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バースデーパーティー

 ここは、ネコたちが住む、ネコ王国。

  

 今日は、ネコ王国のお姫様、マウ姫のバースデーパーティーです。

 マウ姫のお父さん、ガク王様は、かわいいかわいいひとりむすめのために、ネコ王国の国民全員をまねいて、お城でせいだいなパーティーを開きました。

 

 ガク王様のマウ姫への愛情ときたら、それはそれは、心打たれるものでした。マウ姫のお母様である女王様は、マウ姫が3つのときに病気でなくなってしまい、それからは、ガク王様が、マウ姫を大切に大切に育ててきたのです。

 マウ姫が病気とあれば、王国中から医者を集めたのはもちろん、王様自身も寝ずにかんびょうしました。マウ姫が元気に遊んでいれば、けらいにそのようすをこまかくほうこくさせて、マウ姫が何にきょうみがあるかをいつも知っていました。

 そんなふうに、王様が温かく見守り続けて、すくすく育ったマウ姫は、年ごとにかわいらしく、そして、美しく成長し、国民からも大変な人気でした。

 

 この日、お城は、そのマウ姫のバースデーパーティーのためのかざりつけで、とてもはなやかです。ねこじゃらしでできたシャンデリアには、この日集めた朝つゆがたくさんあみこまれ、キラキラとかがやいています。かべは、マウ姫の好きなピンク色のお花でぎっしりとかざられ、床はピカピカにみがきあげられて、かがみのように何でもうつります。

 テーブルの上にはごちそうがたくさん。最高級のかつおぶしや、しんせんなお魚のサラダ、ネズミ風味のスープ、ネコ王国特せいキャットフード、そして、マウ姫が大好きなリンゴのデザートまであります。

 

みんな、一言でもお祝いを言おうと、マウ姫が出てくるのを今か今かと待っています。 

 

ファンファーレが、パパアーン・パパパアーンとひびきました。

みんないっせいに、赤いじゅうたんの中央かいだんを見つめました。

すると、ガク王様とうでを組んで、マウ姫があらわれました。やわらかいシルバー色のマウ姫は、ふわふわのピンクのドレスに身をつつみ、頭には、ピンクの宝石がたくさんちりばめられたティアラをつけています。みんな、その美しさに息をのみました。マウ姫は、大きくすんだブラウンのひとみをかがやかせながら、王様といっしょに、ゆっくりとかいだんをおりてきました。

みんな、いっせいに、マウ姫のまわりに集まり、次々に「おめでとうございます」と、心からのお祝いを言いました。マウ姫は、ひとりひとりに「ありがとう」と、心からお礼を言いました。

 

 さあ、パーティーのはじまりです。ネコ王国音楽団がかなでる楽しい音楽に合わせて、ダンスをしたり、ごちそうを食べたり、おしゃべりしたり、みんな、とっても楽しそうです。

 マウ姫も、ガク王様とダンスをしたり、リンゴのデザートを食べたりして、とてもうれしそうです。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、夜中の0時が近づいてきました。ガク王様は、みんなにお礼のあいさつをするため、広間の中央へ、マウ姫といっしょにやってきました。

「えー、コホン。みなのもの、今日は、マウ姫のために集まってくれて、本当にありがとう。」

 

 と、その時です。ゴオオオーーッという、ものすごい風の音が聞こえたかと思うと、お城の窓という窓、とびらというとびらが、すべて、バタンッバタンッとあばれだしました。次のしゅんかん、お城の中はまっくらになり、しーんと、静まりかえりました。

 みんな、頭をかかえ、目をつむり、毛をさかだてて、ガタガタふるえていました。すると、とつぜん、お城の明かりが、パッと元にもどりました。

 

 みんながほっとしたしゅんかん、

「ああっ、マウ姫!!」

 ガク王様のさけび声が聞こえました。みんないっせいに広間の中央を見ると、マウ姫がぐったりと横たわっているではありませんか。ガク王様がいくら呼んでも、死んでしまったように動きません。

 

