、そのコーヒーを好む人への気持ち、真ん中に置かれたコーヒーカップがメインのその油絵には、ブラックのコーヒーを好む者にしかわからない何かがあふれていて、実物のように再現できない絶妙な濃度の絵の具が迷い無く載せられ、それは今も姉ちゃんの部屋に飾られてあります。この絵を理解できるのは姉ちゃんと僕だけ。
 それから姉ちゃんは、かなり本気だった。その窯元の子の家に嫁ぐ為に必要な独自性を磨く為に、りんご飴からブラックのコーヒーを意識してまで、何か将来につなげるものを見つけ出そうとしていたと思います。
 なんか、姉ちゃんが姉ちゃんじゃ無くなっていく寂しさって、もうわかんないでしょう、ただ単に成長過程って思っているでしょう、ほんと話すだけ無駄な気がするんですけど、本当に僕の気持ちわかりますか、わかりますか。

 

 

 

          おやすみ よん   Oyasumi + 4

 

 

 
僕の部屋は二階で、階段を上ってすぐの部屋で、誰かが階段に近づくと意識は乱されて、なんかこうしらけるんです。せっかく一人の静けさに腰かけて足をほおり投げて、いいところだったのに。ただこの部屋は雑音が多いんです。部屋の扉を開けた向かいは小さな小窓で顔を少しだせる、そう小さな額縁のような窓から、毎日、毎日、雑音が顔を出して来るんです。この小窓、退屈しのぎには絶好のスクリーンで、時には滑稽な、時には事件が、そして期待が。
 いつだったか、ものすごい音がこの小窓から聞こえたんです。それはラーメン屋に入ろうとして、道路と歩道を分けてる路肩、あれですよ、あれ、子供がよく歩きたがる、あの平均台のようにして、そうそう、おとなもたまにするでしょ、あのコンクリートにのっかってる軽自動車が現れるわけですよ。これが現れるともう自分の部屋ではゆっくりできないですよ。ここから時間の読めないテレビがこの小窓から放送され、それをわくわくしながら、そうです、トイレのタイミングも難しいこの番組、最高でしょ。
 それでこの軽自動車はもう絶対に動けないんです。路肩に綺麗にのっかって、タイヤは、宙に浮かんで妙なバランスで、そうりゃそうだわな、こどもの頃に一度はこの路肩にのるでしょ、大人もたまにのるでしょ、じゃあ次に乗るのは自転車か、そして究極は自動車だわな。ほんと人っておもしろいですよね、普通に考えてもあの路肩に車が乗るなんてね。それでそれでね、だいたいその路肩にのっかるのは女性二人組なんですよ、おおきな声で電話してて周りの車は邪魔そうに見てるけど、その路肩のっかり軽自動車を横切るときは、うそだろって顔が、この小窓からも見えて、これが一番、この顔を見るのが一番、気持ちが欲動するんです。これが起こるのはだいたい夜でそれも8時以降が多い、やっぱり早くラーメンを食べたくて急いで向かってきたんでしょうね。なんかおなかすきません。
 廊下の小窓って暗くすることが務めでしょ、電気を付けられると、小窓から覗いていることが、まるわかりで、誰かが階段を上ってくると一度小窓を閉めて自分の部屋へもどるんです、なんか見てはいけないテレビを見ているようで、それを見られたら、なんか本性がばれてしまうって感じで、まあ無言でさっと一度、部屋に戻りますよ、内心は階段を上ってくるなですけど、そうもいかないから、家族だしね、その辺は家族をよく意識してると思うんですけど。
