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目次

a man with NO mission ①

 

1 犬を介した出会いについて 179字

2 頼まれごと        305字
3 自転車にのって      520字
4 鞄の行方         385字
5 サプライズ        620字
6 区廃-第1237号      354字
7 帰郷           270字
8 回廊           411字
9 撮影           704字
10 橋の上から       499字

 


犬を介した出会いについて

1 犬を介した出会いについて

 

ある男が公園で犬を連れた女と知り合った。

 

男は彼女を気に入り、彼女の犬のことも同じように気に入った。二人は連絡先を交換し、週末になると連れ立って犬の散歩をするようになった。二人が恋仲になるのに時間はかからなかった。

 

あるとき、男が犬を撫でながら「人が死ぬより犬が死ぬ方が悲しいよね」と言った。彼女は曖昧な微笑みを返した。

 

その日を境に彼女とは連絡がつかなくなった。

 


頼まれごと

2 頼まれごと

 

喫茶店のトイレで小用を足しているときのこと、男は卵ともやしとさつま揚げを買ってくるよう妻に頼まれていたことをふと思い出した。読書に夢中になっているうちにすっかり忘れてしまったのだ。

 

およそ二時間後、二軒目の喫茶店でトイレに入ったときのこと、男は妻に頼まれた買い物のことを今また思い出した。読書に集中しているうちにまたぞろ忘れてしまったのだ。

 

帰りに立ち寄ったスーパーで、男は頼まれたもののことをぼんやり考えながら売り場をうろついた。卵、もやし、さつま揚げ。男は頼まれたものとは別のものを買った。なぜそうしたのか自分でも分からなかった。

 

家に帰ると、男はこんな簡単な買い物もできないのかと言って妻にねちねちなじられた。

 


自転車にのって

3 自転車にのって

 

ある男がバンドをやっている友人にライブに誘われた。ライブハウスがあるのは最寄り駅と同じ沿線のA駅だった。当日、男はライブハウスまで自転車で行った。電車で十五分のところを四十分かかった。「自転車で来たのかよ」男は友人に笑われた。

 

男は今度は大学の同期の飲み会に誘われた。場所は都心のB駅だった。男は自転車で行った。電車で一度乗り換えて三十分かからずに着くところを、一時間十五分かかった。同期たちは待ち合わせ場所に自転車で現れた男を不可解そうに見つめた。

 

飲み会の席で男は酒を断った。アルコールに極端に弱い体質だからだ。男はそれでも二次会まで参加し、弱々しい笑みを浮かべて隅に座っていた。会計は割り勘だった。

 

夏になると、男は職場のバーベキューに誘われた。場所は県境にある大きな川の河川敷だった。男はやはり自転車で行った。電車で二度乗り換えて五十分かかるところを、道に迷ったこともあって二時間以上かかった。「どうして自転車で来たんだ?」ある同僚が不思議そうに訊いた。男はうまく答えられなかった。

 

同僚たちがバーベキューを楽しんでいる間、男は堤防を越えたところにあるコンビニまで歩いて行って地図で道を調べた。帰りは一時間四十五分で帰ってくることができた。

 


鞄の行方

4 鞄の行方

 

駆け込み乗車に失敗し、ドアに鞄を挟まれたまま電車が動き出してしまった。男は鞄を追ってホームを電車と並走したが、結局何もできなかった。

 

三つ先の駅では友人が男の到着をやきもきしながら待っていた。次の電車が入ってくると、その友人はドアに何か見覚えのあるものが挟まっているのを見つけた。すぐに男の鞄だと分かったが、当の男は乗っていなかった。友人は、男がドアに手を挟まれたまま電車に引きずられて死んだのだと思った。

 

男の葬儀が営まれた。男は遺失物取扱所と散々やりあったあとようやく鞄を取り戻すと、あわてて自らの葬儀に駆けつけた。参列者はいずれも顔見知りだった。男はこれは何かの間違いだと訴えたが、誰一人耳を貸してはくれなかった。

 

男は仕方なく片隅で式の進行を見守った。やがて耐えきれなくなってその場をあとにすると、家に帰ってショックで寝込んでしまった。鞄は葬儀場に忘れてきてしまった。

 



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