 その時です。どこからか、地ひびきのように、おそろしい声が聞こえてきました。

「あっはっはっは。私は、大昔からネコ王国に住んでいる、黒魔女だよ。楽しいパーティーだったようだね。楽しみのあとは、苦しむがよい。私は、みなが苦しむ姿を見るのが大好きなのさ。美しいマウ姫は、もう永遠に動かないよ。さあ、みな、苦しむがよい。あっはっはっは。」

 

 なんということでしょう。王国のみんなに、あんなに愛されていたマウ姫が、もう二度と、そのひとみにかがやきをもどすことがなくなってしまったのです。

 

「だ、だれか、私のかわいいマウ姫を、どうか、どうか、生き返らせてやってくれ!」

 ガク王様は、マウ姫を抱きかかえ、なみだを流しながら、さけびました。あまりのできごとに、みんな、ぼうぜんと、ふたりを見つめることしかできません。

 

 その時、

「王様、あたいたちが、必ず、マウ姫を生き返らせてみせます!」

ふたりのネコが、王様の前に進み出ました。

「あたいは、ニコラといいます。」

「ぼくは、スパイスです。」

 王様は、このふたりのとつぜんの登場におどろきましたが、ふたりにすがるように言いました。

「おお、そうか、そうか!ありがとう、ありがとう!マウ姫を生き返らせるための、何か、方法があるのかね?」

 すると、スパイスが言いました。

「ぼくは、黒魔女の魔法をとく方法を、聞いたことがあるのです。」

 すると、ニコラも言いました。

「スパイスは、この王国で一番の物知りです。王様、どうかご安心ください。」

 王様は言いました。

「そうか、そうか。本当に心強い。それで、どのような方法なのじゃ?」

 スパイスは言いました。

「黒魔女の魔法にかかった者の、いちばん好きなものをあたえるのです。

しかし、ただの好きなものではいけません。好きなものの中でも、この世で最高のものを手に入れなければならないのです。」

「そうか・・・。」

 王様は、しばらく、マウ姫をじっと見つめながら考えました。そして、元気のない声で言いました。

「マウ姫は、リンゴが大好きでな。特に、アップルパイが大好きなのじゃ。おさないころから、どんな宝石よりも、ドレスよりも、アップルパイをおみやげにすると、あのかわいいえがおを見せてくれてな。しかし、そんなもので、マウ姫は助かるのであろうか。」

 スパイスは言いました。

「それです!この世で最高のリンゴを見つけて、マウ姫にアップルパイをささげましょう。」

 ニコラが言いました。

「でも、あたいたちふたりでは、とても見つけられないよ。王国のすみからすみまでリンゴをさがして、どれが最高か、見きわめなくてはいけないんだから。」

 

 広間は、王様と、ふたりのネコのやりとりを聞きながら、シンと静まりかえっています。

その時、

「じゃあ、オレも!」「わたしも!」と、次々に手が上がり、さらに5人のネコが王様の前に進み出たのです。

「オレは、サバイバーのジェイドといいます。きけんな体力勝負なら、だれにも負けないぜ。」

「あたしは、ねぼうのハルといいます。ねむいけど、王様とマウ姫さまのためにぜひがんばります。あふっ。」

「オラは、おちょうしもののパルコですッ。リンゴさがし、オラものったッ!」

「わたしは、マイペースのミーです。変わったものを見つけるの、とくいですわ。」

「ぼくは、りくつ屋のサトと言います。むずかしいかもしれないけど、王様とマウ姫様のためにがんばります。ぶつぶつ」

 王様は、7人のネコたちを見て、目になみだを浮かべて言いました。

「おお、よくぞ、名乗り出てくれた。ネコ神よ、この7人の勇者たちに幸運を。みな、本当にくろうをかけるが、わたしのマウ姫のために、がんばってきてほしい!」

「はい!」

 7人の若者は、「にゃう、にゃう、おー!」と、かちどきをあげて、さっそくそれぞれ、リンゴさがしの旅に出かけました。

 

