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ハル

 ハルは、白に黒ぶちの小さなネコ。ねるのが大すきで、1日のうちほとんどは、丸くなってねています。

 しかし、今回は、大好きなマウ姫様のために、ねむけまなこをこすりながら、いっしょうけんめい、ぼんやりと考えました。

「たしか、ゆめの中でリンゴを食べて、いちばんステキだったのは、草原の中に1本だけ立っていたリンゴの木だったなあ。あふっ。」

 ハルは、あくびをしながら、さっそく、その草原を目ざして出発しました。でも、なにしろゆめの中でのできごと。どこにあるやら、さっぱりわかりません。

「まあ、道を歩いていれば、いつかたどりつくよぅ。あふっ。」

 ハルは、あてもなく、王国中の道という道を歩き回りました。

 そのようすを、木かげから、だれかがこっそりと見ていました。

 

「あれ?ここ、さっき通った道かな。ま、いいかぁ。あふっ。」

 ハルは、いつもねむってばかりで、ろくにおさんぽにも出かけないので、道のことがよくわかりません。何度もまいごになりながら、とにかく道を見つけては、歩いていきました。

 知らない道に入ると、少し不安になりました。そんな時は

「♪ 歩こう 歩こう ネコの道。どこへも行ける ネコの道。あくびは友達 にゃーにゃーみゃー ♪」

と、でたらめな歌をうたいながら、元気を出して歩きました。ねむいのをひっしでこらえて、今にも横になりたいのをガマンしながら、とにかく、ゆめで見た草原を思いうかべて、歩いていきました。

「うーん、あの草原、やっぱり、ないのかなぁ。ああ、日がくれてきたよ。ねむたいなぁ。あふっあふっ」

 ハルは、少し休けいしようと、そばにあった大きな木の下に、とうとう横になってしまいました。そして、うとうとしていると、あの草原が、またゆめに出てきました。

「そうそう、この草原。ここに行きたいんだよぅ。」

 ハルは、自分のねごとで目をさましました。すると、目の前には、ゆめと同じふうけいが広がっていたのです。ハルは飛び起きて、あたりを見回してみました。

「・・・ということは。」

 ハルは、上を見上げてみました。すると、リンゴがなっていたのです。それは、ステキな(あい)色のリンゴでした。

「ああ、これ、これ!この(あい)色のリンゴだ!ゆめの中だけじゃなかったんだぁ。よかった、よかったぁ!」

 ハルは、木によじのぼり、その(あい)色のリンゴをとりました。

 

 そして、木を下りると、そこに、黒いほおかむりをしたネコが立っていました。

「ん?あなたは、だれだい?」

 ハルがたずねると、そのネコは答えました。

「わたしは、ゆめの中に住む、ゆめネコだよ。今は、お前さんのゆめの中にいるんだよ。」

「えぇ。これは、あたしのゆめだっていうのぉ?」

「そうさ。おまえさんは、今、ぐっすりねむっちまってる。たぶん、このままでは、ずっと起きられないと思うよ。」

「そんなぁ。それはこまるよ。あたし、マウ姫様にこの世で最高のリンゴをとどけないといけないのに。今、それを見つけたところだったんだよぅ。」

「でも、それもゆめ。早くめざめて、またさがしに行かないと、マウ姫は助からないよ。」

「で、でも、どうやって起きればいいのかなぁ。」

「それはかんたん。ゆめの中のゆめネコに、ゆめの中で見つけた一番たいせつなものをわたせばいいのさ。」

「そうなのかぁ。じゃあ、かんたんだね。この(あい)色のリンゴをわたせばいいんだねぇ!」

「そうそう。さあ、そのリンゴをわたしなさい。」

 ゆめネコは、ハルのリンゴに手をのばしました。ハルは、手に入れたばかりの(あい)色のリンゴを手わたそうとしました。

 その時、1ぴきのハチがブーンと飛んできて、ふたりのまわりをくるくる回ったかと思うと、ゆめネコの顔をチクリ!

