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「いいんですか、玄関先で」

「ええ、お構いなく。家、近いですから」

 そう言ってこちらに振り返った菊乃さんは、茜空を背ににっこりと微笑んだ。その胸には、しっかりと風呂敷包みが抱かれている。

「このお茶碗、ずっと大事にします」

 私ではなく、自分自身に強く言い聞かせるように、菊乃さんは目を閉じた。

 

 小林さんが割れた茶碗を残していたのは、きっと、自分のせいで孫を傷つけてしまったことを忘れないようにするため。しかし今、その青色の茶碗は別の理由で菊乃さんの両手に包まれている。

 橙色の道を行きながら何度もこちらを振り返り手を振る菊乃さんの表情は温かく、どこかすっきりしていて、ふと小林さんのあの包み込むような笑顔と、重なって見えた。


この本の内容は以上です。


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