 そんな7人のようすを、お城の柱のかげから、こっそり見ている者がいました。

ちゃっかりもので、みんなにきらわれている、ピア7人兄弟です。7人は、でぶんと太った黒い体を柱にかくして、にやにやと、なにやら考えているようでした。


ニコラ

ニコラはグレーの体に黒のしまもよう。おいしいものが大好きで、ネコ王国中のおいしいものをなんでも知っています。おいしいものがあると聞けば、なんでも食べてしまいます。そのせいか、ちょっとぽっちゃり。

「あたいが見つけるリンゴが、いちばんおいしいに決まってるよ。今までのけいけんから考えて、最高においしい食べ物は、なんていったって、市場にあるに決まってるよ。マウ姫様に、この世でいちばんおいしいリンゴをさしあげなくちゃ。」

 ニコラは、さっそく、ぽっちゃりした体をゆらしながら、市場へ出かけました。

 

「いらっしゃい、いらっしゃいー!」

「朝とれたばかりの魚だよー!」

「今いちばん流行のキャットフードを仕入れたよー!」

 ネコ王国の市場は、お店の人たちのいせいのいい声がひびき、今日も買い物客たちでごったがえしています。しんせんな魚や、ネズミの肉、流行のキャットフード、もちろん、野菜やくだものも、しんせんでおいしいものがたくさん。

 

 にぎやかな声を聞きながら、ニコラは、ぽっちゃりした体でなんとか人ごみをすりぬけて、まっすぐに1けんのくだもの屋さんに向かいました。ニコラが行きつけの、なじみのお店です。

「よお、ニコラ。今日も食ってるかい。」

「やあ、おじさん。今日も食ってるさー。」

 お店のおじさんと、いつものあいさつをかわして、ニコラはさっそく聞いてみました。

「おじさん、ここの市場で、いちばんおいしい最高のリンゴ、あるかな。」

「もちろん、いちばんおいしい最高のくだものは、おれの店にしかないさ。」

「マウ姫様を助けたいんだよ。そのリンゴ、あたいにわけてくれないかな。」

「おう!そうくると思ったぜ。もちろん、いいさ。ただな、今ここにはないんだ。きちょうなものだから、家の倉庫にかくしてあるんだよ。ニコラ、ちょっと取りに帰るから、店番していてくれないか。」

「わかった!店番しているから、よろしくね!」

 くだもの屋のおじさんは、急いで、おじさんの家へ向かいました。

「よし、がんばるぞ。でも、おじさんの家、遠いんだよね。あーあ、1日かかるかもしれないなあ。」

 ニコラはそう考えると少しめんどうくさくなりましたが、マウ姫様とガク王様の顔を思いうかべて、何がなんでもがんばろうと決めました。

 

 おじさんのお店は、市場でも大人気なので、次から次へとお客さんが来て、目の回るいそがしさです。

「オレンジを10個ちょうだい。」

「ブドウをおねがい。そこの、つぶが大きいやつね。」

「ちょっと、こっちも待ってるんだよ。早くしておくれよ。」

「イチゴって言ったのに、さくらんぼが入ってるわよ。」

「おつりがちがうじゃないか。」

 朝から夕方まで、少しの休みもなくこんなふうで、ニコラは、お昼ごはんも、夕ごはんも、食べられませんでした。

 

「あー、おなかすいたよー。グーグーいってるよー。おじさん、早くもどってこないかな。」

 ニコラが、たまりかねて弱音をはいたとき「もし」と声をかけてきたネコがいました。黒っぽい布で深くほおかむりをしています。

「ずいぶんと、おなかがすいているようだね。何か食べてきたらどうだい。その間は、わたしが店番を代わっておくよ。」

 ニコラは、とつぜんのことでびっくりしましたが、なにしろ、おなかがすいていたので、思わず喜んで言いました。

「え、見知らぬ人だが、いいのかい?助かるよ、ほんとに。あたい、食べるの早いから、10分もあればもどってくるよ。じゃあ、よろしくね。」

 ニコラはそう言うと、飛ぶようにお店をはなれていきました。

 黒っぽいほおかむりのネコは「ひひ」と笑いました。

 5分後、お店のおじさんがもどってきました。

「おーい、ニコラ!持ってきたぞ!」

 ところが、お店にいたのは、ニコラではなく、見たこともない黒いほおかむりのネコでした。お店のおじさんは言いました。

「だれだ、おめえ。」

 ほおかむりのネコは言いました。

「わたしは、ニコラにたのまれて、店のるすばんをしていたんだよ。ニコラは、急におなかをこわして、家に帰っちまったんだ。それで、おじさんから、リンゴをあずかって、ニコラの家にとどけるように言われているんだよ。」