 赤えんぴつって使いますか。赤えんぴつを忘れたんです、理科の授業で使うんです。理科の授業は教室が違って毎回、教室を移動しなくちゃいけないんです、そうすると忘れるわけですよ、赤えんぴつを、その日、赤えんぴつを忘れたんです、そうしたら、少し気になってた子が貸してくれたんです。理科の授業って班になって席が分かれていてこの理科の時間にしか近づかない子もたくさんいて、それが新鮮でこの中学校に入って素性の知れない子がたくさんいて、このシステムは良かったですよ、自分から人によって行かなくても、これは、こういうシステムで、こうしなければいけないんだみたいな、この学校良かったと思います。
 それで赤えんぴつの話、これは一目ぼれじゃないんですよ、気になっていたという事で、なにが気になっていたかって、すこし冷たい目の形をした子で、その目の形があの一目ぼれをした、あの子ですよ、髪の長い女の子の目の形が似ていたと思います、でも全体的には全然、あの子とは違っていて、赤えんぴつを貸してくれた子は笑顔のときに、冷たかった目の形がものすごくやさしく見えるんです、そこがたまらなくて、その場面を見たくて、ちらちらと気にしてたんです。
ちらちらとね。すこし恋をしたのかもしれません、好きという気持ちもなかったとは考えられません。理科の授業が終わり、赤えんぴつを返したときにすこし笑顔をくれました、その笑顔はこの中学校にきて初めて、魅かれた笑顔で本当の笑顔だったと今でも残っています。
 お昼休みは、いらないといつも思っていて、この時間は無しにして早く学校帰らせてくれよって思いながら、いつも気を使わない図書室へ行っていました、その赤えんぴつを貸してくれた子は吹奏楽部で、お昼休みはその図書室へいく途中で、管楽器ががやがやしていた、どこかにいるんだろうと、でも知ってたんです、あの子は小さな笛を吹いていたのを、だからここにはいないだろうと思っていたけど、なんとなく同じ吹奏楽部だから、いるかななんて、すみません、もう赤えんぴつを貸してくれた時点で勘違いしてたのかもしれません、自分だけが勘違いして、もう好きだったんだと今は思います。
 友達は、たくさんいましたよ、もう数えきれないほど、出会ったら、知らんぷりはしないし、近くにいたら話ますし、気なんて使わないし、友達って気を使ったら友達じゃないと思いますよ、だって友達でしょ、気楽にできるのが友達でしょ、よその小学校から転校してきた自分にできる友達は、こんなもんでしょ、信用とか、真のとか、そんな事は友達には使わない言葉で、考えもしないし考えようとしなかった。そんなもんでしょ、実際の友達って。なんか、くどいですね。
 その日のお昼休みは、図書室の窓際の本棚の上に本を開ける振りをして窓の外に見えるコンクリートの教室を眺めてたんだけど、楽しそうに鬼ごっこして子もいてさ、この時間で、この環境で、この友達で、このままで、すべて満足してる自分にニヤッとしましたよ、すこし同級生をバカにしていたかも、ただこれ以上先に、何か自分が楽しいと思える事がなくて、あの鬼ごっごしてる子をバカにしながらもあこがれていたのかもしれません。なんかおもっいきり誰を追いかけて、おもいっきり誰かから逃げるような先が、あの頃に見えていたら、自分はこんな事にならなかったと思います。あの頃に知ってで、もう一度、赤えんぴつを忘れてたら、少しはこんな自分になってなかったような気がします。

