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スパイス

 スパイスは、頭からしっぽまでダークブラウンで、かしこそうな顔をしています。耳が少し大きめで、その大きな耳をいつもピンと立てて、王国中のじょうほうを集めています。

 

 王国一のちえしゃのスパイスは、この世で最高のリンゴが、一体どこにあるのか、うでを組んで考えました。

「この世で最高のリンゴということは、マウ姫様がもっとも好きなリンゴのはずだ。それならば、マウ姫様がいつも遊んでいる、お城の庭にあるにちがいない。」

 スパイスは、広い広いお城の庭をさがすことにしました。

 

 お城の庭の入り口で、黒いほおかむりのネコに会いました。いっしゅん、

「ん?お城でほおかむりなんて、おかしいな。」

と思いましたが、お城はいろんな人が行きかうので、スパイスはそのまま声もかけず、庭へ入りました。

 

 お城の庭はとても広いのです。丘があれば、小川もあり、畑や田んぼがあり、林や森もあります。はしからはしまで歩くだけでも、1日かかります。リンゴの木なんて、どこにあるのか、さがすだけでもひとくろうです。そこで、スパイスはまず、マウ姫のめし使いの子ネコたちに聞いてみました。

「マウ姫様が一番お気に入りのリンゴの木が、この庭にあるはずです。めし使いさんたち、それがどこにあるか、ごぞんじですか?」

「みゃあ。たしかに、マウ姫様お気に入りのリンゴの木があります。でも、マウ姫様は、ご自分のことは、ほとんど、ご自分でされるのです。リンゴをお取りになるときも、わたしたちにひみつで行かれて、わたしたちにいつも、1つずつくださったのです。みゃあ。」

「そうなのですか。そのリンゴ、おいしいですか?」

「みゃあ。それはもう。ふつうのリンゴとは、くらべものになりません。そして、見た目も…」

「見た目が、どうかしたのですか?」

「みゃあ。赤い色のリンゴではないのです。それはそれは、きれいな緑色なんです。」

「なんと。緑色ですか!」

 

 スパイスは、めし使いさんたちにお礼を言うと、とにかくさがしてみようと、庭の森へ行ってみました。スパイスの思ったとおり、庭の森には、いろんなくだものの木がありました。

「実が緑色ということは、見つけにくいな。葉っぱと同じ色じゃないか。」

 スパイスは、森の果樹園を歩き回りました。オレンジの木、ブドウの木、バナナの木。おいしそうなくだものがたくさんなっています。お城の果樹園だけあって、どのくだものの木も手入れが行きとどき、それはそれは大きくておいしそうな実ばかりでした。もちろん、リンゴの木もありましたが、それはまっかなリンゴでした。

「たしかに、おいしそうなリンゴだが、めし使いさんたちが言っていたリンゴとはちがう。」

 スパイスは、歩いて、歩いて、とうとう、庭のはしっこの高いへいまでたどりついてしまいました。

「うーん。やはり、マウ姫様にしか、わからないのか。」

 スパイスは、へいによりかかって、しゃがみこんでしまいました。すでに日がくれかけています。山のほうからすずしい風がふいてきて、スパイスのあせをやさしくなでてくれました。

 

 と、そのとき、とてもあまい、すてきなかおりがただよってきました。今までかいだことのないかおりです。

 スパイスは思わず、そのかおりに引きよせられて、ふらふらっと立ち上がり、歩いて行きました。

へいにそって歩いていくと、小さなあなが開いているところがありました。そのかおりは、そこからただよっているようです。

「いったい、なんのかおりだろう。」

 スパイスがあなをのぞいてみると、へいの外に、小さなリンゴの木がありました。その実はなんと、緑色をしています。

「あ!緑色のリンゴじゃないか!こんなところにあったのか!そうか、マウ姫様はお体が小さいから、このあなからぬけ出されて、あのリンゴをお取りになっていたにちがいない。だから、めし使いさんたちにもひみつだったんだな。」

 しかし、スパイスには、その小さなあなをくぐることは、とてもできません。でも、手をのばせばとどきそうです。スパイスは、あなの中にうでを入れて、思いきりのばしました。指先がコツンとリンゴにふれました。でも、つかむことができません。