「あいたたた!ハチにさされた!いたいよう!」

「あ、ゆめネコさん、だいじょうぶかい。…あれ、でも、おかしいな。ゆめの中では、いたさは感じないはずなのに。」

 ハルがふしぎがってゆめネコを見ていると、いたさで飛びはねていたゆめネコのほおかむりがとれました。

「あ、ちゃっかりもののピア兄弟!あたしのリンゴを横取りしようとしていたんだなぁ!」

 ピア四男は、いたさにひめいをあげながら、にげて行ってしまいました。

 そしてハルは、また、でたらめな歌を歌って、道にまよいながら、お城へと向かいました。


パルコ

 パルコは、好奇心(こうきしん)いっぱいで、いつも元気に遊んでいます。こいグレー色で、手足は細く、すばしっこく動くのがとくいです。まん丸の目をかがやかせて、毎日、何か楽しいことはないかと、せわしなく動きまわっています。

 そんなパルコですから、わくわくしながら、リンゴさがしに出発です。

「ぼく、こういうたんけん、大好きさッ。この世で最高のリンゴ、いったいどこにあるのかなッ。たんけんといえば、やっぱり、ヘルメットにライトをつけて、暗いところに行かなくちゃッ。暗いところ、暗いところ。そうだ、どうくつだッ。」

 パルコは、たんけん道具をそろえて、王国で一番大きなどうくつへ向かいました。

 どうくつの入口の岩かげで、だれかが、こっそりのぞいていましたが、どうくつの中に飛びこんでいったパルコが、そのけはいに気づくはずもありません。

 

 どうくつの中は、暗くて、ひんやり。水がチョロチョロと流れる音や、ピチョンピチョンと水てきが落ちる音が聞こえます。そして、どこかで、コウモリがバサバサと飛んでいるようです。

「きみが悪いけど、これこそ、たんけんだッ!さてさて、リンゴ、リンゴはどこかなッ。」

 パルコは、ぬるぬるの地面に足がすべらないように注意しながら、どうくつのおくへおくへと少しずつ進んでいきました。その時です。

「チュー、チュー」

 1ぴきのネズミが、パルコの前にあらわれました。ネズミは、パルコの大こうぶつです。

「あ、ネズミだッ!しかも、どうくつのネズミなんて、最高級じゃないかッ。こんばんのカレーにいれてやるッ。待て待てーッ!」

 パルコは、リンゴのことも忘れて、ネズミを追い回しました。ネズミは、どうくつの中を走り回り、その後をパルコも全速力で追いかけていきます。

「こらーッ!待てーッ!」

 パルコは、とうとう、どうくつの行き止まりまで、ネズミを追いつめました。

「よしッ!最高級ネズミ、ゲットだッ!」

 

 ネズミをつかまえようと、手をのばしたしゅんかん、

「いてッ!」

 何かが頭に落ちてきました。ヘルメットのライトを向けてみると、どうくつのすみっこの池のほうへ、何か黄色くて丸いものが転がっていくのが見えました。

「アッ!リンゴだッ!黄色いけど、あれはたしかにリンゴだぞッ」

 なんと、どうくつのリンゴを発見したのです。黄色いリンゴは転がって、今にも、どうくつの池に落ちそうです。でも、目の前には、大こうぶつのネズミがいます。手を引っ込めれば、すぐににげてしまいます。

「あああー、どうくつのネズミなんて、もうお目にかかれないかもしれないのにッ…。こいつを入れたカレーほど、ぼくの好きなものはないんだッ。まるごと1ぴき入れて、好きなだけ食べられると思ったのにッ…。」

 そうするうちに、リンゴは池のふちへと転がり、グラグラ。ほとんど池の方へかたむいています。それを見て、パルコは、思い直しました。

「いや!ぼくは、マウ姫様のためにここに来たんだッ。よしリンゴをひろうぞッ!」

 パルコが手を引っこめたしゅんかん、ネズミは「チューッ」とさけんで、いちもくさんににげていってしまいました。でもパルコは、ネズミをふりかえりもせずに、全速力で池のほうへ走り、黄色いリンゴをひろうことができました。

