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風 狂(第65号)目 次

 

【詩】 

失楽園(パラダイス・ロスト)          原 詩夏至 

ローザの夢                   出雲 筑三 

ジャクリーヌの肖像                         長尾 雅樹 

顔立ち                   高村 昌憲 

消せないメールアドレス            なべくら ますみ 

神隠し                   さとう のりお

秋深く                    高  裕香 

 

【風狂ギャラリー】 

三浦逸雄の世界(四十九)          三浦 逸雄 

 

【エッセイ】 

柳田国男のその詩の別れ           神宮 清志 

昭和は遠くなりにけり?(8)        高島 りみこ 

 

【覚 書】 

 第二六回 風狂川柳忘年会報告         高村 昌憲 

 

【童 話】 

パンケとペンケ(7)            宿谷 志郎 

 

【翻 訳】 

アラン『芸術論集』(四)           高村 昌憲 訳 

 

執筆者のプロフィール(五十音順)


【詩】 失楽園(パラダイス・ロスト)   原 詩夏至

 

――人間なんて 

所詮 

喰いかけのエデンの林檎を片手に 

前を抑えて 

地上を 

ただおろおろ 

走り回っているだけの 

猿なのさ! 

 

そう言って 

男は 

(もとい、雄猿は) 

隣の止まり木(スツール)の女を 

(もとい、雌猿を) 

盗み見る 

――物憂く(物欲しげに)。 

 

君たち 

どうせなら 

全部喰っちまえよ 

腐るし 

もったいないし 

その林檎。 

 

お互い裸であること 

なんかより 

それはもう 

遥かにひどいことが 

恐らく

見えるけれど 

その後で。


   ローザの夢     出雲筑三

 

ローザは運転手から命令された 

ホワイトが乗車した 

席をあけろ と 

 

ローザは微かな声で言った 

どきません 

警察を呼ぶぞ 運転手は威喝した 

 

意志を通したローザは逮捕 

乗合バスにいたカラーたちは 

ローザの背中に輝く羽根をみた

 

ホワイトに席を譲らないと罰する 

この法律は正義ではない 

少女に代弁させるなんて 

なんて俺たちは意気地なし 

 

保釈金を福祉協会が払い 

小さなヒーローは釈放された 

絶望に身を委ねるのは終わろう 

カラーたちは震える拳を固くした 

 

俺達は金を払って乗車している 

差別をなくす戦いを始めよう 

ぬかるんだ道を 抵抗することなく 

さぁ みんなで歩いて行こう 

翌日から学校、買い物など朝早く家をでて 

夜中に帰宅するものもいた 

 

黙黙とバスボイコットして三年 

乗客の大多数がカラーだったので 

バス会社との交渉は妥結した 

 

あの時 ドリームを持とうと 

呼びかけた牧師さんはあなたですか 

キングと申します ローザさん


   ジャクリーヌの肖像     長尾雅樹

 

額縁に収められた 

恋人の姿が女の負けん気を秘めて 

挑発的に鋭角に取材されている 

夢の城に閉じ込められて 

何かを言いたげに横顔を見せて 

両手でハンドバックを押えて 

黒い服の女が 

胸元を開いて肌を覗かせている 

黒髪に緑の鉢巻きを垂らして 

つんと澄まして気を惹こうとしている 

取り込められたジャクリーヌが挑発する 

額縁の中で誘う色気は 

直感的な手法で表出されて 

あなたのことなんか皆知っているわよと 

ふと話し出しそうな仕種の 

そんな彼女をいとも簡単に肖像にして 

自家薬籠中の洒落た感覚を披露する 

それは求愛の究極の手段でもあった 

ピカソ七十六歳の熱情は実感する 

いきなり出現したジャクリーヌの 

勝気の素性を受け入れながら 

絵筆に乗せて興を走らせる 

画像に仕上げた告白の予感が 

鋭い感性を一直線に表現する 

若い女の自尊心の研ぎ澄まされた奔放が 

合わせ鏡の鏡像として 

強い意志が導き出そうとする矜持 

目は語っているのだ 

固い芯を肉体で包み込んで 

私はあなたの全てを知っているというように


   顔立ち      高村昌憲

 

表情豊かな顔は酔っ払いや嘘つきの様に 

魂胆が優先して自らを表現していません 

偽善者たちは魂胆を表すことが無い様に 

吝嗇家たちも表現が好きではありません 

 

顔の表情は豊かであればある程嘘つきで 

本当の自己の表情を表す人は穏やかです 

何故なら真の心の鏡が写すのは同じ顔で 

何時までも表情を変えずにいるからです 

 

絵画や彫刻の完成した顔は何時も普遍で 

変わることの無い顔に美しさがあります 

ビデオや映画の動く顔には情動が一杯で 

観る者からも真実の心が消えて行きます 

 

事実をその儘映し出すのは真実ではなく 

動画には真のリアリズムが成立しません 

真実とは人の命も動物と分けること無く 

この世の全てを同次元の中で逃しません

 

現実の姿を超えるものが真実に違いなく 

顔の中にも表情を超えるものがあります 

魂胆によって作った表情には真実が無く 

彫刻と同じ様に顔立ちが真実を刻みます



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