「へいは高すぎてこえられない、なんとか、つかむしかない。」

 スパイスはちぎれそうになるくらい、あなから何度も何度も、うでをのばしました。うでのつけねが、へいでこすれて、血がにじみ出そうです。それでもあきらめずに、根気づよく、100回目にちょうせんしたとき、ビュウーッと強い風がふきました。そのはずみで、リンゴが大きくゆれ、スパイスの手におさまったのです。

「よし!マウ姫様の一番好きなリンゴを手に入れたぞ!」

 スパイスは、うでをさすりながら、緑色のリンゴを持って、庭の出口へ向かいました。

 

 出口に着いたとき、見おぼえのある黒いほおかむりのネコが立っていました。

「おや、おまえさんは、たしか、朝もここにいたね。」

きおく力の良いスパイスは、思い出して、言いました。

「ああ、そうだよ。わたしはここで、めぐまれない子ネコたちのために、こうやって、みんなから食べ物を集めているんだ。」

 黒いほおかむりのネコは、手に持っていた大きなカゴをスパイスに見せました。そこには、魚のほねや、キャットフードのかけら、ねずみのしっぽなどが入っていました。

「そうか。いいことをしているね。わたしが今あげられる食べ物といえば、リンゴしかないな。」

 そう言って、スパイスは、今、くろうして取ってきたばかりの緑色のリンゴをカゴに入れようとしました。でも、スパイスは知っていました。朝会ったときには、このネコはカゴなんて持っていなかったことを。ほおかむりを取って、しょうたいをあばいてやろうと、すきをうかがっていました。

と、その時

「あ、このネコです。この黒いほおかむりのやつです。わたしの大切なカゴをひったくっていったのは!」

 1人のネコが、けいさつネコをひきつれて、さけびながら走ってきました。

「わたしが、まちで、めぐまれない子ネコたちのために、食べ物を集めていたら、いきなりひったくっていったんです。こいつにまちがいありません。」

「なに、こいつか。まったく、なんてやつだ。」

 けいさつネコがそう言って、「お前はだれなんだ。」と、黒いほおかむりを取ると、それは、ピア兄弟の次男でした。スパイスは言いました。

「やっぱり、ピア兄弟か。どうしておまえたちは、自分でどりょくしようとしないんだ。まったく、しょうがないやつだ。」

 スパイスは、あきれながら、緑色のリンゴを持って、お城の庭をあとにしました。


ジェイド

 ジェイドのきたえた体は、赤毛で、引きしまっています。深い緑色の目には力があります。

 

 そんなジェイドのとくぎは山登りです。ジェイドは考えました。

「空に一番近いところに、世界一のリンゴがあると聞いたことがあるぜ。ということは、この世で一番高い山、エベレネコ山のてっぺんに違いねえな。」

 ジェイドは、これまで、いろんな山を登ってきましたが、エベレネコ山は初めてです。さっそく、じゅんびにとりかかりました。山登り用のリュックに、いろんなものをつめこんでいきます。登山用キャットフード、テントにねぶくろ、雨がふったときのためのかっぱ、水とう、などなどです。

 じゅんびが終わると、ジェイドはさっそく、エベレネコ山を登り始めました。

 

 そのようすを、山のふもとの木のかげから、だれかがこっそりのぞいていました。

 

 ジェイドがふもとを出発すると、始めは、黄色やピンクのかわいい草花たちが出むかえてくれましたが、ずんずん登るうちに、じゃり道になり、足がズルズルッとすべりやすくなってきました。たおれている木も増えてきて、大きな木の下をくぐったり、上を乗りこえたりしなければなりませんでした。さらにずんずん進んでいくと、大きな岩がいくつも重なっていて、よじ登っては下り、下りてはよじ登りました。さらにさらに進んでいくと、そこは、一歩まちがえれば谷にまっさかさま。ジェイドは、さいしんの注意をはらいながら、それでも、一歩一歩、山を登っていきました。空気も少しうすくなってきたようです。

 

「うーん、さすが、この世で一番高い山。こんなに登ってきたのに、てっぺんなんて見えてもこねえや。それに、ここまで登ってきたが、リンゴの木なんて、見当たらねえなあ。つかれたし、ちょっと、休けいにするか。」