「ふむ。そんなことなら、ニコラが自分で書いたメモか何か、あるはずだけどな。こんなだいじなリンゴなのに。」

「い、いやいや、わたしはニコラの大親友なんだ。わたしが言うことは、ニコラの言うことだよ。よっぽどおなかが悪いとみえてね、飛んで帰っちまったんだよ、ほんとに。」

「そうか、それなら。」

 おじさんは、黒いほおかむりのネコに、紙包みをわたそうとしました。その時、

「あ、おじさーん、おかえりなさい!」

 向こうから、ニコラがドタドタと走ってきました。

「あれ、おまえさん、急にはらをこわしたんじゃなかったのかい。」

「え、なんの話だい。」

「いや、このほおかむりのやつがな…」

 おじさんとニコラがふりかえると、そこには、もうだれもいませんでした。

「あ、ほおかむりのネコね。あたいが、あんまりおなかをすかせているのを見かねて、店番をほんの少し代わってもらっていたんだよ。」

「なに、話がちがうじゃねえか。ニコラがはらをこわしちまったもんで、自分があずかって、ニコラにとどけるんだ、なんて言っていたぞ。」

「え、あたい、そんなこと、一言も言ってないよ。さっきのネコ、いったい、何者だろう。」

「ふむ。あいつ、もしかして、ピア兄弟いちみじゃねえか。」

「え、あの、ちゃっかりもので、いつも王様のごきげんをうかがっている、ピア兄弟かい?」

「ああ。今回のマウ姫様のことでも、ちゃっかり手がらをたてようと思っているんだろう。まったく、ゆだんもすきもないやつだ。」

「そうだったんだね。あぶないところだったなあ。」

 ニコラとくだもの屋のおじさんは、ほっとむねをなでおろしました。そして、ニコラが言いました。

「ところで、おじさん、リンゴを見せておくれよ。」

「おう、これだよ。」

 ニコラは、おじさんが持ってきてくれた紙包みを開けてみました。すると、中に、オレンジ色のくだものが入っていました。ニコラはまっさおになりました。

「おじさん!マウ姫様を助けるには、リンゴがひつようなのに!オレンジじゃないよ!」

「ああ、それは、リンゴだよ。ふつうのリンゴと色がちがうけどな、それほどうまいリンゴはないぜ。」

「これがリンゴ?へえ、やっぱり、いちばんおいしいものは、見た目もちがうんだね。おじさん、本当にありがとう。」

 ニコラは、紙包みをかかえて、市場を出、お城へ向かいました。


スパイス

 スパイスは、頭からしっぽまでダークブラウンで、かしこそうな顔をしています。耳が少し大きめで、その大きな耳をいつもピンと立てて、王国中のじょうほうを集めています。

 

 王国一のちえしゃのスパイスは、この世で最高のリンゴが、一体どこにあるのか、うでを組んで考えました。

「この世で最高のリンゴということは、マウ姫様がもっとも好きなリンゴのはずだ。それならば、マウ姫様がいつも遊んでいる、お城の庭にあるにちがいない。」

 スパイスは、広い広いお城の庭をさがすことにしました。

 

 お城の庭の入り口で、黒いほおかむりのネコに会いました。いっしゅん、

「ん?お城でほおかむりなんて、おかしいな。」

と思いましたが、お城はいろんな人が行きかうので、スパイスはそのまま声もかけず、庭へ入りました。

 

