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 何を今度はネコババしてくれるのだろうかと考えていると美緒が話を続けた。「ちょっと、口では言えないのよね。ほら、アソコのアレを23本失敬してこようかなと思って。鳥羽君、欲しくない?欲しくなかったら、いいんだけど。すっごく、ネコババって、気を使うのよね。ドキドキするんだから。いらない?」23本と聞いて髪の毛なのかなと思ったが、髪の毛であれば、アソコとは言わないと思い、まさかと思った。まさか、アソコのアレって?アソコの?ゆう子姫のフサフサ盛り上がったアソコのケを想像した途端、ゴックンと生唾を飲み込んだ。こんなチャンスは二度とないと思った鳥羽は、勇気を出してお願いすることにした。「23本もいただけるのですか。まったくかたじけない。天国まで家宝としてお持ちいたします。ぜひ、お願い申し上げます。美緒オジョ~様」

 

 意味が通じたと思った美緒は、笑顔で返事した。「了解いたしたぞ。鳥羽君のお願いとあらば、命がけで頑張る。任せて。先輩って、すっごくモサモサだから、意外とうまくやれそう。これで、三種の神器の2つ目がそろうってことね。それに、もっと、二人の秘密を話してあげてもいいんだけど、ここじゃね~。あ、もう、お昼じゃない、お腹すいちゃった。鳥羽君、お昼は?」鳥羽は、腕時計で時刻を確認した。「あ~、もうこんな時間か。弁当買って帰ろうかな~」美緒が、即座に食事を誘った。「土曜日じゃない。外食したら。美緒がおごってやるから~。チャンプ・カフェ、って言うハンバーグのおいしいとこ、知ってんのよ。行かない?」鳥羽は、一応は断るべきだと思ったが、頭は、うなずいていた。

 


            決死の絆

 

 84日(日)橋の日。鳥羽は朝食を終えると、安田から昨日の夕方にかかってきた電話を思い出した。用件は、ちょっと相談したいことがあるということだった。そこで、さしはら旅館に午前11時頃に伺う約束をしていた。午前1030分になると、早速、Tシャツにライダージャンパーを着こみ、5階から一気に階段を駆け降りた。駐輪場の愛車、スズキアドレス110に駆け寄るとメインスイッチにキーを差し込み、カチッとシートを開けた。鳥羽は、トランクから赤いジェットヘルメットを右手でヒョイと取り出し、白のドライバーグローブをした。一呼吸するとサイドスタンドをカチ~~ンと右足で払い、愛車を駐輪場からゆっくり引き出し、ドスンとまたがった。

 

 左手でリアブレーキレバーを引き、右手の親指でスタータスイッチを押すとブルル~~ンシュルシュルシュルと軽やかなエンジン音が響いた。以前は、中古のスズキアドレス125に乗っていたのだったが、アドレス125のエンジンのかかりが悪いと安田に悔やんだところ、プラグを交換すれば問題ないということだったが、どういう風の吹き回しかわからなかったが、安田が乗っていた新車同然のアドレス110を譲ってくれた。

 

 平均時速約50キロで国道202号を走ると1055分にさしはら旅館の駐車場に到着した。玄関まで駆けていくとフロント前のティールームで安田が能天気にコーヒーをすすっていた。早速、安田の前に腰掛けると鳥羽は、勢いよく声をかけた。「先輩、お元気そうですね。今日は、改まってなんですか?」安田は、グラスから手を離し、首をかしげ話し始めた。「まあ、何というか、将来のことというか、就職のことというか、まあそんなところなんだが、自分で決めることだとは思うが、ちょっと、鳥羽の意見を聞かせてもらいと思ってな」鳥羽は、いつもになく深刻な話しぶりに緊張してしまった。「何か、困ったことでも起きたのですか?さしはら旅館の経営がうまくいっていないのですか?僕にできることだったら、何でも言ってください。できるといっても、皿洗い、掃除、洗濯ぐらいですが。もしかして、もしかして、浮気がばれて、追い出されたとか?」


 相変わらず、バカな妄想をする奴だとあきれたが、相談したいことは、そんなことではなかった。「いや、そういうことじゃなくて、就職先のことなんだ」鳥羽は、言っている意味がよくわからなかった。卒業後は、さしはら旅館の亭主になるわけだから、就職先で悩むというのではなく、仕事内容での悩みだと思えた。「就職先は、ここじゃないですか。どういうことですか?リノさんと喧嘩でもしたんでしょ。浮気なんかするからですよ。どこで、ナンパしたんですか、まったく」安田は、鳥羽の減らず口にうんざりしたが、心を落ち着けて返事した。「おい、俺は、浮気なんかしない。変な勘繰りはよせ。鳥羽には、黙っていたが、卒業後は、外資系の会社に就職する。カツラAIシステムズという会社だ。だから、旅館の亭主にはならないってことだ」

 

 なぜ、さしはら旅館の亭主にならずに就職する気になったのか聞くことにした。「え、就職するんですか。また、どうして。この旅館は、どうする気ですか?リノさんは、了解したんですか?先輩は、旅館の亭主が似合っていますよ。もしかして、リノさんに捨てられたとか?リノさんの肩をもむとか、足をもむとか、リノがいなければ、僕は生きていけないと言って足にしがみつくとか、まだ間に合います、土下座して謝れば、許してくれますよ」これ以上妄想されては、極悪人にされてしまうと思い、安田は、具体的な話をすることにした。「おい、俺の話を聴け。リノとは、うまくいってる。そういうことじゃなくてだな~~。俺の相談は、職場のことだ。職場というのが、イスラエルなんだ。まさか、卒業してすぐに、行かされるとは思っていなかった。まあ、1年間の研修ということなんだが」

 

