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  • 自由の中に、立ちすくむ
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  • ディザータ王国東ザータ村を大火から救った英雄キャメルは、東ザータの療養所で一年ほど暮らし、犯人である実の父と戦った傷を癒す。その間に、東ザータの無職男ガイとキャメルの看護を担当していた女性ジーンは、ディザータ王国からディザータには無い『海』を見に旅に出る計画を立てる。傷の癒えたキャメルはその計画に戸惑うが、そこに男が現れ、突如、西ザータの村長の命令で、キャメルの生まれ育った西ザータ村の監視塔で、公開処刑が行われると告げる。処刑されるのは誰なのか? キャメルの出生の秘密とは? 『変異種』の正体とは?
  • 連載 長編小説 小説 友情 中世ヨーロッパ 青春 青春もの ファンタジー RPG

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  • 雨野小夜美雨野小夜美

キャメル編2

 オレは、一番年下の自分が、『海』を見に行く旅のリーダーになるというジーンの提案には、不安があった。だから療養所の西側の空き地で情けなく戸惑っていたら、空き地の西側の森の小道から、白い長いマントの男がやってきて、いきなり『大変だ』と言い始めた。

 彼は、どうやらオレに何かを伝えたいらしい。だから、オレといつも一緒にいる、ガイの居場所を訪ねて来たようだ。

 

「はあ、何が大変?」
 ガイは右手の人差し指を口のそばにもっていった。意味はよくわからない。

 

「お前の親友にキャメルっていう奴いただろ。ほら、一時期英雄とかって呼ばれてた――」

 白いマントの男は、ガイの前で片膝をついたまま、息を切らしながら話す。
「オレだけど」

 オレは、白い長いマントの男を見て言った。

 

「あっ、キャメルさんでしたか。失礼しました。実は……」
 男は、その姿勢のままオレの方を向いた。白っぽい長いマントを引きずるようにして、大通りの方から、森の細い小道を走ってきたようだ。夜でもわかるほど、雑草が引っかかって、汚れている。ガイの居場所は、知っていたらしい。

 

 白いマントの男は、オレの方に急に走って来て、願うように両手を組んだ。

「あなたの父親が、明日処刑されるそうです。西ザータの村長が初めて行う、公開処刑だそうです。――行ってあげてください。西ザータの村長を、止めてあげてください。――それ以上、僕には何も言えません」

 

 オレは父を刺したのに、まだ閉じこめられている別の誰か。『止めてあげてください』と、やるせない言い方をする白い服の男。何かがオレの心の中に、針のように引っかかった。

 

「いつ、どこで、行われるんだ?」

 オレは、腕を組んで言った。
「あの塔の中だそうです。僕は、『いつ』についてはわかりません。明日です。お役に立てなくてごめんなさい」

 

 白いマントの男が、湿った夜の草花の上に両手をついて、叫ぶように続けた。
「もう、言わせてください。これは、僕が亡くなった祖父から聞いた話の、ほんの一部です。――あなたのお父さん、あの人には、もともと家庭がありませんでした。まだ幼かったあなたを拾ったとき、あの人は東ザータ中を言葉も出ないくらいの小さなあなたを抱えて、『俺の子だ!』って見せびらかして、自慢してまわったそうです。なのに、村長の命で警備隊はあの人に罪を着せて、放火殺人犯に仕立て上げました。

 僕の祖父はあの人と付き合いがあったようで、『あの人は、放火殺人をする人じゃない』と言い残して、この世を去りました。今は亡き祖父は、それだけが心残りだったようです。――もう何とか、あの人を西ザータの村長から救ってあげてください! お願いします。あっ、言葉を荒げて、すみませんでした……」

 白いマントの男は、頭をオレに深く下げた。

 

「謝らなくていいよ。ありがとう」

 オレは、マントを払って立ち上がった彼に、片手を振った。

 

「あっ、では、失礼します」

 白いマントの男は、もう一度軽く頭を下げて、マントを引きずって森の小道へ消えて行った。

 

 

 

 『塔の中に幽閉』という、西ザータの村長の言葉。――非情に残酷な、オレの中の想像。

 もしかして、それは、世話係のオヤジではないのか?

 

 オレは、塔に十五年も幽閉されていたが、世話係のオヤジ以外の人の気配すら、感じた事は無かったのだ。世話係のオヤジは、……いつも確かに、塔にいた。

 

  オヤジとの生活は、本当に、思い出したくもない。もう両親がいない浮浪者として、一年以上生きている。塔の窓の外の世界は、自由は、怖ろしく残酷だ。でも、今のオレには目的があって、仲間がいて、ようやく、自由の中には楽しい事もある、と思えるようになった。 

 世話係のオヤジとの縁さえ、本当は切ってしまいたい。でもそう非情になれないのが、オレという心の繊細な生き物なのだ。

 

 ガイが木に登るように見えた。そういう仕草なのか。
「どうする、行く? 行くなら馬用意するぜ」
 両手で木をつかむガイは、優しいのかそうでないのかよくわからない。笑っているようにも見えた。

 

「ああ」

 オレは首だけ、後ろで会話を見ていた二人の方を向いて、言った。

 

「俺、人殺しのキャメルさんの親父さん、見たいなー。ははは! 濡れ衣?」

 ガイが、手を叩いて笑った。

 

「処刑は今夜は無いでしょうね。少し休んで、早朝から馬をとばせば、明日の朝には十分着きますよ」
 ジーンがよく通る声で言った。

 


この本の内容は以上です。


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