 お城の庭はとても広いのです。丘があれば、小川もあり、畑や田んぼがあり、林や森もあります。はしからはしまで歩くだけでも、1日かかります。リンゴの木なんて、どこにあるのか、さがすだけでもひとくろうです。そこで、スパイスはまず、マウ姫のめし使いの子ネコたちに聞いてみました。

「マウ姫様が一番お気に入りのリンゴの木が、この庭にあるはずです。めし使いさんたち、それがどこにあるか、ごぞんじですか?」

「みゃあ。たしかに、マウ姫様お気に入りのリンゴの木があります。でも、マウ姫様は、ご自分のことは、ほとんど、ご自分でされるのです。リンゴをお取りになるときも、わたしたちにひみつで行かれて、わたしたちにいつも、1つずつくださったのです。みゃあ。」

「そうなのですか。そのリンゴ、おいしいですか?」

「みゃあ。それはもう。ふつうのリンゴとは、くらべものになりません。そして、見た目も…」

「見た目が、どうかしたのですか?」

「みゃあ。赤い色のリンゴではないのです。それはそれは、きれいな緑色なんです。」

「なんと。緑色ですか!」

 

 スパイスは、めし使いさんたちにお礼を言うと、とにかくさがしてみようと、庭の森へ行ってみました。スパイスの思ったとおり、庭の森には、いろんなくだものの木がありました。

「実が緑色ということは、見つけにくいな。葉っぱと同じ色じゃないか。」

 スパイスは、森の果樹園を歩き回りました。オレンジの木、ブドウの木、バナナの木。おいしそうなくだものがたくさんなっています。お城の果樹園だけあって、どのくだものの木も手入れが行きとどき、それはそれは大きくておいしそうな実ばかりでした。もちろん、リンゴの木もありましたが、それはまっかなリンゴでした。

「たしかに、おいしそうなリンゴだが、めし使いさんたちが言っていたリンゴとはちがう。」

 スパイスは、歩いて、歩いて、とうとう、庭のはしっこの高いへいまでたどりついてしまいました。

「うーん。やはり、マウ姫様にしか、わからないのか。」

 スパイスは、へいによりかかって、しゃがみこんでしまいました。すでに日がくれかけています。山のほうからすずしい風がふいてきて、スパイスのあせをやさしくなでてくれました。

 

 と、そのとき、とてもあまい、すてきなかおりがただよってきました。今までかいだことのないかおりです。

 スパイスは思わず、そのかおりに引きよせられて、ふらふらっと立ち上がり、歩いて行きました。

へいにそって歩いていくと、小さなあなが開いているところがありました。そのかおりは、そこからただよっているようです。

「いったい、なんのかおりだろう。」

 スパイスがあなをのぞいてみると、へいの外に、小さなリンゴの木がありました。その実はなんと、緑色をしています。

「あ!緑色のリンゴじゃないか!こんなところにあったのか!そうか、マウ姫様はお体が小さいから、このあなからぬけ出されて、あのリンゴをお取りになっていたにちがいない。だから、めし使いさんたちにもひみつだったんだな。」

 しかし、スパイスには、その小さなあなをくぐることは、とてもできません。でも、手をのばせばとどきそうです。スパイスは、あなの中にうでを入れて、思いきりのばしました。指先がコツンとリンゴにふれました。でも、つかむことができません。

「へいは高すぎてこえられない、なんとか、つかむしかない。」

 スパイスはちぎれそうになるくらい、あなから何度も何度も、うでをのばしました。うでのつけねが、へいでこすれて、血がにじみ出そうです。それでもあきらめずに、根気づよく、100回目にちょうせんしたとき、ビュウーッと強い風がふきました。そのはずみで、リンゴが大きくゆれ、スパイスの手におさまったのです。

「よし!マウ姫様の一番好きなリンゴを手に入れたぞ!」

 スパイスは、うでをさすりながら、緑色のリンゴを持って、庭の出口へ向かいました。

 

