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森の中に・・・

 ぼくは、森の入り口についた。

 うっそうとした木がおいしげる、大きな大きな森。

 目的地(もくてきち)は、よみがえりの泉。

 この森の中にあるはずだ。

 


はやり病

 3日前、ぼくの住んでいる村で、原因(げんいん)のわからない病気がはやりだした。

 とても高い熱が出て、

 「熱い、熱い、体が燃えそうだ…!助けてくれーッ!」

 と、たくさんの村人たちが苦しんでいる。

 

 村で、緊急(きんきゅう)の集まりが開かれた。

 「医者も、どうしようもないと言うし…。」

 「これはもう、あの方法(ほうほう)しかないのではないでしょうか。」

 「あの方法(ほうほう)…。」

 「そうです。北の森にある、よみがえりの泉の水を、病人に飲ませるのです。」

 「しかし、あの泉の話は、言い伝えであって、本当にあるかどうかわからないし。」

 「じゃあ、ほかに方法(ほうほう)があるのですか。」

 「……。」

  みんな、だまりこんでしまった。

 

 すると、みんなの意見を聞いていた村長さんが言った。

 「病気が治るかもしれないのなら、行くべきじゃ。

 この病気は、熱が10日間下がらないと死んでしまう、おそろしい病気じゃ。

 しかし、あの泉へ行って帰ってくるには7日かかるそうな。

 病気がはやりだして3日たっておる。

 とにかく急がねば。」

 

 そこで、村の若者3人がよばれた。その中の1人がぼくだ。

 村長さんは言った。

「北の森にあるという、よみがえりの泉は、本当にあるかどうか、わからない。

しかも、森には妖怪(ようかい)がいて、行ったら(もど)ってこられないとも言われておる。

しかし、病人たちは、熱が10日下がらないと、死んでしまう。

おまえたちの命の保証(ほしょう)はないし、間に合うかもわからぬが、どうか、行ってはくれまいか。」

「はい!」

と、返事をしたのはぼくだけで、あとのふたりは()げて行ってしまった。

 

 本当はぼくも、()げたかった。でももう、あとには引けない。ぼくは、よみがえりの泉の水を必ず持って帰ることを(ちか)った。


北の森へ

  ぼくは、さっそく大きなたるを背負(せお)った。

  すると、村長さんが何か持ってきて、言った。

 「これは、薬と黒ガラスじゃ。北の森に入る時に必要(ひつよう)だと言い伝えられておるものじゃ。持って行きなさい。」

 ぼくはそれをカバンに入れて、ひとりで出発(しゅっぱつ)した。

 

 森は、村の北のはずれにあった。子どものころから、おとなたちに「行ってはいけない」と言われていたので、この森に来たのは初めてだった。

 

 ふと見ると、ずいぶん古びた看板(かんばん)が2つあった。

 左側にある看板(かんばん)の砂ぼこりを落としてみると、左側を指す矢印があらわれた。そして

 「よみがえりの泉 回り道 ~安全(あんぜん)

 と書かれてあった。 

 「やった!看板(かんばん)があるくらいなら、よみがえりの泉はあるにちがいないや!」 

 ぼくは喜んだ。

 

 そして、もうひとつ、右側にある看板(かんばん)も気になったので、その砂ぼこりも落としてみた。すると、森のほうをまっすぐ指した矢印と、

「よみがえりの泉 近道 ~危険(きけん)

と書かれてあった。しかも、矢印の指している方向には、道なんてなかった。

 

 ぼくは(まよ)った。危険(きけん)な道よりも、安全(あんぜん)な道がいいに決まっている。

「でも…、7日しかないんだ、回り道をしているひまはない!村人たちを早く助けなきゃ!」

 

 ぼくは決心し、ドキドキしながら、右側の看板(かんばん)の矢印が指すほうへ足を()()んだ。何しろ道がない。ぼくはコンパスを出して、北のほうへまっすぐ向かった。


まっすぐ進め

 一歩()()んだとたん、うっそうとした森の木のせいで、太陽の光がさえぎられ、まだ朝だというのに真っ暗になった。

「いてッ」

 何かがうでに刺さった。よく見てみると、いばらのトゲだった。大きなトゲがたくさんある。でも、まっすぐ進まなければ間に合わない。

「こんな痛さ、病人たちの苦しみにくらべれば、なんてことない。」

 ぼくはそうつぶやいて、体じゅうをトゲに刺されながら、とにかくまっすぐ進んだ。

 

 やっと、いばらのしげみを通り抜けた。ケガのひどいところに、村長さんのくれた薬をぬった。

「これはすごい。キズがみるみるうちに治ったぞ!」

 すると

ガサガサッ

 いきなり、物音が聞こえた。ぼくはドキッとした。まっくらな中、音がしたほうをじっと見てみると、大きなヘビの妖怪(ようかい)が木に巻きついて、こっちを見ていた。細くて真っ赤な(した)をチョロチョロッと出している。

(こいつが森の妖怪(ようかい)か!)