 ジェイドは、近くの岩にこしを下ろして、水を飲もうとしましたが、水とうはすでに空っぽになっていました。そこで、耳をピンと立ててみると、チョロチョロと、川の流れる音がしたので、川の音のするほうへ行きました。山の川の水は、雪どけ水が流れており、冷たくて、とてもおいしいのです。

 

「はあ、うめー。」

 ジェイドは、水をゴクゴク飲んで、顔を上げました。すると、なんと、川の向こうがわに、リンゴの木があるではありませんか。おいしそうなまっかなリンゴが、たくさんなっていたのです。

「あ、リンゴの木!」

 ジェイドは、今までのつかれもわすれて、冷たい川をバシャバシャとわたり、向こう岸へたどり着きました。そして、さっそく、リンゴをひとつ取って、かじってみました。

「う、うまい!こんなうまいリンゴ、生まれて初めてだ!」

 そう言って、あたりを見回してみると、リンゴの木がたくさんあることに気づきました。ジェイドは、いろんな木のリンゴを食べてみましたが、どうやら、やはり、てっぺんに近づけば近づくほど、リンゴはおいしくなるようです。

 

 ジェイドは、リンゴの木をたどりながら、ずんずん、ずんずん、山を登りました。

 そして、とうとう、エベレネコ山のてっぺんに着いたのです。

 みると、そこに1本のリンゴの木が立っており、なんと、青色のリンゴがなっているではありませんか。

「え、これ、リンゴか?」

 ジェイドは、おそるおそる、その青いリンゴを1つ取って、かじってみました。

「…う、うまあ!なんだ、この味。ひとくちかじると、すんだ青空のような、すがすがしい気分になるぜ。空に一番近い場所のリンゴだからな。きっと、これが、この世で最高のリンゴにちがいねえ!」

 ジェイドは、そうかくしんすると、その青いリンゴをリュックにつめて、山を下りました。

 

 山のふもとに着き、さあ、お城へ急ごうと走り出したとき、黒い布にくるまって、たおれているネコがいるのを見つけました。

「おい、こんなところでたおれて、一体、どうしたんだい。」

 ジェイドが声をかけると、たおれているネコは、弱々しい声で言いました。

「もう3日も、なんにも食べていないのです。おなかはペコペコだし、のどはカラカラ。どうしても、リンゴを食べて、おなかをみたし、のどをうるおしたいと思っていたのですが、こんなところで動けなくなってしまったのです。」

