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風 狂(第61号)目 次

 

【詩】

宝峰湖                出雲筑三   

爆弾散華               長尾雅樹

気                 なべくらますみ

笑いと社会               高村昌憲

お義母さん               高 裕香

―夢の記憶(3)―         原 詩夏至

雨屋敷                  富永たか子

 

【風狂ギャラリー】

 

三浦逸雄の世界(四十五)        三浦逸雄

 

【エッセイ】

敗戦の頃の日々(後編)         神宮清志

昭和は遠くなりにけり?(5)      高島りみこ

 

【童 話】 

パンケとペンケ             宿谷志郎

 

【翻 訳】

アラン『芸術論集』(一)         高村昌憲

 

執筆者のプロフィール(五十音順)

 


宝峰湖     出雲筑三

 

どこまで追ってきやがる

この上 何が欲しいのか

霧が波打つ秘境に軍靴が迫る

 

略奪を国益と称し

骨の髄までしゃぶる奴ら

弱いと判ると遠慮してこない

 

かけがえのない犠牲を払って

多くの財を失った

戦うのは所詮むいていない

 

我らしか知らない詞で

侵略者はどこから来るのか

弱者の知恵を絞ろう

 

民族衣装も軽やかに

笑顔たやさず敵情を歌に託せ

準備を整え鬼どもを退散させよう

 

敵が来たぞう

南の峠から兵五百

西の川から騎馬三十騎

 

あぁ急いで歌から歌へ

峰々からサイレンが木霊する

お腹からの澄んだ声

 

近年 宝峰()は観光地になった

少数民族の美しい恋の唄です

今も真相は語られることはない

 

   ※   宝峰湖:ほほうこ・世界自然遺産・湖南省張家界市


爆弾散華     長尾雅樹

昭和二十年八月十二日川端龍子邸は

B二十九による直撃弾によって

母屋の潰滅の後の

戦火を免れた別棟の六十畳の画室で

「九死に一生を得た体験です」と

爆弾で散華するさまを

南瓜、トマト、茄子に託した

吹き飛んだ蔓や

赤い実の散乱

南瓜は転倒して

茄子の花は引き千切られて

青葉が青茎が畑の中で

あられもなく無惨に絡みついている

着弾の後の大きな爆発音が

木端微塵の野菜が空間に跳ね上り

命拾いの視線が

一瞬の静止画像をとらえて 

叩きつけられた果実が 

閃光(せんこう)の彼方に危く存在する

龍子の観察は野菜の末路を

例を見ない花鳥画として

画像を定着させて

そこに込められた恐怖の心像が

悪夢の結末をあばき出そうとする

死者の目で生者を見る視点から

死は一定というが

理不尽の死の向こうの

戦争という現実があることに

終戦間際の酷烈な事実が

散華する野菜の姿で硝煙を辿る


夜 気     なべくらますみ

 

昼じゅう続いた雨は止んだ

まだ靄のような 強い湿気は残っているが

 

茂る街路樹の向こうにある

一か所だけ明るいところ

あそこは確か月極めの駐車場

いつもがらんと空車場所が多い

 

風もないのに光るものが揺れる

大きく 小さく

ぼんやりと

今夜は何台かの

車が止まっているらしい

揺れる灯かり

気になる明かり

 

光りが揺れる

揺れ続ける

風もないのに

あの明りは前触れなのか

何が起こるのか

何が起きるのか

 

ヒカリガユレル

ユレツヅケル

カゼモナイノニ

ナニカガオコル

ナニガオキル

ユレル ユレル 

オトガ ユレル

 

音はしていない筈なのに

音を感じる

湿気が重く漂う

また 雨が降るのだろうか


笑いと社会      高村昌憲

 

相手の外見が可笑しいから人は笑いますが

相手が真面目腐っている時も人は笑います

現在の顔が滑稽になる時も笑い出しますが

過去の顔を思い出しても笑って仕舞います

 

敬意が相応しくない時も否定の笑いがあり

自らの判断力と生命が美しい同意をします

肉体は嘘に対して直ちに反応するのであり

精神と肉体を両立させるものは無いのです

 

崇高な動きに対して肉体は少し臆病になり

精神は外観から解放されて自由になります

臆病の時も悲しい時も辛い時も笑いを作り

精神から解放されて取るに足りなくします

 

勿論自然は長い間少しも滑稽ではないので

人間だけに固有の笑いの表情は人工的です

精神は信頼と友好を前提に笑いを作るので

自然にも動物にも人間の笑いは無いのです

 

底意の無い笑いには個人的な率直さがあり

精神性と優しさを意味せずにいられません

人が笑う時にはその意味を知ることであり

反対に社会の中ではそれ程多く笑いません



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