 ちぢみあがったぼくに、大ヘビが話しかけてきた。

「人間が来るなんて、ひさしぶりじゃのう。」

 ぼくは、きっとこの妖怪(ようかい)に食べられるのだと思い、もうダメだと泣きそうになったけど、勇気をふりしぼってたずねた。

「ぼくを食べるつもりなのかい?」

「そうじゃな。ひさしぶりの人間じゃ。しかも若くてうまそうだ。

…それにしても、今までここに来た人間は、わしを見て、こわがって、(けん)をふりまわしたり、鉄砲(てっぽう)をうってきたりしたもんじゃよ。おまえはこわくないのか?」 

「こわくないと言ったらウソになるけれど、ぼくにはやらなきゃいけないことがあるんだ!だから、こわがっている場合じゃないんだ!」

「やらなきゃいけないこと?」 

「村に、大変な病気がはやっているから、この森の中にあるっていう、よみがえりの泉の水が必要(ひつよう)なんだ!」

「はて、泉なんてあったかな。

しかし、それなら、わざわざこんなところに来なくても、安全(あんぜん)な回り道があったじゃろうに。」

「回り道なんてしているひまはないんだ!」

 

 その時、

「あいたたた・・・」

 大ヘビ妖怪(ようかい)が、突然(とつぜん)、痛がりだした。

「どうしたんだい?」

「前に人間どもが来たときに(けん)で刺されたところや、鉄砲(てっぽう)のたまが当たったところが痛いんじゃ。わしは手がないから、どうしようもないんじゃ。」

 大ヘビ妖怪(ようかい)の体をよく見てみると、(けん)で刺されたあとや鉄砲(てっぽう)でうたれたあとがいくつもあった。

 大ヘビ妖怪(ようかい)は言った。

「おまえさん、さっき、いばらの道を通りぬけたあと、キズに薬をぬっていたな。それをわしにぬってくれたら、食べずに()がしてやるが、どうじゃ。

しかし、キズが治らなかったら、おまえさんをひとくちでいただくからな。」

「わ、わかったよ!」 

 ぼくはこわい気持ちをおさえながら、大ヘビ妖怪(ようかい)の体を頭の先からしっぽの先まで見てまわって、キズに薬をぬってやった。

 そして、(いの)るような気持ちでキズを見つめた。すると、

「こりゃすごい、痛みがまったくなくなっちまった!」

 大ヘビ妖怪(ようかい)が体をくねらせて大喜びし始めた。見ると、キズがみるみるうちに消えていった。

 ぼくは、胸をなでおろした。

「じゃあ、ぼく急ぐから、行くよ!」

「ああ、おまえさんを食えなかったのは残念だが、キズがなおってよかった。ありがとよ。」

 

 ぼくは、食べられずにホッとして、また歩き出した。コンパスを見ながらまっすぐ北へ。道なんてない。たおれた木や大きな岩、土砂がくずれたあと、全部、まっすぐ()()えた。

 

 そんな道を1日歩くと、川につきあたってしまった。流れは急で、川はばも広く、歩いてわたるのはとてもムリそうだ。

「どうだい、ここをわたるのは、とてもムリじゃろう。」

 ふりむくと、大ヘビ妖怪(ようかい)がついてきていた。

「さっきのお礼じゃ。わしが、橋になってやろう。」

 そう言うと、大ヘビ妖怪(ようかい)は川に入った。そして、頭を向こう岸につけて、しっぽをこっちの岸につけて、橋になってくれた。

「うわあ、これは助かるよ。ありがとう!」 

 ぼくは、大ヘビの橋をわたって、向こう岸につくことができた。


まっすぐ進めない

 そこからまた、まっすぐ歩いた。コンパスを確かめながら、北へ、北へ。

 たおれた大きな木を登ったりくぐったり、どろどろの深い(ぬま)でおぼれそうになったり、それでも、まっすぐ進んだ。

 

 そんな道を2日ほど進むと、大きな岩のカベがあらわれた。右を見ても、左を見ても、そのカベはどこまでも続いている。よじ登ろうと思っても、高すぎてとてもムリだ。体当たりをしてみたけれど、びくともしない。

 ぼくは、とほうにくれてしまった。

(やっぱり、回り道をしたほうがよかったかな。ここをまっすぐ進むなんて、とてもムリだ…。)

 ぼくはその場に座りこんでしまった。

 