「そうだったのか。気のどくに。あ、そういうことなら、オレは今、この世で最高のリンゴを持っているんだ。これなら、いっぺんで元気になるぜ。」

「でもきっと、大変なくろうをして、見つけたリンゴでしょう。そんな大切なもの、いただけません。」

「いや、このリンゴは、山のてっぺんにあるから、また取りに行けばいいのさ。」

「そうですか。なんてやさしいおかただろう。それでは、えんりょなくいただくとしましょう。」 

 黒い布のネコは、布から手だけ出して、ジェイドのほうに差し出しました。すると、ジェイドは言いました。

「おや?3日も何も食べていないわりに、ふっくらした手をしているね。」

 黒い布のネコは、ヒュッと手を引っこめて、あわてて言いました。

「あ、これは、たおれたひょうしに、岩にぶつかって、はれてしまったのです。」

「そうか、気のどくに。じゃあ、オレが口まで持って行ってやるから、かじれ。」

「ありがとう。」

 黒い布のネコは、布から口だけ出して、ジェイドに向かって大きく口をあけました。すると、ジェイドは言いました。

「おや?3日も何も食べてないわりに、口の中は、食べ物のカスだらけだな。」

 黒い布のネコは、あわてて口をカプッとしめて、言いました。

「あ、これは、ええと、その」

 そのようすを見て、変に思ったジェイドは、黒い布をバサッと取ってみました。

「あ、おまえ、ピア兄弟じゃないか!さては、マウ姫様のリンゴを横取りして、王様に取り入るつもりだったな!」

 正体がばれてしまったピア兄弟の三男は、ジェイドのケンカの強さを知っていたので、いちもくさんににげていきました。

「まったく、ピア兄弟め、しょうがねえやつだな。」

 ジェイドは、気を取り直して、お城へ急ぎました。


ハル

 ハルは、白に黒ぶちの小さなネコ。ねるのが大すきで、1日のうちほとんどは、丸くなってねています。

 しかし、今回は、大好きなマウ姫様のために、ねむけまなこをこすりながら、いっしょうけんめい、ぼんやりと考えました。

「たしか、ゆめの中でリンゴを食べて、いちばんステキだったのは、草原の中に1本だけ立っていたリンゴの木だったなあ。あふっ。」

 ハルは、あくびをしながら、さっそく、その草原を目ざして出発しました。でも、なにしろゆめの中でのできごと。どこにあるやら、さっぱりわかりません。

「まあ、道を歩いていれば、いつかたどりつくよぅ。あふっ。」

 ハルは、あてもなく、王国中の道という道を歩き回りました。

 そのようすを、木かげから、だれかがこっそりと見ていました。

 

「あれ?ここ、さっき通った道かな。ま、いいかぁ。あふっ。」

 ハルは、いつもねむってばかりで、ろくにおさんぽにも出かけないので、道のことがよくわかりません。何度もまいごになりながら、とにかく道を見つけては、歩いていきました。

 知らない道に入ると、少し不安になりました。そんな時は

「♪ 歩こう 歩こう ネコの道。どこへも行ける ネコの道。あくびは友達 にゃーにゃーみゃー ♪」

と、でたらめな歌をうたいながら、元気を出して歩きました。ねむいのをひっしでこらえて、今にも横になりたいのをガマンしながら、とにかく、ゆめで見た草原を思いうかべて、歩いていきました。

「うーん、あの草原、やっぱり、ないのかなぁ。ああ、日がくれてきたよ。ねむたいなぁ。あふっあふっ」

 ハルは、少し休けいしようと、そばにあった大きな木の下に、とうとう横になってしまいました。そして、うとうとしていると、あの草原が、またゆめに出てきました。

「そうそう、この草原。ここに行きたいんだよぅ。」

 ハルは、自分のねごとで目をさましました。すると、目の前には、ゆめと同じふうけいが広がっていたのです。ハルは飛び起きて、あたりを見回してみました。

「・・・ということは。」

 ハルは、上を見上げてみました。すると、リンゴがなっていたのです。それは、ステキな(あい)色のリンゴでした。

「ああ、これ、これ!この(あい)色のリンゴだ!ゆめの中だけじゃなかったんだぁ。よかった、よかったぁ!」

 ハルは、木によじのぼり、その(あい)色のリンゴをとりました。

 

 そして、木を下りると、そこに、黒いほおかむりをしたネコが立っていました。

「ん?あなたは、だれだい?」

 ハルがたずねると、そのネコは答えました。

「わたしは、ゆめの中に住む、ゆめネコだよ。今は、お前さんのゆめの中にいるんだよ。」

「えぇ。これは、あたしのゆめだっていうのぉ?」

「そうさ。おまえさんは、今、ぐっすりねむっちまってる。たぶん、このままでは、ずっと起きられないと思うよ。」

「そんなぁ。それはこまるよ。あたし、マウ姫様にこの世で最高のリンゴをとどけないといけないのに。今、それを見つけたところだったんだよぅ。」

「でも、それもゆめ。早くめざめて、またさがしに行かないと、マウ姫は助からないよ。」

「で、でも、どうやって起きればいいのかなぁ。」

「それはかんたん。ゆめの中のゆめネコに、ゆめの中で見つけた一番たいせつなものをわたせばいいのさ。」

「そうなのかぁ。じゃあ、かんたんだね。この(あい)色のリンゴをわたせばいいんだねぇ!」

「そうそう。さあ、そのリンゴをわたしなさい。」

 ゆめネコは、ハルのリンゴに手をのばしました。ハルは、手に入れたばかりの(あい)色のリンゴを手わたそうとしました。

 その時、1ぴきのハチがブーンと飛んできて、ふたりのまわりをくるくる回ったかと思うと、ゆめネコの顔をチクリ!