「よしッ。これでマウ姫様をおすくいすることができるぞッ!」

 パルコは、自分の気持ちに勝ったすがすがしさと、マウ姫様とガク王様のお役に立てるほこりでいっぱいでした。

 

 パルコが、意気ようようと、どうくつから出てくると、何か、いいにおいがただよってきました。

「ん?このにおいは…。どうくつネズミカレーのにおいだッ!」

 見ると、黒いほおかむりをしたネコが、向こうの岩かげで、ナベの中をかき回していました。パルコは、においにつられて、そこへ走っていきました。

「やあ、黒いほおかむりのネコさん。これは、どうくつネズミのカレーだねッ。」

「そうだよ。今日、めずらしく手に入ったから、1週間分作って、毎日食べるのさ。」

 パルコは、ナベの中を見ながら、ゴクリとつばを飲みこみました。

「あのさッ、これ、1日分でいいから、わけてくれないかなッ。」

「さあ、どうしようかな。なにしろきちょうなものだし、ただであげるわけにはいかないよ。」

 パルコは、今にもよだれがたれそうです。

「そうだよねッ。じゃあ、お金をはらうよッ。いくらだい?」

「いや、お金なら、いらないよ。このカレーに代わる、何かめずらしいものをおくれ。」

「めずらしいものっていったってッ…」

「おや、ぼくは知っているよ。さっきから、どうくつリンゴのかおりがプンプンしている。手に入れたんだろう?そのリンゴとしか、こうかんしないよ。」

 パルコは、カレーを目の前にして、食べずにはいられない気持ちになっていました。リンゴなら、さがせばまた見つかるかもしれない、なんて思ってしまったのです。

「じゃ、じゃあ、このリンゴとこうかんしようッ。」

 パルコは、黒いほおかむりのネコに、さっきひろった黄色いリンゴを差し出しました。その時、

「バサバサバサッ」

 コウモリのたいぐんが、カレーのいいにおいをかぎつけて、黒いほおかむりのネコにむらがってきました。そのひょうしに、ほおかむりが飛ばされてしまいました。

「あ、おまッ、ちゃっかりもののピア兄弟じゃないかッ。」

「ちぇっ、ばれちまっちゃ、しょうがない。」

 ピア五男は、コウモリのたいぐんに追われながら、ナベをかかえてにげていってしまいました。

「あぶない、あぶない。マウ姫様の大事なリンゴを失うところだったッ。おいら、きをつけなきゃッ。」

 パルコは少しはんせいしましたが、黄色いリンゴを手に入れて、意気ようようと、お城へ向かいました。


ミー

 ミーは、白い毛がふさふさで、大がらなネコです。目はアイスブルー。おしゃれで、変わったものを集めるのがとくいです。

 

「黒魔女の魔法をとくようなリンゴなんて、とても変わったリンゴにちがいないわ。ありそうもないところに、きっとあるはず。どこかしら。」

 ミーは、これまでに変わったものを集めた場所を、いろいろ思い出してみました。

「あ、そういえば、私の変わった宝物の中で、特に変なものは、だいたい、川原でひろったものだわ。よし、さっそく川原に行ってみよう。」

 ミーは、いつもさんぽする川原へ行ってみました。川原には、上流から流れ着いた、いろんな変わったものがあるのです。すると、さっそく、何か見つけました。

「まあ、きれいなスズ。穴が3つもあいているからヘンな音。おもしろーい。宝物箱に入れようっと。あら、すてきなピンクのリボン。魚がかじって、ギザギザ。あたまでちょうちょむすびしたら、おしゃれねー。」

 

 ミーは、川原を歩いて、いろいろ集めましたが、かんじんのリンゴが見つかりません。

「やっぱり、リンゴなんて、流れてこないのかしら。」

 ミーは、集めた宝物をかかえながら、川の上流を見つめていました。

 