 出口に着いたとき、見おぼえのある黒いほおかむりのネコが立っていました。

「おや、おまえさんは、たしか、朝もここにいたね。」

きおく力の良いスパイスは、思い出して、言いました。

「ああ、そうだよ。わたしはここで、めぐまれない子ネコたちのために、こうやって、みんなから食べ物を集めているんだ。」

 黒いほおかむりのネコは、手に持っていた大きなカゴをスパイスに見せました。そこには、魚のほねや、キャットフードのかけら、ねずみのしっぽなどが入っていました。

「そうか。いいことをしているね。わたしが今あげられる食べ物といえば、リンゴしかないな。」

 そう言って、スパイスは、今、くろうして取ってきたばかりの緑色のリンゴをカゴに入れようとしました。でも、スパイスは知っていました。朝会ったときには、このネコはカゴなんて持っていなかったことを。ほおかむりを取って、しょうたいをあばいてやろうと、すきをうかがっていました。

と、その時

「あ、このネコです。この黒いほおかむりのやつです。わたしの大切なカゴをひったくっていったのは!」

 1人のネコが、けいさつネコをひきつれて、さけびながら走ってきました。

「わたしが、まちで、めぐまれない子ネコたちのために、食べ物を集めていたら、いきなりひったくっていったんです。こいつにまちがいありません。」

「なに、こいつか。まったく、なんてやつだ。」

 けいさつネコがそう言って、「お前はだれなんだ。」と、黒いほおかむりを取ると、それは、ピア兄弟の次男でした。スパイスは言いました。

「やっぱり、ピア兄弟か。どうしておまえたちは、自分でどりょくしようとしないんだ。まったく、しょうがないやつだ。」

 スパイスは、あきれながら、緑色のリンゴを持って、お城の庭をあとにしました。


ジェイド

 ジェイドのきたえた体は、赤毛で、引きしまっています。深い緑色の目には力があります。

 

 そんなジェイドのとくぎは山登りです。ジェイドは考えました。

「空に一番近いところに、世界一のリンゴがあると聞いたことがあるぜ。ということは、この世で一番高い山、エベレネコ山のてっぺんに違いねえな。」

 ジェイドは、これまで、いろんな山を登ってきましたが、エベレネコ山は初めてです。さっそく、じゅんびにとりかかりました。山登り用のリュックに、いろんなものをつめこんでいきます。登山用キャットフード、テントにねぶくろ、雨がふったときのためのかっぱ、水とう、などなどです。

 じゅんびが終わると、ジェイドはさっそく、エベレネコ山を登り始めました。

 

 そのようすを、山のふもとの木のかげから、だれかがこっそりのぞいていました。

 

 ジェイドがふもとを出発すると、始めは、黄色やピンクのかわいい草花たちが出むかえてくれましたが、ずんずん登るうちに、じゃり道になり、足がズルズルッとすべりやすくなってきました。たおれている木も増えてきて、大きな木の下をくぐったり、上を乗りこえたりしなければなりませんでした。さらにずんずん進んでいくと、大きな岩がいくつも重なっていて、よじ登っては下り、下りてはよじ登りました。さらにさらに進んでいくと、そこは、一歩まちがえれば谷にまっさかさま。ジェイドは、さいしんの注意をはらいながら、それでも、一歩一歩、山を登っていきました。空気も少しうすくなってきたようです。

 

「うーん、さすが、この世で一番高い山。こんなに登ってきたのに、てっぺんなんて見えてもこねえや。それに、ここまで登ってきたが、リンゴの木なんて、見当たらねえなあ。つかれたし、ちょっと、休けいにするか。」

 ジェイドは、近くの岩にこしを下ろして、水を飲もうとしましたが、水とうはすでに空っぽになっていました。そこで、耳をピンと立ててみると、チョロチョロと、川の流れる音がしたので、川の音のするほうへ行きました。山の川の水は、雪どけ水が流れており、冷たくて、とてもおいしいのです。

 

「はあ、うめー。」

 ジェイドは、水をゴクゴク飲んで、顔を上げました。すると、なんと、川の向こうがわに、リンゴの木があるではありませんか。おいしそうなまっかなリンゴが、たくさんなっていたのです。

