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  • 魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女
  • 魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女
  • ポピーは魔法の世界に住む少女。その世界では「キャビッチ」という、神から与えられた野菜で魔法を使う――「食べる」「投げる」「煮る」「融合」など。 13歳になったポピーは、新たに「シルキワス」という伝統の投げ魔法を会得し、充実した毎日を送っていた。 そんなある日ポピーは母親に頼まれて、祖母の家までおつかいに出た。その祖母こそ、ポピーにシルキワスを教えた人であり、魔法界に――そして鬼魔(キーマ)界に名だたる伝説の魔女・ガーベラその人だった。 おつかいの途中でポピーは、ふしぎな声を耳にする。気になりながらもその正体はつかめずにいた。 そして祖母の家でポピーは、長いこと旅に出ていた父親と再会するが、彼女にくっついて来たポピーのライバル鬼魔・ユエホワを見て祖母と父が言った言葉に、はげしく動揺するのだった――
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  • 葵むらさき葵むらさき

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 私たちは、畑から十メートルぐらいはなれたところに立つミイノモイオレンジの木の陰から、そっとのぞいた。

 月明かりが畑を照らしている。

 祖母は畑のはしっこに、私たちに背を向ける位置で立ち、右手に一個キャビッチを持って、斜め上を見上げていた。

 見上げている先には、祖母の言っていたとおり五人の人が――いや、人の形をした鬼魔が、空中に浮かんでいた。

 全員、マントを身につけている。

 アポピス類だ。

 

「どういうことだ?」

 

 空中に浮かぶアポピス類の一人が、祖母を見おろしながらそうきいた。

「言ったとおりよ」祖母が答える。「あなたたちのつくろうとしている世界に、どうしてもユエホワを連れて行きたいというのならば、王様として迎えなさいといっているの」

「ふざけるな」質問したのとは別のアポピス類がどなる。「おとなしくユエホワをこっちへよこせ」

 私とケイマンとサイリュウとルーロはいっせいにユエホワを見た。

 ユエホワがはっと目を見ひらく。

 

 どかっ

 

 そのとき、はでな音が聞こえた。

 キャビッチがぶつかる音だ。

 私とケイマンとサイリュウとルーロはいっせいに畑を見た。

 浮かんでいるアポピス類の一人――というか一匹が、どさっと地面の上に落ちた。

「う、わ」ユエホワが声をつまらせる。

「なに」

「どうした」

「なにがございましたでしたか」

「キャビッチスローか」みんながいっせいにきく。

「見えなかった」ユエホワが声にもならずにささやき返す。「でも、投げたんだと……思う」

 見えなかった?

 暗くて?

 いや、そうじゃない。

 速すぎて――だ。

 たしかに、祖母の右手にはもうキャビッチがなくなっていた。

 私たちがユエホワを見たその瞬間に、祖母がそれを投げたのだ。

「これが答えよ」静かな声で、祖母が言った。「まだなにか?」

「く」アポピス類たちは、落っこちた仲間をくやしげに見おろしたあとまた祖母をにらみつけ「ディガム」「ゼアム」と口々にさけんだ。

 祖母が、氷の像のようにぴたりと動かなくなった。

「まずい」ユエホワがあせったような声で言う。

「これは」ケイマンがつづけて言う。

「魔法封じですね」サイリュウも言う。

「動きを封じるやつだ」ルーロも言う。

 私はなにも言わず、というかなにも考えず、キャビッチをストレートで投げていた。

 それは残った四匹の、私たちからみて右から二番めのアポピス類の鼻面に当たった。

 

 ぼこっ

 

「ぐっ」キャビッチを食らったやつは三メートルぐらい後ろへふき飛んだが、地面に落っこちるまではいかなかった。

「やった」ケイマンがこぶしを握って言う。

「すばらしいでございます」サイリュウが感動の声で言う。

「コントロールいいな」ルーロがつぶやくように言う。

 ユエホワはなにも言わない。

 私もなにも言わず、そして唇をきゅっとかみしめた。

 音が、ずいぶんとちがう。

 私が投げたのと、さっき祖母か投げたのと。

 音の重さ、つまりキャビッチの攻撃力が、何十倍――もしかしたら何百倍も、差がある感じだ。

 

「やっぱり来ちゃったのね」

 

 祖母が、私たちに背を向けたままで言った。

「え」私たちはその背中を見た。

「頼むわよ、ポピー」祖母はくるっとふりむき、月明かりの下でにこっと笑ったかと思うとつぎの瞬間にはもういちど前を向きながら右手を下からスプーン投げの形に振り上げた。

 

 どかっ

 

 またしてもさっきと同様の重い音が響いて、左から二番目のアポピス類がぽーんと投げ上げられるかのように上空へ飛んでゆき、そのあとどさっと地面に落っこちた。

「え」

「今のは」

「投げたのか」

「速い」私の後ろにいる鬼魔たちはまたかすれ声でささやき合う。

 私も、祖母が投げたキャビッチは見えなかった――いや、その前に、祖母はキャビッチを、手に持っていなかったんじゃなかったか?