 しばらく岩の上に座って見ていると、川の上流に、むらさき色の大きな丸いものがプカプカと、うきしずみしているのが見えました。

「あれ、何かしら!あんなもの見たことないけど…。あ、リンゴだわ!」

 とても大きくて、むらさき色でしたが、それはたしかにリンゴでした。

「わあ、あんな変わったリンゴ、絶対に、マウ姫様の魔法をとく力があるにちがいないわ!」

 ミーは、そのリンゴを取ろうと思いましたが、じつは、泳ぐことができません。

「ああー、どうしよう。このままじゃ、流されていっちゃう。」

 むらさき色のリンゴは、今にもミーの目の前を流されていきそうです。

「マウ姫様のためだ!ぜったいに手に入れなくちゃ!えい!」

 そう言うと、ミーは、川にバシャーンと飛びこみました。ひっしでバシャバシャ泳ぎましたが、リンゴはどんどんはなれていきます。

「ああー、おぼれそうー。でも、リンゴがー!」

 ミーは、リンゴをめざして、とにかく泳ぎました。すると、大きな岩のところで、リンゴがひっかかり、止まっているのが見えました。

「よかった!とにかく、あそこまで泳ごう!」

 ミーは、半分おぼれながら、バシャバシャと泳ぎ続け、やっと、リンゴにたどりつきました。

 でも、ミーがリンゴにつかまったはずみで、ひっかかっていた岩から、リンゴがはなされてしまいました。

「ああ、流される!」

 ミーがつかまったまま、リンゴは流れ始めました。ところが、川の流れのおかげで、そのまま、どんどん岸へ近づいていきました。

 そして、とうとう、岸にたどりつくことができたのです。

「はあ、よかった。これで、マウ姫様を、おすくいできるかもしれないわ。」

 

 と、その時、黒いほおかむりのネコが、ミーの目の前にあらわれました。

「やあ、おじょうさん、大変だったようだね。川でとれた、むらさき色の大きなリンゴは、どんな病気も治すことができるよ。」

「まあ、やっぱりそうなのね。よかったわ。」

「しかし」

 黒いほおかむりのネコは言いました。

「そのままではダメだ。1ヶ月ほどかけて、そのリンゴを、日にさらして、さとうをかけて、日にさらして、さとうをかけて…と、毎日手をかけてやらねばならないのだ。」

「えー、1ヶ月も!マウ姫様も、ガク王様も悲しまれるわ。でも、やるしかないわね。」

「いや、やらなくてよい方法もある。」

「え、そうなの。ぜひ、教えてくださいな。」

 すると、黒いほおかむりのネコは、干からびて小さくなったリンゴを差し出しました。

「これは、わたしが、1ヶ月前に取ったむらさきリンゴで作ったものだよ。これと、今あなたが取ったリンゴと、こうかんということで、どうだい。」

「え、いいんですか!それは、もう、ありがたいことですわ。」

 ミーは、その干からびたリンゴを見せてもらいました。変わったものを集めるのが好きなだけあって、物を見るときのミーの目は、とてもするどいのです。そして、ミーは言いました。

「あら、これ、色がむらさき色じゃなくなっているわ。」

「あ、ああ、ドライフルーツは、色が変わっていくものなんだよ。」

「ふうん、なるほど。」

 変わったもの好きのミーは、その干しリンゴを、さらにしげしげとながめました。

「あ、それから」

「まだ、何かあるのかい。」

「ええ。よく考えたら、アップルパイに干しリンゴは使えないわ。しんせんで歯ざわりのいいものじゃなければ、きっと、マウ姫様の好きなアップルパイにならないと思うの。」

「いや、そんなことはない。干してこそ、きき目があるのだ・・・。」

 ほおかむりのネコが、あわてて言うと、ミーはまた言いました。

「ふうん。それから、この干しリンゴ、ふつうのリンゴのかおりしかしないわ。このむらさきリンゴどくとくのいいかおりがないわ。」

「い、いや、それも、干しているうちに、かおりが変わっていくのだよ。」

「そうなの?けっきょく、ふつうの干しリンゴと変わらないじゃないの。」

「い、いや、見た目はそうかもしれないが、きき目はまったくちがうのだ。」

 ミーは、するどいアイスブルーの目で、黒いほおかむりのネコをじっと見て、言いました。

「それから、ほおかむりネコさん、あなた、ピア兄弟ね。いくらほおかむりしたって、そのデブンと太ったおなかや、人のものを横取りしようとするネコなで声は、わたしにはかくせないわよ。」