「あ、リンゴの木!」

 ジェイドは、今までのつかれもわすれて、冷たい川をバシャバシャとわたり、向こう岸へたどり着きました。そして、さっそく、リンゴをひとつ取って、かじってみました。

「う、うまい!こんなうまいリンゴ、生まれて初めてだ!」

 そう言って、あたりを見回してみると、リンゴの木がたくさんあることに気づきました。ジェイドは、いろんな木のリンゴを食べてみましたが、どうやら、やはり、てっぺんに近づけば近づくほど、リンゴはおいしくなるようです。

 

 ジェイドは、リンゴの木をたどりながら、ずんずん、ずんずん、山を登りました。

 そして、とうとう、エベレネコ山のてっぺんに着いたのです。

 みると、そこに1本のリンゴの木が立っており、なんと、青色のリンゴがなっているではありませんか。

「え、これ、リンゴか?」

 ジェイドは、おそるおそる、その青いリンゴを1つ取って、かじってみました。

「…う、うまあ!なんだ、この味。ひとくちかじると、すんだ青空のような、すがすがしい気分になるぜ。空に一番近い場所のリンゴだからな。きっと、これが、この世で最高のリンゴにちがいねえ!」

 ジェイドは、そうかくしんすると、その青いリンゴをリュックにつめて、山を下りました。

 

 山のふもとに着き、さあ、お城へ急ごうと走り出したとき、黒い布にくるまって、たおれているネコがいるのを見つけました。

「おい、こんなところでたおれて、一体、どうしたんだい。」

 ジェイドが声をかけると、たおれているネコは、弱々しい声で言いました。

「もう3日も、なんにも食べていないのです。おなかはペコペコだし、のどはカラカラ。どうしても、リンゴを食べて、おなかをみたし、のどをうるおしたいと思っていたのですが、こんなところで動けなくなってしまったのです。」

「そうだったのか。気のどくに。あ、そういうことなら、オレは今、この世で最高のリンゴを持っているんだ。これなら、いっぺんで元気になるぜ。」

「でもきっと、大変なくろうをして、見つけたリンゴでしょう。そんな大切なもの、いただけません。」

「いや、このリンゴは、山のてっぺんにあるから、また取りに行けばいいのさ。」

「そうですか。なんてやさしいおかただろう。それでは、えんりょなくいただくとしましょう。」 

 黒い布のネコは、布から手だけ出して、ジェイドのほうに差し出しました。すると、ジェイドは言いました。

「おや?3日も何も食べていないわりに、ふっくらした手をしているね。」

 黒い布のネコは、ヒュッと手を引っこめて、あわてて言いました。

「あ、これは、たおれたひょうしに、岩にぶつかって、はれてしまったのです。」

「そうか、気のどくに。じゃあ、オレが口まで持って行ってやるから、かじれ。」

「ありがとう。」

 黒い布のネコは、布から口だけ出して、ジェイドに向かって大きく口をあけました。すると、ジェイドは言いました。

「おや?3日も何も食べてないわりに、口の中は、食べ物のカスだらけだな。」

 黒い布のネコは、あわてて口をカプッとしめて、言いました。

「あ、これは、ええと、その」

 そのようすを見て、変に思ったジェイドは、黒い布をバサッと取ってみました。

「あ、おまえ、ピア兄弟じゃないか!さては、マウ姫様のリンゴを横取りして、王様に取り入るつもりだったな!」

 正体がばれてしまったピア兄弟の三男は、ジェイドのケンカの強さを知っていたので、いちもくさんににげていきました。

「まったく、ピア兄弟め、しょうがねえやつだな。」

 ジェイドは、気を取り直して、お城へ急ぎました。


ハル

 ハルは、白に黒ぶちの小さなネコ。ねるのが大すきで、1日のうちほとんどは、丸くなってねています。

 しかし、今回は、大好きなマウ姫様のために、ねむけまなこをこすりながら、いっしょうけんめい、ぼんやりと考えました。

「たしか、ゆめの中でリンゴを食べて、いちばんステキだったのは、草原の中に1本だけ立っていたリンゴの木だったなあ。あふっ。」

 ハルは、あくびをしながら、さっそく、その草原を目ざして出発しました。でも、なにしろゆめの中でのできごと。どこにあるやら、さっぱりわかりません。

「まあ、道を歩いていれば、いつかたどりつくよぅ。あふっ。」

 ハルは、あてもなく、王国中の道という道を歩き回りました。

 そのようすを、木かげから、だれかがこっそりと見ていました。

 