 すると、おしりのあたりがモゾモゾと動きだした。びっくりして立ち上がると、土がモコモコともり上がって、大きな茶色い頭が出てきた。

「だれだ?おれさまの家の上であばれているやつは。」

 見ると、大きなモグラの妖怪(ようかい)だった。

「おや、人間なんて、ひさしぶりだな。しかも若くてうまそうだ。しかし、いったい何しにこんなところへ来たんだ?」

 ぼくは、今度こそ食べられるかもしれないと、ふるえながら答えた。

「村の人たちが、病気で大変なんだ!それで、よみがえりの泉の水を取りに来たんだ!」

「よみがえりの泉?ああ、この岩カベのむこうにある泉のことか。」

「え、本当かい?よみがえりの泉はそこにあるのかい?」

「ああ。わしもしばらく行ってないな。本当は、わしも泉の水が飲みたいんだ。なにしろとびきりうまいんでな。でも…。」

「でも?」

「あの泉は、とても(かがや)いていてな、わしにはまぶしすぎて、とても行くことができないんだ。」

「へえ…。じゃあ、まぶしくなければ、泉に行くことができるのかい?」

「ああ。この岩の下を通って行くことができる。おまえさんを食べれば、目がじょうぶになって、まぶしくても泉に行くことができるんだがなあ。」

「そうなのか…。」

 ぼくは、ふるえながら考えた。ここで食べられてしまってはおしまいだ。

 

「あ、それなら!」

 ぼくは、カバンに黒ガラスがあることを思い出して、それを取り出した。そして、モグラ妖怪(ようかい)の大きな頭と小さな目に合うように、黒ガラスでメガネを作った。

「これをしていけばいいよ!」

「なんだ、これは。」

「黒ガラスで作ったメガネだよ。まぶしいところに行っても、これを目にしていればまぶしくないよ。」

「ほお、こんな便利(べんり)なものがあるのか。」

 モグラ妖怪(ようかい)は、ぼくが作ったそのメガネをつけたり、はずしたり、ながめたりしていた。ぼくは、それをドキドキしながらながめていた。

 

 すると、モグラ妖怪(ようかい)は、ニッと笑って言った。

「ありがとう。これなら、泉へ行って水を飲むことができる。お礼に、泉まで道案内してやるよ。わしのあとについてくればいい。

ただし、とちゅうであきらめたら、おまえをひとくちでいただくからな。」

「ほ、本当かい?わかったよ!」

 モグラ妖怪(ようかい)は、出てきた(あな)から頭をひっこめた。ぼくはこわかったけど、急いでそのあとにつづいた。

 

 モグラ妖怪(ようかい)は下へ下へともぐっていった。ぼくは、必死(ひっし)についていった。地球(ちきゅう)裏側(うらがわ)に出ちゃうんじゃないかと思うくらい、もぐった。

 

 どれくらいもぐっただろう、とにかくひどく寒く、体が冷えきって動かなくなりそうだった。

 すると、いったん小さな部屋みたいなところにたどりついた。どうやらモグラ妖怪(ようかい)の家らしく、そこだけ一瞬(いっしゅん)あたたかかった。

 しかし、休む間もなく、こんどは、上に上に登り始めた。

 ぼくは、その部屋にとどまりたかった。それを見すかすように、モグラ妖怪(ようかい)がふりむいて言った。

「どうだ、あきらめるか?」

「いや、あきらめないよ!」

「チッ」

 モグラ妖怪(ようかい)は舌打ちした。

 ぼくは、最後の力をふりしぼって、必死(ひっし)についていった。

  

 登り続けてどれくらい時間がたったかわからない。頭はボーッとなり、手足はしびれ、体はもう限界(げんかい)だった。泉にたどりつくのは、やはり無理(むり)かもしれない、と、ぼくはくじけそうだった。でも、あきらめるわけにはいかない。とにかく、一歩、また一歩と上へのぼった。

 

 そのとき、

「ついたぞ。」

 モグラ妖怪(ようかい)の声が聞こえて上を見ると、明るい光が差し()んでいた。モグラ妖怪(ようかい)は黒ガラスメガネをして、ぼくにニッと笑ってみせた。

 (あな)から出ると、大きな大きな泉が目の前にあった。今まで見たことのない、七色の水が(かがや)いて、モグラじゃなくてもまぶしいくらいだ。

「やった!これが、よみがえりの泉か!」

 そこはとてもあたたかく、(こお)った心身(しんしん)一瞬(いっしゅん)()けた。

 

 ぼくはさっそく、せおってきた大きなたるに、その水を満杯(まんぱい)にくんだ。不思議(ふしぎ)なことに、たるは少しも重くならなかった。

 モグラ妖怪(ようかい)も、ぼくの作ったメガネをかけて、ごくごくと水を飲んだ。

「ああ、うめえ。やっぱ、この泉の水は最高だ。いいものくれてありがとよ。これからは、これでいつでも泉の水が飲める。」

「よし、じゃあ、ぼく急がなきゃ!どうやら、あと2日しか時間がない!今の道、また通らせてもらってもいいかい?」

「もちろんだ。あばよ。」

「さよなら!」 



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