 ミーにすっかり見抜かれてしまい、びっくりしたピア六男は、言いわけもせずに、その場から走りさってしまいました。

「うふふ。ミー様をだまそうとしてもむりよ。さあ、こうしちゃいられないわ。お城へ急がなきゃ。」

 ピア兄弟のさくりゃくをみごとに見抜いたミーは、大きなむらさき色のリンゴをかかえて、お城へ向かいました。


サト

 サトは、やわらかい茶色の、背の高いネコです。

 まゆげの間にいつもしわをよせて考えごとをしています。「にゃあにゃあ ぶつぶつ」と、よくひとり言を言っていますが、考えに答えが出ると、いつも、ピューっと行動にうつします。

 

 マウ姫様のリンゴのことも、まゆげの間にしわをよせながら「にゃあにゃあ ぶつぶつ」と考えていました。

「この世で最高のリンゴ。マウ姫様を助けるリンゴ。アップルパイにさいてきのリンゴ。うーん、やっぱり、あそこでさがすしかないな。ぶつぶつ。」

 サトは、答えが出ると、ピューッと走り出しました。行き先は、王国で一番大きなリンゴ園です。

 リンゴ園の入口で、黒いほおかむりをしたネコが、こっそり、サトのようすをうかがっていました。

 

 王国一のリンゴ園のリンゴの実は、ぜんぶ赤色でしたが、木ごとに、大きいものや小さいもの、じゅくしたものやじゅくしていないもの、まっかなものや色のうすいものなど、いろんなしゅるいがありました。

「さて、ここで最高のリンゴをみつけよう。アップルパイのための最高のリンゴは、調べたところ、まっかで、ほどよくすっぱいリンゴなんだ。ぶつぶつ」

 サトは、まず、まっかなリンゴをさがしました。

リンゴ園を一周して、それぞれの木から1個ずつ、リンゴを100個、集めました。

「この中から、なるべく赤いのを選んでみよう。ぶつぶつ」

 サトは、両方の手にリンゴを持って、かわるがわる色をくらべ、赤いリンゴ50個を選びました。

「この中から、いちばんほどよくすっぱいのを選ぼう。それをしらべるには、かじるしかない。ぶつぶつ」

 サトは、1つずつ、まっかなリンゴをかじっていきました。

でもじつは、サトは、とっても小食。いつも、朝ごはんは、かつおぶしひとかけら、お昼ごはんは、キャットフードひとくち、夕ごはんは、ミルクひとくちで、おなかいっぱいになってしまうのです。こんなにたくさんのリンゴは、もちろん、食べたことがありません。

 だから、10個もかじると、おなかいっぱいになってしまいました。すでにおなかはパンパンです。

「ふうーっ。やっと10個かじったぞ。ちょうどいいすっぱさのリンゴもあったけれど、あとの40個の中に、もっとほどよくすっぱいものがあるかもしれない。もうおなかがいっぱいだけど、かじらなければ、わからない。マウ姫様のために、がんばらなければ。ぶつぶつ。」

 

 サトは、ひたすら、リンゴをかじり続けました。20個、30個、40個・・・。おなかがまんまるにふくれあがってきました。もうげんかいです。

「ああー、もう1個も食べられないよ。まだ10個も残っているのに。ぶつぶつ」

 サトは、どうしたらいいのか、とほうにくれて、残りの10個のリンゴのまわりを、おなかをひきづりながらぐるぐる歩き回り始めました。「どうしよう、ぶつぶつ」と言いながら、ぐるぐる、歩き回り続けました。そうするうちに、日がくれてきました。

 

「ああ、ずいぶん、ぐるぐる歩き回ってしまったなあ。むだな時間をすごしてしまった。ぶつぶつ」

 しかし、その時、おなかが地面にくっついていないことに気がついたのです。

「あれ、ひきずっていたおなかが、少し小さくなった。そうか、運動したから、小さくなったんだな。よし、まだ食べられそうだ。ぶつぶつ」

 