「あれ?ここ、さっき通った道かな。ま、いいかぁ。あふっ。」

 ハルは、いつもねむってばかりで、ろくにおさんぽにも出かけないので、道のことがよくわかりません。何度もまいごになりながら、とにかく道を見つけては、歩いていきました。

 知らない道に入ると、少し不安になりました。そんな時は

「♪ 歩こう 歩こう ネコの道。どこへも行ける ネコの道。あくびは友達 にゃーにゃーみゃー ♪」

と、でたらめな歌をうたいながら、元気を出して歩きました。ねむいのをひっしでこらえて、今にも横になりたいのをガマンしながら、とにかく、ゆめで見た草原を思いうかべて、歩いていきました。

「うーん、あの草原、やっぱり、ないのかなぁ。ああ、日がくれてきたよ。ねむたいなぁ。あふっあふっ」

 ハルは、少し休けいしようと、そばにあった大きな木の下に、とうとう横になってしまいました。そして、うとうとしていると、あの草原が、またゆめに出てきました。

「そうそう、この草原。ここに行きたいんだよぅ。」

 ハルは、自分のねごとで目をさましました。すると、目の前には、ゆめと同じふうけいが広がっていたのです。ハルは飛び起きて、あたりを見回してみました。

「・・・ということは。」

 ハルは、上を見上げてみました。すると、リンゴがなっていたのです。それは、ステキな(あい)色のリンゴでした。

「ああ、これ、これ!この(あい)色のリンゴだ!ゆめの中だけじゃなかったんだぁ。よかった、よかったぁ!」

 ハルは、木によじのぼり、その(あい)色のリンゴをとりました。

 

 そして、木を下りると、そこに、黒いほおかむりをしたネコが立っていました。

「ん?あなたは、だれだい?」

 ハルがたずねると、そのネコは答えました。

「わたしは、ゆめの中に住む、ゆめネコだよ。今は、お前さんのゆめの中にいるんだよ。」

「えぇ。これは、あたしのゆめだっていうのぉ?」

「そうさ。おまえさんは、今、ぐっすりねむっちまってる。たぶん、このままでは、ずっと起きられないと思うよ。」

「そんなぁ。それはこまるよ。あたし、マウ姫様にこの世で最高のリンゴをとどけないといけないのに。今、それを見つけたところだったんだよぅ。」

「でも、それもゆめ。早くめざめて、またさがしに行かないと、マウ姫は助からないよ。」

「で、でも、どうやって起きればいいのかなぁ。」

「それはかんたん。ゆめの中のゆめネコに、ゆめの中で見つけた一番たいせつなものをわたせばいいのさ。」

「そうなのかぁ。じゃあ、かんたんだね。この(あい)色のリンゴをわたせばいいんだねぇ!」

「そうそう。さあ、そのリンゴをわたしなさい。」

 ゆめネコは、ハルのリンゴに手をのばしました。ハルは、手に入れたばかりの(あい)色のリンゴを手わたそうとしました。

 その時、1ぴきのハチがブーンと飛んできて、ふたりのまわりをくるくる回ったかと思うと、ゆめネコの顔をチクリ!

「あいたたた!ハチにさされた!いたいよう!」

「あ、ゆめネコさん、だいじょうぶかい。…あれ、でも、おかしいな。ゆめの中では、いたさは感じないはずなのに。」

 ハルがふしぎがってゆめネコを見ていると、いたさで飛びはねていたゆめネコのほおかむりがとれました。

「あ、ちゃっかりもののピア兄弟!あたしのリンゴを横取りしようとしていたんだなぁ!」

 ピア四男は、いたさにひめいをあげながら、にげて行ってしまいました。

 そしてハルは、また、でたらめな歌を歌って、道にまよいながら、お城へと向かいました。



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