「なぜ効かない」残ったマントのアポピス類が叫ぶ。「あの小娘の時とおなじだ」

 あの小娘――って、もしかして私のこと?

 そうか。

 もちろん祖母も、防御魔法のマハドゥをあらかじめ自分にかけておいたのだ。

「効いたわよ」けれど祖母は首を振った。「ただ解いただけ」

「なに」アポピス類がびっくりした。

 私たちもびっくりした。

 いや、確かにやつらが呪文をとなえたとき、一瞬祖母は氷の像のように固まったのを私も見たんだった。

「解いただと。いったいどうやって」アポピス類が叫んだその言葉は、そのまま私が心の中で思っていたものだった。

「あなた今、自分がどこにいるのかわかっているの?」祖母は両腕を広げてゆっくりと横に回し、まわりのキャビッチ畑をしめした。「ここは私の手の上もおなじよ」

「う」アポピス類たちはあらためて自分たちの足の下に広がる畑を見おろし、見回し、声をうしなった。

「まあ、あなたたちにも急いでユエホワを連れて行きたいという事情があったのだろうけれど、それにしても無謀な作戦だったわね。いきなり私の家を強襲しにくるだなんて」話しながら祖母がゆっくりとその両手を上にもち上げると、土の上にいたキャビッチたちがそれにつられるようにゆっくり、空中にうかび上がった。

「うわ」

「おお」

「ええっ」

「すげえ」私たちも目を見ひらいてその光景に目をうばわれた。

 いったい、何個――いや、何十個、うかび上がったんだろう。

 畑じゅうに、浮かぶキャビッチの姿がはるか遠くまで見えていた。

「せいぜい選択の間違いをくやむことね。もうおそいけど」祖母はそう言ってから、両手を下にふりおろした。

 空中に浮かぶキャビッチが、いっせいにマント姿のアポピス類たちに向かって飛び始めた。

 それらのスピードは圧倒されるほどに速く、残り三匹のアポピス類たちによけるすきをいっさい与えず、四方八方から容赦なくつぎつぎにぶつかった。

「うわあああ」

「ひいいい」

「わああああ」悲鳴をあげながら、アポピス類たちは下に落ちることも逃げることもできず、キャビッチの攻撃を受けつづけた。

「うわあ」

「痛そう」

「すげえ」

「こええ」私たちもその光景をまのあたりにして身をふるわせた。

 おまけにその攻撃は、祖母が空中に持ち上げたキャビッチすべてが使われているわけではなく――その、ほんの一部のものだけが、アポピス類に向かっていったのだ。

 つまりキャビッチはまだまだ、彼らの周りにたくさん、ありあまるほど存在しているのだ。

 やがてアポピス類たちは悲鳴すらあげなくなった。

 そしてキャビッチの攻撃も、終わった。

 アポピス類たちはそろって地面にどさっと落ちた。

「世界壁の外に、お迎えが来ているようね」祖母は、月が照らす夜空を見上げて言った。「ここで寝かせておくのも邪魔になるから、連れ帰ってもらいましょう」

 そうしてもういちど、両手を高くさし上げると、空中に浮かんでいた残りのキャビッチたちが、今度はすべて動き出し、畑の上にのびているアポピス類たちを手分けしてかこんだ。

 

 しゅるん

 

 いっせいに、鬼魔の体にとりついたキャビッチたちが消える音がした。

 すると五匹のアポピス類たちの体は、気をうしなったままふわりと持ち上げられ、そのまま夜空のかなたへ音もなくもち運ばれていった。

 見えない、キャビッチたちの力で。

「世界壁の、外」ユエホワが、ささやくような小声で言う。「そんなとこまで、魔法が続くのか」


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最終更新日 : 2020-02-09 21:38:37

この本の内容は以上です。


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