 サトは、元気を取りもどして、1個かじっては歩き回りながら、最後の10個をかじり、なんとか全てかじることができました。

全てかじったころには、あたりはすっかり夜になり、まんまるのお月様が顔を出して、そんなサトを見守っていました。

「よし、一番ほどよくすっぱいリンゴが、わかったぞ!」

 サトは、はれつしそうなおなかをかかえて、一番ほどよくすっぱいリンゴの木から、リンゴを取りました。その木には、あと1つしか実がなっていませんでした。

「さいごの1つだな。マウ姫様に大切におとどけしなくては。ぶつぶつ」

 

そして、月の光に照らされて、リンゴ園を出ようとすると、木のかげから、黒いほおかむりのネコがあらわれました。後ろから照らす月の光の逆光(ぎゃっこう)で、顔がよく見えません。

「黒いほおかむりのネコさん、こんなおそい時間に、ひとりでどうしたんだい?ぶつぶつ」

 サトが話しかけてみると、黒いほおかむりのネコは、いきなり、エーンと、泣き出しました。

「さがしているものが見つからなくて、今日1日中歩き回っていたんだけど、つかれて、もう歩けないのです。」

「そうか、それは大変だったね。

あ、つかれているときには、すっぱいものがいいんだよ。ここにこのリンゴ園でいちばんほどよくすっぱいリンゴがある。これをあげるよ、ぶつぶつ」

「え、でも、それはあなたの大切なものではないのですか。」

「いいんだよ。目の前にこまっている人がいるんだから、ほうっておくわけにはいかないよ。

さあさあ、あそこに、すわるのにちょうどいい岩がある。そこにすわって、ゆっくり食べな。ぶつぶつ」

「ありがとう。じゃあ、えんりょなく。」

黒いほおかむりのネコは、月の逆光に安心してほおかむりをとりました。

 ふたりは、近くにあった大きな岩にこしかけました。

そして、サトが苦労して見つけたリンゴを、黒いネコにわたそうとした、そのとき、お月様がいちだんとまぶしく、ふたりを照らし出したのです。

 すると、そこにすわっていたのは、月明かりに照らし出された、ピア七男でした。

「あ、おまえ、ピア兄弟じゃないか!」

 ピア七男は、いきなり名前を呼ばれて、びっくりしました。

「あ、しまった、逆光(ぎゃっこう)で見えないと思って、ほおかむりを取ってしまった!」

「ゆだんしたな。お月様が、おまえのしょうたいを教えてくれたよ。またちゃっかり、人のてがらを横取りしようとしていたな。まったく。ぶつぶつ」

 ピア七男は、あわてて、いまさらほおかむりを結びなおして、にげさって行きました。

 リンゴを取り返したサトは、月の光に照らされながら、リンゴ園をあとにして、お城へ向かいました。


アップルパイを焼こう

 お城では、ガク王様が、今か今かと、7人の帰りを待っていました。

 すると、7人が続々と帰ってきました。それぞれが、大きいの、小さいの、そしていろんな色のリンゴを持っています。

「おお、みんな、本当によくやってくれた。心から礼を言う。つかれているところ悪いが、さっそく、それぞれのリンゴで、マウ姫のアップルパイを作ろう。お城一番のシェフ、レツに作らせよう。」

 王様の横には、長いコック帽をかぶったネコが立っていました。

「これは、本当に、すばらしいリンゴばかりですね!僕はマウ姫様が生まれた時から、アップルパイを焼いているんです。あとは、ぼくにまかせてください。」

 そう言うと、レツはさっそく、アップルパイを作り始めました。しんけんに、心をこめて、手ぎわよく、リンゴの皮をむき、スライスし、パイきじを重ね、いよいよオーブンへ入れました。

 しばらくすると、なんともいえない、いいにおいがしてきました。リンゴとパイきじ、シナモンがほどよく合わさった、とてもいいにおいです。そして何より、みんなの心がつめこまれていました。

 いよいよ、7つのアップルパイの焼き上がりです。オーブンから出したアップルパイは、どれも、パイきじがツヤツヤとかがやき、中身のリンゴはそれぞれ、変わったステキな色をしていました。