「あいたたた!ハチにさされた!いたいよう!」

「あ、ゆめネコさん、だいじょうぶかい。…あれ、でも、おかしいな。ゆめの中では、いたさは感じないはずなのに。」

 ハルがふしぎがってゆめネコを見ていると、いたさで飛びはねていたゆめネコのほおかむりがとれました。

「あ、ちゃっかりもののピア兄弟!あたしのリンゴを横取りしようとしていたんだなぁ!」

 ピア四男は、いたさにひめいをあげながら、にげて行ってしまいました。

 そしてハルは、また、でたらめな歌を歌って、道にまよいながら、お城へと向かいました。


パルコ

 パルコは、好奇心(こうきしん)いっぱいで、いつも元気に遊んでいます。こいグレー色で、手足は細く、すばしっこく動くのがとくいです。まん丸の目をかがやかせて、毎日、何か楽しいことはないかと、せわしなく動きまわっています。

 そんなパルコですから、わくわくしながら、リンゴさがしに出発です。

「ぼく、こういうたんけん、大好きさッ。この世で最高のリンゴ、いったいどこにあるのかなッ。たんけんといえば、やっぱり、ヘルメットにライトをつけて、暗いところに行かなくちゃッ。暗いところ、暗いところ。そうだ、どうくつだッ。」

 パルコは、たんけん道具をそろえて、王国で一番大きなどうくつへ向かいました。

 どうくつの入口の岩かげで、だれかが、こっそりのぞいていましたが、どうくつの中に飛びこんでいったパルコが、そのけはいに気づくはずもありません。

 

 どうくつの中は、暗くて、ひんやり。水がチョロチョロと流れる音や、ピチョンピチョンと水てきが落ちる音が聞こえます。そして、どこかで、コウモリがバサバサと飛んでいるようです。

「きみが悪いけど、これこそ、たんけんだッ!さてさて、リンゴ、リンゴはどこかなッ。」

 パルコは、ぬるぬるの地面に足がすべらないように注意しながら、どうくつのおくへおくへと少しずつ進んでいきました。その時です。

「チュー、チュー」

 1ぴきのネズミが、パルコの前にあらわれました。ネズミは、パルコの大こうぶつです。

「あ、ネズミだッ!しかも、どうくつのネズミなんて、最高級じゃないかッ。こんばんのカレーにいれてやるッ。待て待てーッ!」

 パルコは、リンゴのことも忘れて、ネズミを追い回しました。ネズミは、どうくつの中を走り回り、その後をパルコも全速力で追いかけていきます。

「こらーッ!待てーッ!」

 パルコは、とうとう、どうくつの行き止まりまで、ネズミを追いつめました。

「よしッ!最高級ネズミ、ゲットだッ!」

 

 ネズミをつかまえようと、手をのばしたしゅんかん、

「いてッ!」

 何かが頭に落ちてきました。ヘルメットのライトを向けてみると、どうくつのすみっこの池のほうへ、何か黄色くて丸いものが転がっていくのが見えました。

「アッ!リンゴだッ!黄色いけど、あれはたしかにリンゴだぞッ」

 なんと、どうくつのリンゴを発見したのです。黄色いリンゴは転がって、今にも、どうくつの池に落ちそうです。でも、目の前には、大こうぶつのネズミがいます。手を引っ込めれば、すぐににげてしまいます。

「あああー、どうくつのネズミなんて、もうお目にかかれないかもしれないのにッ…。こいつを入れたカレーほど、ぼくの好きなものはないんだッ。まるごと1ぴき入れて、好きなだけ食べられると思ったのにッ…。」

 そうするうちに、リンゴは池のふちへと転がり、グラグラ。ほとんど池の方へかたむいています。それを見て、パルコは、思い直しました。

「いや!ぼくは、マウ姫様のためにここに来たんだッ。よしリンゴをひろうぞッ!」

 パルコが手を引っこめたしゅんかん、ネズミは「チューッ」とさけんで、いちもくさんににげていってしまいました。でもパルコは、ネズミをふりかえりもせずに、全速力で池のほうへ走り、黄色いリンゴをひろうことができました。

「よしッ。これでマウ姫様をおすくいすることができるぞッ!」

 パルコは、自分の気持ちに勝ったすがすがしさと、マウ姫様とガク王様のお役に立てるほこりでいっぱいでした。

 