 イスラエルと聞いてイサクのことを思い出した。「イスラエルにですか。もしかして、カツラAIシステムズは、イサクの紹介ですか?」ちょっと気まずくなった安田は、頭をかきながら返事した。「いや、イサクじゃなくて、ヤコブだ。仕事としては、やりがいのある仕事だと思い、就職することにしたんだが、卒業して、いきなり、イスラエルとは、面食らった。いや、イスラエルでもシリアでも、行く気はあるんだ。一度、決めた仕事だ、後悔はしていない。まあ、ちょっと、鳥羽に話したかっただけだ」鳥羽は、首をかしげて、考え込んだ。ヤコブの紹介ということは、何か裏があるとにらんだ。ヤコブが安田にどんな話をしたのか興味がわいてきた。


 ヤコブに誘られた魅力ある仕事について聞いてみることにした。「先輩、さしはら旅館より、魅力ある仕事って、どんなんですか?給料ががべらぼうにいいとか?」安田は、苦笑いしながら、返事した。「まあ、それもある。でも、それだけじゃない。日本のためになる仕事だと思ったからだ。今、若者は、貧困と不当労働に苦しみ、自殺者が増えてるというじゃないか。今の政府に頼っていては、若者はみんな殺されてしまう。そう思わないか?ヤコブが紹介してくれたカツラAIシステムズは、九州にAIベンチャー企業を建設し、優秀な若者にチャンスを与えるというものだ。また、日本人だけでなく、イスラエルの若者もやって来るという。そこで、俺たちに、日本とイスラエルの懸け橋になってもらいたいというんだ」

 

 腕組みをして聞いていた鳥羽は、もっともらしい話にうなずいたが、俺たちという言葉に引っかかった。「先輩、俺たちって、ほかにだれか?」安田は、ニコッと笑顔を作り、返事した。「九学連の三島だ。ヤツも一緒に誘われた。そこで、二人で話し合い、いい条件だというので、入社することに決めたんだ。三島は、母子家庭だろ。当初は、警察官志望だったんだが、母親の老後のことを考えると、すこしでも給料がいいところに、就職したいそうなんだ。でも、三島も、日本の若者のためになるならばと思い、カツラAIシステムズに決めたんだ。気持ちは、俺と同じだ」鳥羽は、コクン、コクンと何度もうなずいた。一呼吸おいて鳥羽は返事した。「なるほど、若者のためですか?確かに、AIベンチャー企業は、早急に求められている。それは、わかります。僕も、賛成です。でも・・」

 

 安田は、鳥羽の顔を覗き込んだ。でも、とはいったいどういうことなのか、気にかかった。「おい、でも、ってどういうことだ。いいことじゃないか。やりがいのある仕事だと思うが。何か、引っかかることでもあるのか?」鳥羽は、ヤコブが二人を誘った理由が気になっていた。カツラAIシステムズといえば、外資系の超一流の企業。F大のアホが就職できるところではない。それなのに、なぜ、ヤコブは、二人を誘ったのか?何か、不吉な予感がした。「いや、国際的な超一流企業に就職するわけですから、すごいことですよ。T大卒でもなかなか入れないと聞いています。頑張ってください。もう、入社試験は、合格したんですか?内定もらったんですか?」


 

 安田は、ちょっと不安になった。ヤコブから、就職を勧められただけで、入社試験も面接も受けていなかった。だから、当然、内定通知も貰っていなかった。もしかしたら、騙されていたのではと思った瞬間、安田の顔から血の気が引いた。だが、確かに、ヤコブはモサド採用を約束した。そうか、俺たちはモサドに採用されたのであって、カツラAIシステムズに採用されたのではない。そのことに気付いた安田は、鳥羽にはモサドのことを話すことにした。万が一、親友に話したことで採用を取り消されたならば、それでもいいと思った。というのも、なんとなく不吉な予感がした。また、万が一、何かあった時、助けてくれるのは鳥羽しかいないように感じたからだ。

 

 顔を引きつらせた安田は、ゆっくりと話し始めた。「そうか、入社するからには、入社試験も面接もあるよな。俺たちは、まったく、そんなものはない。ヤコブの言葉を信用しただけだ。しかも、今、思い出してみると、俺たちを採用するのは、カツラAIシステムズではなかった。モサドだ。俺たちは、モサドに採用されたんだ。そうだよな、超一流企業に三流大学の俺たちアホが入れるはずがない。鳥羽、そういうことだ。ヤコブは、俺たちをモサドに採用すると約束したんだ」鳥羽は、事情がつかめ、疑問が解けた。ヤコブは、二人をモサドに引き込んで何をさせるつもりなのか?鳥羽の心は、不安でいっぱいになった。「先輩、モサドに、本当に、入るつもりですか?モサドはイスラエルのスパイ組織ですよ。そんなところに入って、大丈夫なんですか?命を狙われることだってあるんですよ」

 

 安田の全身に震えが走った。モサドはスパイ組織。命が狙われる。そう思った瞬間、やはり、判断を間違っていたような気になってしまった。でも、俺たちは、承諾してしまった。特に、三島は、お金のためなら、何でもやるといっていた。三島は怖気着いて、引き下がることはないだろう。俺も、いまさら、怖くなったからといって、三島がやる限り、引き下がるわけにはいかない。しかも、モサドの話は、俺が三島に持ちかけたのだ。リノには、申し訳ないが、もはや、後には引けない。安田は、自問自答するように、つぶやき始めた。「そうだよな。スパイであれば、万が一、発覚して捕まれば、拷問にかけられる。拷問の挙句、殺される場合もある。でも、二人で決めたことだ。後には、引けない。鳥羽、万が一のことがあったら、助けに来てくれるか?」

 

 



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