 ガク王様は言いました。

「では、さっそく、マウ姫のところへ持っていこう。」

 

 マウ姫は、部屋のベッドで、死んだように眠っていました。みんなで、焼きあがったばかりのアップルパイを運びこみ、ガク王様が、ひと切れずつマウ姫の口元へ持っていくのを、かたずをのんで見守りました。

 

まずはニコラのオレンジ色のアップルパイです。レツが言いました。

「これは、ネコ王国内のグルメたちの間でも、もんくのつけようのない、かんぺきなリンゴです。おいしさは、これを超えるものはないでしょう。」

 ガク王様は、オレンジ色のアップルパイを小さく切って、マウ姫の口元へ近づけました。

しかし、マウ姫の口は開きません。ニコラは涙をためて、マウ姫を見つめるしかありませんでした。

 

次は、スパイスの緑色のアップルパイです。レツが言いました。

「これは、マウ姫がいちばん好きなリンゴで作ったアップルパイです。これまでも、何度も、姫様にたのまれて、このリンゴでアップルパイを焼いてきました。きっと、大好きなはずです。」

 ガク王様は、緑色のアップルパイを小さく切って、マウ姫の口元へ近づけました。

しかし、マウ姫の口は開きません。スパイスは、天をあおぎました。

 

次は、ジェイドの青色のアップルパイです。レツが言いました、

「これは、ネコ王国で、いちばん空に近い場所のリンゴです。空の心をきゅうしゅうしていて、ひとくち食べれば、青空のような、すがすがしい気持ちになるはずです。」

 ガク王様は、青色のアップルパイを小さく切って、マウ姫の口元へ近づけました。

しかし、マウ姫の口は開きません。ジェイドは、くやしくて悲しくて、後ろを向きました。

 

次は、ハルの(あい)色のアップルパイです。レツが言いました。

「これは、まことにめずらしいものです。ゆめを見たものしか見つけることができないといいます。わたしも初めて見ました。」

 ガク王様は、(あい)色のアップルパイを小さく切って、マウ姫の口元へ近づけました。

しかし、マウ姫の口は開きません。ハルは、あくびも忘れて、立ちつくしました。

 

 次は、パルコの黄色のアップルパイです。レツが言いました。

「これは、ネコ王国内で、最高級のリンゴと言えるでしょう。どうくつ内の食べ物は、めったに手に入らないのです。」

 ガク王様は、黄色のアップルパイを小さく切って、マウ姫の口元へ近づけました。

しかし、マウ姫の口は開きません。パルコは、その場にかたまってしまいました。

 

 次は、ミーのむらさき色のアップルパイです。レツが言いました。

「これは、きれいな川の水で育つリンゴです。ひとくち食べれば、心身の心配ごとや、不安など、すべて洗い流されていきます。」

 ガク王様は、むらさき色のアップルパイを小さく切って、マウ姫の口元へ近づけました。

しかし、マウ姫の口は開きません。ミーは、その場にしゃがみこみました。

 

とうとう最後、サトの赤いアップルパイになりました。

 レツは言いました。

「これは、アップルパイにするのに、最高のリンゴです。すっぱさといい、食感といい、すべてパーフェクトなアップルパイです。」

 みんなが、むねに手を組んで見守りました。

 ガク王様は、赤色のアップルパイを小さく切って、マウ姫の口元へ近づけました。

しかし、マウ姫が口にすることは、とうとうありませんでした。

 

 ガク王様と、7人と、レツシェフは、声を上げて泣き出しました。

「ああ、最高のリンゴは、すべてそろえたのに、いったいどうして、マウ姫は目覚めないのだ。黒魔女め、美しいマウ姫がそんなににくいか。ああ、マウ姫。一体、どうしたらいいんだろう。」

 

 その時です。部屋の中に、真っ白な光がパアッと広がりました。みんな、おどろいて目をつむりました。しばらくして、そおっと目を開けてみると、マウ姫のかたわらに、真っ白な毛なみで、真っ白な服を着たネコが立っていました。みんな、おどろいて、ぼうぜんとしていると、そのネコが言いました。