 パルコが、意気ようようと、どうくつから出てくると、何か、いいにおいがただよってきました。

「ん?このにおいは…。どうくつネズミカレーのにおいだッ!」

 見ると、黒いほおかむりをしたネコが、向こうの岩かげで、ナベの中をかき回していました。パルコは、においにつられて、そこへ走っていきました。

「やあ、黒いほおかむりのネコさん。これは、どうくつネズミのカレーだねッ。」

「そうだよ。今日、めずらしく手に入ったから、1週間分作って、毎日食べるのさ。」

 パルコは、ナベの中を見ながら、ゴクリとつばを飲みこみました。

「あのさッ、これ、1日分でいいから、わけてくれないかなッ。」

「さあ、どうしようかな。なにしろきちょうなものだし、ただであげるわけにはいかないよ。」

 パルコは、今にもよだれがたれそうです。

「そうだよねッ。じゃあ、お金をはらうよッ。いくらだい?」

「いや、お金なら、いらないよ。このカレーに代わる、何かめずらしいものをおくれ。」

「めずらしいものっていったってッ…」

「おや、ぼくは知っているよ。さっきから、どうくつリンゴのかおりがプンプンしている。手に入れたんだろう?そのリンゴとしか、こうかんしないよ。」

 パルコは、カレーを目の前にして、食べずにはいられない気持ちになっていました。リンゴなら、さがせばまた見つかるかもしれない、なんて思ってしまったのです。

「じゃ、じゃあ、このリンゴとこうかんしようッ。」

 パルコは、黒いほおかむりのネコに、さっきひろった黄色いリンゴを差し出しました。その時、

「バサバサバサッ」

 コウモリのたいぐんが、カレーのいいにおいをかぎつけて、黒いほおかむりのネコにむらがってきました。そのひょうしに、ほおかむりが飛ばされてしまいました。

「あ、おまッ、ちゃっかりもののピア兄弟じゃないかッ。」

「ちぇっ、ばれちまっちゃ、しょうがない。」

 ピア五男は、コウモリのたいぐんに追われながら、ナベをかかえてにげていってしまいました。

「あぶない、あぶない。マウ姫様の大事なリンゴを失うところだったッ。おいら、きをつけなきゃッ。」

 パルコは少しはんせいしましたが、黄色いリンゴを手に入れて、意気ようようと、お城へ向かいました。


ミー

 ミーは、白い毛がふさふさで、大がらなネコです。目はアイスブルー。おしゃれで、変わったものを集めるのがとくいです。

 

「黒魔女の魔法をとくようなリンゴなんて、とても変わったリンゴにちがいないわ。ありそうもないところに、きっとあるはず。どこかしら。」

 ミーは、これまでに変わったものを集めた場所を、いろいろ思い出してみました。

「あ、そういえば、私の変わった宝物の中で、特に変なものは、だいたい、川原でひろったものだわ。よし、さっそく川原に行ってみよう。」

 ミーは、いつもさんぽする川原へ行ってみました。川原には、上流から流れ着いた、いろんな変わったものがあるのです。すると、さっそく、何か見つけました。

「まあ、きれいなスズ。穴が3つもあいているからヘンな音。おもしろーい。宝物箱に入れようっと。あら、すてきなピンクのリボン。魚がかじって、ギザギザ。あたまでちょうちょむすびしたら、おしゃれねー。」

 

 ミーは、川原を歩いて、いろいろ集めましたが、かんじんのリンゴが見つかりません。

「やっぱり、リンゴなんて、流れてこないのかしら。」

 ミーは、集めた宝物をかかえながら、川の上流を見つめていました。

 