 

 


          おやすみ ご   Oyasumi + 5

 

 


 
その日はとても空気がカラッとした感じで街全体がそわそわしてるような早歩きしてるような、もう何から開放された気持ちは、やりたい事があふれてきてその順番すら決められず、その日その日に思い付いたように動き出し何を思ったのか力強くこう言った「カッコよくして下さい」それも美容室ではなく理容室に言ってた、鏡越しの散髪屋さんはロックな感じの人で「まかせろ」って顔で語ってくれて、すこし思ったのはもしかするとロックな感じになるのではと、この理容室で言う言葉を間違えたのかもと考えていくうちにその手のはさみは迷いもなくロックしていた、これが初めてのロックとの出会いかもしれません。
 どの角度からもロックしていた顔から上は高校生となった自分を大満足させてくれるぐらい老け作りで大人に見られたい願望を満たしてくれたが、問題は中学生の頃から着ている服で首からしたが幼いではないかと姉ちゃんに相談したんです、そしたら姉ちゃんが白い男性物の襟付きシャツを羽織らせてくれてその時に姉ちゃんがものすごく大人に見えて、なぜか姉ちゃんが止めどなく好きになったけど、やっぱり姉ちゃんだからってのが、どこかにポイってしまい込んで、姉ちゃんの好みの服装になった、今考えると姉ちゃんのセンスは地味というかシンプルが好きで柄のものを好んでなかった この頃の姉ちゃんは美大生で独特の感性を言葉にしていたけどその作品はどこか複雑でどこに時間がかかったのかわからない物が多かった、それは姉ちゃんも恋をしてはその恋をどこかに置いて、また恋をしてはその恋をどこかに置いてを繰り返しているようなその純粋さが姉ちゃんの服装に出ていて、それを素敵に感じる事が出来るのは誰もいないような気がしたけど、すこし感じる事がこの日は出来て姉ちゃんを止めどなく好きなった。
 服装も髪型も決まり、待ち合わせ場所にかなり早く着いたけど、そこはかなりの人が行きかうビルの下で、なぜここを待ち合わせにしたんだろうと高校生に勢いだけの季節はかなりカラッとしていて、なんか突っ立てる姿を想像しながら、ポケットに手を入れたり、すこし大人の人を見つけては真似をして見たりと、かなり恥ずかしい動きをしていたと思います。
 なんか、今日は 機嫌がいいでしょ。恋の話って思い出しながら、その景色とか気持ちとか、においとかも鮮明に溢れてきて、いつの間にか止められないぐらいの情報で、それを頭の中で整理していても順番がおかしくなったりと、それが一番、ハイになっていくのがうれしくて止まらないです、わかりますか、ねえ。
 そういえば、ずっと話を聞いてくれていますね、うれしいですけど、なんか理由があるんですか、愛とか、恋とか、好きとかって、どこかで変わっていくのか続いていくのか、また別物なのか考えたことってありますか。
 分かれ道だとかいう人もいますが、本当に分かれ道があったと思いますか、分かれ道なんてのは言い訳のような気がします、あっちへ行っておけばって思っても、それは終わった後のただの吐息でしょ、重たくもなく軽くもなく空気の一部の状態で後悔なんてしてもなにも個体として存在しないんでしょ、どうです。
 朝から寒いことわかっていながら人ってまどを全開にして本当の感覚を知りたいと思うんです、それも、それぞれが独り言を言っているようで、結構な確率で毎日を同じタイミングを使っています、愛とかって自分が感じる何かを文字にできなかった人が作った個体ですよね、恋も、好きも、同じ個体でしょ、個体って壊すこともできるけど、パズルのようにもできると思うんです、この愛と恋と好きという個体をテトリスのようなブロックにして愛は赤のブロック、恋は青いブロック。好きは黄色いブロックとみんなでゲームのように遊んでいる中で何かが、一人でブロック遊びをしても、それはおもしろく無いから人は誰かを見つけて愛とか恋とか好きとかって言い出しながら落ちくるブロックを組み合わせて納得していくのであって、納得できない物は積み重なるし、その内にせかされるし、なんか、つかれましたね。
 その待ち合わせした子とは、初めて会うんです。別の中学校の卒業アルバムを見せてもらった時にその作り出された笑顔が気になって紹介してもらったんです、だから向こうの子は初めて見る事になると思います、その日は少し歩きました、自転車で現れたその子は中学の卒業アルバムより素敵な作り笑顔を見せてくれて、少し前まで姉ちゃんに魅かれてたのに、もうそんなことは片隅にもなく、その子の横顔に一生懸命に話かけたことを思い出します。その子が、その時、どう思ってくれていたのかは、覚えていませんが、あの時のあの子の横顔は高校生になった事を称えてくれているような、そんな横顔でした、同じ年なのに少しもゆれないんです、そう空気が、はなしかける自分のまわりの空気はゆれすぎて力は強いのにその子には感じてないように見えました。
 ものすごく青い空なんて見た事ないんです。白が多い空しか見た事なかったんです。その日は、とてもカラッと空気で沢山飲み込めたし、沢山吐き出すこともできました。ただ見えないんです、自分のまわりの空気が最終的にどこへいったのか、どこへいくのか、どこへむけたのか、本当に空気があったのかさえ、無重力の青空でした、雲一つないのに、薄暗く感じるです、その子に話しかけていた横顔からの青空は真っ青な青色をしていて、それに夢中になって言葉をならべてパズルをしてたんですが、ひとりぼっちだったとおもいます、ひとりぼっちの言葉たちが喜んでくれるんだろうとおもって連れだしたんです、いや無理やり連れてきたんです、愛とは恋とか好きとかっていうグループに分けて仲良しだと思っていたんです、だから、その子のまわりの空気は少しもゆれなかったと思います、だから、だめなんですかね、聞いていますか、そういえば、たくさんお話しましたが、あなたは、だれですか、あなたは、だれだったんですか。


試し読みはここまでです。続きは購入後にお読みいただけます。

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