「わたしは、ネコ王国に大昔から住んでいる白魔女です。かわいそうなマウ姫、黒魔女の魔法にかかってしまったのですね。」

 ガク王様は、すがるように言いました。

「そうなのじゃ。それで、マウ姫の大すきなアップルパイの中でも、この世で最高のものをあたえてみたのじゃが、姫は、いっこうに目覚めんのじゃ。」

 すると、白魔女は言いました。

「ええ、みなさんがいっしょうけんめい集めたリンゴで作ったアップルパイは、どれも、この世で最高のものです。マウ姫も大好きなはずです。あとは、私にまかせてください。」

 そう言うと、白魔女は、7つのアップルパイに、シャランシャランと、白い光の粉をふりかけていきました。するとどうでしょう。それぞれのアップルパイが、赤、オレンジ、黄、緑、青、(あい)、むらさきにかがやきだし、部屋は7色のかがやきに包まれました。そして、アップルパイは、7色にかがやく1つの大きなパイになったのです。きじは黄金色にキラキラとかがやき、こんがりとした焼き色からはサクサクの食感が、食べなくても伝わってくるようです。そして、パイきじの合間からは、にじ色のリンゴの、あまりにもまぶしいかがやきが、あふれだしていました。

「みなさんの、マウ姫への愛の結晶(けっしょう)のアップルパイです。こんな最高のものは、この世にありません。これで、マウ姫は助かるでしょう。」

 そう言うと、白魔女は、再び、白くまぶしい光に包まれて、消えてしまいました。

 みんなは、ゆめを見ているような気分でしたが、にじ色にかがやくアップルパイは、たしかにそこにありました。

「よし、これを、マウ姫にあたえよう。」

 ガク王様は、ふるえる手で、にじ色アップルパイをひと切れ、マウ姫の口元へもっていきました。みんな、かたずを飲んで、見守りました。

 

すると、マウ姫の口が自然に開き、アップルパイを一口、飲み込んだのです。

「めしあがられた!」

 みんなは、飛び上がって喜び、マウ姫が目覚めるのを待ちました。

 

 その時、マウ姫がスゥッと小さく息をすい、大きなひとみが開き始めました。

「マウ姫!!」

 ガク王様は、マウ姫の手をとり、大きな声で呼びました。すると、マウ姫は、ゆっくりとガク王様のほうを向き、にっこりと笑ったのです。そして、あのかわいい声で言いました。

「お父様、ふしぎなゆめを見ました。7人の勇者たちが、わたくしのために、ふしぎな色のリンゴを集め、それがにじ色にかがやくアップルパイとなり、それを食したとたん、この上もなく幸せな気持ちになったのです。」

 ガク王様は、あふれるなみだをぬぐいもせずに、言いました。

「そうか、そうか、マウ姫。よかった、よかった。7人の勇者たちは、ここにおるぞ。」

 そう言って、部屋の中にならんでいた7人を、マウ姫の元に呼びよせました。

 マウ姫は起き上がって、言いました。

「まあ、ゆめの中と同じ勇者たちですわ。

7人、それぞれの方法で、最高のリンゴを見つけてくれたのです。

それが合わさったとき、想像(そうぞう)もできないようなパワーが生まれたのです。

ああ、なんてすばらしいのでしょう。みなさん、本当にありがとう。」

 7人は、泣いたり、てれくさそうに笑ったり、喜びに目をかがやかせたりしながら、ひとりずつ、マウ姫とあくしゅをしました。

 

「さあさあ、こうしてはいられない。マウ姫の目覚めを祝って、パーティーじゃ!」

 ネコ王国のお城に、ふたたび、喜びが満ちあふれました。

 パーティーでは、7人のネコたちが、ひとりずつしょうかいされ、みんなのはくしゅかっさいをあびました。

 そして、このことを記念して、ネコ王国の新しい国の(はた)が発表されました。それは、きれいなにじ色でできた、ネコの顔の形の(はた)でした。

 こうして、ネコ王国では、困ったときにはこの(はた)を見上げ、みんながそれぞれの力を合わせて、ほがらかに乗りこえながら、すてきな国をつくっていきました。


この本の内容は以上です。


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