 しばらく岩の上に座って見ていると、川の上流に、むらさき色の大きな丸いものがプカプカと、うきしずみしているのが見えました。

「あれ、何かしら!あんなもの見たことないけど…。あ、リンゴだわ!」

 とても大きくて、むらさき色でしたが、それはたしかにリンゴでした。

「わあ、あんな変わったリンゴ、絶対に、マウ姫様の魔法をとく力があるにちがいないわ!」

 ミーは、そのリンゴを取ろうと思いましたが、じつは、泳ぐことができません。

「ああー、どうしよう。このままじゃ、流されていっちゃう。」

 むらさき色のリンゴは、今にもミーの目の前を流されていきそうです。

「マウ姫様のためだ!ぜったいに手に入れなくちゃ!えい!」

 そう言うと、ミーは、川にバシャーンと飛びこみました。ひっしでバシャバシャ泳ぎましたが、リンゴはどんどんはなれていきます。

「ああー、おぼれそうー。でも、リンゴがー!」

 ミーは、リンゴをめざして、とにかく泳ぎました。すると、大きな岩のところで、リンゴがひっかかり、止まっているのが見えました。

「よかった!とにかく、あそこまで泳ごう!」

 ミーは、半分おぼれながら、バシャバシャと泳ぎ続け、やっと、リンゴにたどりつきました。

 でも、ミーがリンゴにつかまったはずみで、ひっかかっていた岩から、リンゴがはなされてしまいました。

「ああ、流される!」

 ミーがつかまったまま、リンゴは流れ始めました。ところが、川の流れのおかげで、そのまま、どんどん岸へ近づいていきました。

 そして、とうとう、岸にたどりつくことができたのです。

「はあ、よかった。これで、マウ姫様を、おすくいできるかもしれないわ。」

 

 と、その時、黒いほおかむりのネコが、ミーの目の前にあらわれました。

「やあ、おじょうさん、大変だったようだね。川でとれた、むらさき色の大きなリンゴは、どんな病気も治すことができるよ。」

「まあ、やっぱりそうなのね。よかったわ。」

「しかし」

 黒いほおかむりのネコは言いました。

「そのままではダメだ。1ヶ月ほどかけて、そのリンゴを、日にさらして、さとうをかけて、日にさらして、さとうをかけて…と、毎日手をかけてやらねばならないのだ。」

「えー、1ヶ月も!マウ姫様も、ガク王様も悲しまれるわ。でも、やるしかないわね。」

「いや、やらなくてよい方法もある。」

「え、そうなの。ぜひ、教えてくださいな。」

 すると、黒いほおかむりのネコは、干からびて小さくなったリンゴを差し出しました。

「これは、わたしが、1ヶ月前に取ったむらさきリンゴで作ったものだよ。これと、今あなたが取ったリンゴと、こうかんということで、どうだい。」

「え、いいんですか!それは、もう、ありがたいことですわ。」

 ミーは、その干からびたリンゴを見せてもらいました。変わったものを集めるのが好きなだけあって、物を見るときのミーの目は、とてもするどいのです。そして、ミーは言いました。

「あら、これ、色がむらさき色じゃなくなっているわ。」

「あ、ああ、ドライフルーツは、色が変わっていくものなんだよ。」

「ふうん、なるほど。」

 変わったもの好きのミーは、その干しリンゴを、さらにしげしげとながめました。

「あ、それから」

「まだ、何かあるのかい。」

「ええ。よく考えたら、アップルパイに干しリンゴは使えないわ。しんせんで歯ざわりのいいものじゃなければ、きっと、マウ姫様の好きなアップルパイにならないと思うの。」

「いや、そんなことはない。干してこそ、きき目があるのだ・・・。」

 ほおかむりのネコが、あわてて言うと、ミーはまた言いました。

「ふうん。それから、この干しリンゴ、ふつうのリンゴのかおりしかしないわ。このむらさきリンゴどくとくのいいかおりがないわ。」

「い、いや、それも、干しているうちに、かおりが変わっていくのだよ。」

「そうなの?けっきょく、ふつうの干しリンゴと変わらないじゃないの。」

「い、いや、見た目はそうかもしれないが、きき目はまったくちがうのだ。」

 ミーは、するどいアイスブルーの目で、黒いほおかむりのネコをじっと見て、言いました。

「それから、ほおかむりネコさん、あなた、ピア兄弟ね。いくらほおかむりしたって、そのデブンと太ったおなかや、人のものを横取りしようとするネコなで声は、わたしにはかくせないわよ。」

 ミーにすっかり見抜かれてしまい、びっくりしたピア六男は、言いわけもせずに、その場から走りさってしまいました。

「うふふ。ミー様をだまそうとしてもむりよ。さあ、こうしちゃいられないわ。お城へ急がなきゃ。」

 ピア兄弟のさくりゃくをみごとに見抜いたミーは、大きなむらさき色のリンゴをかかえて、お城へ向かいました。



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